夏休みがもうすぐ始まる。高校最後の夏休み、久しぶりに地元のメンバーで集まろうじゃないかという話になって、俺は今、かつての同級生とともにファミレスに来ている。俺を含めて八人程度、中学の時のいつものメンツだ。夏休みが楽しみだ、とかこのメンツでプールに行こうとか、みんな夏休みのことで頭がいっぱいなようで、その話ばかりが話題にあがる。俺の斜め向かいに座っているなまえはその話をだるそうに聞き流している。こいつはあの頃から何も変わらない。夏休みだっていっても、冬休みだっていっても、全く喜ばない。むしろ「あーだるい。」が口癖で学生にとって天国ともいえる長期休業すら「あーだるい。」で流してしまう。ここに来てから約5時間。全体での会はここまでにして、あとは各々で二次会をすることになった。俺は特に用もなかったのだが、きっとあいつは帰るだろうと思って二次会には参加しないことにした。
「なまえ、帰るぞ。」
「あーうんうん。」
友人に別れを告げ、俺のもとにてくてく歩み寄ってくるなまえ。お前ら、付き合ってんの?と友人に茶化されたが、違ぇよと否定し俺も彼らに別れを告げ、店内を後にした。
なまえも中学からの友人である。なかなかクセのあるやつで、顔も中の上、ってとこ。いや、中の上の上くらいかな。性格は多分かなりのだるがり。あとは冷めている、ってとこか。中学の時、俺がこいつのこと好きだとかいう噂があったらしいけどあながち噂じゃなかったりした。でも俺もガキだったし、付き合うとかそんなん考えなくてただ一緒にいれれば楽しいと思ってたくらいだったから告白なんてしなかった。それは今も変わらない。好きか、って聞かれたら好きだって言うだろうし、でも彼女にしたいかって聞かれたら別に独占したいわけじゃないって言うと思う。というか、こいつを縛るのはきっと予想以上に大変だから。機会があれば告白でもなんでもしてみようとは思うけどそんなにがっつく程ではない。本当は好きじゃないんじゃないか。そう思ったときもあったけどそうじゃない。俺はちゃんとこいつが好きだ。うーん、なんというか。まあ簡単にわかりやすく言うと、ゆるーくこいつが好き、って感じ。
俺はチャリをおしながらなまえと並んで歩き、ふと、そこにあった駐車場を見た。そこには日陰で猫が休んでいて、そういえば来るときもここにいたなぁと思い出しながらそれを見ていた。
「あ、ニャン五郎まだいる。」
「え、あいつニャン次郎だろ。」
「違うよ、ニャン五郎だよ。」
その猫はいつもそこにいるから俺らで適当に名前を付けている。多分他にもたくさん名前があるだろう。なまえはニャン次郎(五郎)に寄るとそいつの頭を撫で始めた。ニャン次郎は気持ちよさそうに目を細め喉をゴロゴロと鳴らした。
「ニャン次郎、午前からいたぞ。」
「暑い日に日陰に入って動かないのは人も猫も同じなんだねー。」
ね、ニャン五郎!と言って頭を撫でる手を止め、なまえがこちらへ戻ってきた。そして再び俺たちは歩き出す。目の前には夕日が出ていた。すごく大きな夕日で、色は真っ赤。アスファルトはそれに照らされてオレンジ色に染まっている。そしてもう一つ、目の前にあるのは大きな大きな坂。これを越えたら長い長い下り坂が俺たちを待っているが、とりあえずこいつを登らないといけない。
「この辺、全然変わんないよね。町の方はどんどんビル建ってんのに。」
「変わんないのはお前も一緒だろ。」
「そう?どこが?」
「長期休業を喜ばないとことか。」
「だって夏休みなんて暑いだけじゃん。」
「冬休みは?」
「寒いだけ。」
「言うと思った。」
他愛もない話をしながらゆっくりとその坂を登る。夕日が俺となまえを同じ色に染め上げて、それが俺にはなんだか嬉しかった。
「そういえばさ、中学の時猩影が私のこと好きっていう噂あったよね、知ってた?」
「あー、知ってる知ってる。」
なーんだ、知ってたの。少し残念そうにそう言ってなまえは何かおもしろいことを思いついたような顔をして俺の方を向いた。
「実際、どうだったの?」
「…さ、下り坂、後ろ乗れ。」
「おーいー、話そらすなー。」
「いいから乗れっつーの、ここに置いてくぞ。」
俺が先にチャリにまたがると、後からなまえがその荷台に乗った。脇腹にあてがわれた手がくすぐったい。でもそれも懐かしい感覚だ。中学の頃はよくこの道をチャリでこいつと2ケツして帰ったから。学校の先生に見つかって怒られたこともあったけど、これが日課みたいなもんになってたからやめなかった。もっとも、こいつは俺をただ登下校に利用していただけかもしれないが別に今更そんなことはどうでもいい。結構急な坂だから、ブレーキをかけながらじゃないととんでもないスピードが出る。適度にブレーキをかけながら、俺はその坂をゆっくり、ゆっくり下って行った。重力の関係上、なまえの体はどうしても俺の背中にくっついてくる。それがやっぱ男としては嬉しいし?ましてや好きな女の子が自分と密着して、且つ女子特有の柔らかいあれが密着してんのならそれを嫌がる男は世界中どこを探してもいないはずだ。いや、いない。断言しよう。そんなことを考えてると、急にこいつを自分のものにしたくなって。やっぱ俺、こいつのこと好きだわ、うん。そう自覚せざるを得なかった。
「ねぇ猩影、さっきの話!」
「うんうん、好きでしたよ。」
「えっまじで?…今は?」
「さあ。」
「何それ!」
「なーなまえ。」
「なにさ。」
「俺ら付きあおーか。」
「は?いきなり何よ。好きとか大好きとか嫌いとか言ってから言いなさいよ。」
「じゃあ普通に好きだから付き合お。」
「ひどい、私は猩影超好きなのに。」
「あ、さっきの嘘。俺も超大好き。」
「何そのとってつけたみたいな台詞。」
もう坂道は終わるところで、会話が途切れる頃にはすでに平面の地面にたどり着いていた。お前んちに着くまで返事考えとけ、って言ったらうちすぐそこだけど。と冷めた口調で言われた。家の前に着くと、なまえはぴょん、と慣れた様子で荷台から降りた。そして俺の方を振り向き、得意の上目使いで俺を見上げる。う、俺それに弱いんだよな。
「で、返事は?」
「てか、猩影は本当に私が好きなの?」
「ずっと好きだったけど。」
「じゃあなんで言わなかったのさ。」
「なんでって…なんでだろ。」
「はぁ…、変わってないのはアンタも一緒みたいだね。」
「つーか、なまえはどうなんだよ。」
「さっきも言ったじゃん。超好きって。」
「恋愛的な意味で?」
「恋愛的な意味で。」
いつから?って聞いたら中学から好きだったって。じゃあなんで言わなかったのかってさっきのなまえと同じ質問してやったらさあ、なんでだろう。と、俺の返答と似たような言葉が返ってきた。俺ら、似た者同士だなって笑って。夏休みはクーラーのきいた部屋でデートすることを約束して、俺らの夏は今、スタートした。
夏色―夏はまだ、始まったばかり。
「なぁ、たまには外でプールとか…。」
「絶対嫌。プールよりクーラー。」
「個人的に水着とか見たかったり…。」
「断固拒否。変態。卑猥。」
***
先日、ニュースにゆずがでてて、
夏色歌ってたので書きたくなりました。
夏色って、本当に青春!
青春をそのまま歌にしたって感じ!
ああいう、抽象的でなくて
現実味を帯びた(?)歌も
大好きです。想像しやすい。←
ゆるゆるな大人な恋愛。
すごく素敵。
がっつかないけど、
すごく好き、みたいな。
三次元ではおこらないよね、うん。
諦めてるよ私は。