初めてのキスは想像とは明らかにかけ離れていた。いつだったかな、雑誌でマシュマロみたいな感じとかレモン味だとか見たことがあるけど全然そんなもんじゃない。マシュマロより柔らかいしレモン味なんてもってのほか。無味、でもないけど味なんかほとんど感じなかった。…まあ、レモン味は一種の表現技法の1つだろうけど。
「…どーよ?」
「…いや、想像と違う…。ってかアンタ何してくれんのさ」
「何って…。キス?」
「だからなんでアンタが私にキスすんのさ。」
しかしまあ、何がいちばんかけ離れていたかというとキスをする相手だ。私の初キスを奪った張本人、幼なじみの牛頭丸は特に気にする素振りも見せず側に転がっていたペットボトルの水をごくごくと喉を鳴らして飲み始めた。
事の始まりは約10分前。私は暇つぶしのためいつものごとく牛頭丸の家へ遊びにきていた。牛頭の部屋にあった男性雑誌にキスの仕方とか行為の仕方とか、いろいろ書いてあったから何気なく牛頭にこう尋ねてみた。
「キスってどんな感じすんの?」
「は?」
「は?じゃなくて。私まだしたことないしさー。あんた経験豊富でしょ、教えてくださいよ」
牛頭は結構モテる。学校で女の子と一緒にいるとこを何度もみたことがある。しかも毎回違う女の子。でも彼女がいる、という話は聞いたことがないから俗に言うタラシじゃないかな。だから経験は豊富だろうと私は勝手に思った。まったく、最近の若者は。幼なじみがそんなんだから私は面倒を見るつもりでこいつといつも一緒にいる。そう、面倒見てるだけ。それ以上の想いなんかない。
って自分に言い聞かせるのもそろそろ疲れちゃったな。でも本当のことなんか口がこめかみまで裂けても言えない。今の関係が壊れるのも嫌だし、何よりこいつに遊ばれるのが嫌だ。だから今のこの状態が私には丁度いいのかもしれない。
「おい、教えろ。」
「人にものを頼むときはそれなりの態度をとらねーとなぁ?」
「めんどー」
「何か言ったか?」
「…牛頭さーん、教えてくださーい。一生のお願い。」
「3回」
「え?」
「お前の一生のお願い、今月3回目」
そういえばそうだったかも、というと牛頭は呆れた顔をして私のいるベッドに腰掛けた。
「一生のお願いって、一生に一度しか使えねーんだぞ」
「それは一生に一度のお願いでしょ。私のは一生の(内の何回目かの)お願いだからねー。」
「超自己中じゃねーか」
「牛頭に言われたくない」
会話をしながら雑誌を読み進めていくといかがわしい写真やらがいろいろ出てきて、牛頭はこれを見て研究してんのかなーとか牛頭と一緒にいた女の子達はこんなこと牛頭としたのかなーとかそう考えたらなんだか悲しくなった。
「お前あんまそーいうとこ見んなよ」
「いーじゃんか別に。牛頭はこれ見て誰と何をしてんのかと思ってねー。」
「は?何もしてねーし」
「とぼけるなタラシ野郎」
わけわかんねえ、と言い牛頭の眉が少し八の字になる。目を細め、黒目が下を向く。なぜ、そんな顔をするんだろう。その表情は昔っから変わらない。昔、牛頭が私のおもちゃを壊してしまったときも同じ顔をしていた。ごめん、って謝ってきた牛頭に許さない、って言ったら牛頭は思いっきり泣いちゃった。泣いてる牛頭はあの時以来見てないな。
「仕方ねえな、教えてやるよ」
「まじで?ありがとー。」
「ほら、とりあえず起きろ」
「やだ。」
「起きねーと教えねえ。」
「…わかりましたー。」
うつ伏せで肘をついて雑誌を読んでいた為肘には軽くシーツの痕がついていた。その部分が少しだけ痺れている。私が起き上がるとベッドに腰掛けた牛頭もきちんとベッドに上がり、私と向き合う形になった。
「はい、教えて」
「知らねえ」
「は?ふざけるな」
「ふざけてねぇよ。したことねーからわかんねぇ」
「ふざけてるだろ!タラシ!経験豊富だろ!教えろ!」
「…俺はいつからタラシになったんだよ」
「だってよく学校で女の子と一緒にいるじゃんか。見る度違う女の子と。」
そうだよ、いっつもじゃん。そのまま一緒にどっかいっちゃうじゃんか。教室とは逆のほうに。あの時間に牛頭とその子が一体何をしてるのか、私はそれを考えていつも悲しくなっているのに。ここにきてとぼける気か。
「つまりあれだろ、お前、それやきもちだろ」
「違う。調子にのるな」
「…はぁ、お前はほんとに…」
素直じゃねえなあ。
そう聞こえたのと同時に視界が定まらなくなり、唇には生ぬるくって柔らかいものが重なった。初めての感覚に戸惑うがそれが何なのかすぐにわかった。今私、牛頭とキスしてるんだ。マシュマロみたいとかレモン味とか雑誌に書いていたけど全然そんなもんじゃなかった。ただただ、幸せで。感覚をわざわざ実践で教えてくれたことに疑問を抱かず私はされるがままにじっとして目を閉じていた。数秒後、ゆっくりと牛頭の唇が離れる。私もそれを合図にゆっくりと目を開けるといつもの無表情な顔で牛頭が私を見つめていた。
これが、今起こった話。
「…どーよ?」
「…いや、想像と違う…。ってかアンタ何してくれんのさ」
「何って…。キス?」
「だからなんでアンタが私にキスすんのさ。」
水をごくごくと飲む牛頭の横で思考が戻った私は先ほどまでの幸せな感情ではなく悲しさに襲われていた。牛頭とキスできて嬉しい。しかし、だ。こいつにとってこのキスはただのキスで。私はただ遊ばれたんだ。そう思うと悲しくならずにいられない。
「牛頭は誰にでもキスするの?」
「だからしたことねぇっつの。何回言えばわかるんだお前は」
「だっていっつも女の子とどっかいくじゃん。なにしてんの。」
そこまで言うと、目頭が熱くなり自然と涙が出てきた。止めようと思い、ぐっとこらえるがなかなか止まってくれない。泣いてるのを見られたくなくて、手で涙を拭う。
「…もう牛頭キライ…」
「…キライとか言うな」
「や、ちょっと!離せ!」
涙を拭っていた両手を牛頭に抑えられ、顔を隠すものがなくなってしまった。
「まずなぁ、お前が見た女共は俺には関係ねーんだよ」
「…どーゆーことよ」
「あれ、猩影の取り巻きだから」
「しょーえい…って5組の?」
「それ。あいつモテっからな。」
牛頭曰わく、あの女の子たちは猩影に話しかけたいとか手紙を渡してほしいとかそういうことを牛頭に頼みに来ていたのだとか。牛頭は猩影と同じ委員会で結構仲良しだからそれ繋がりらしい。だから俺はタラシじゃねえ、って最後に付け足して牛頭の解説は幕を閉じた。
「ほんとに?」
「まじだって」
「じゃあ私の勘違いじゃん、恥ずかしいね」
「フン…、俺は好きな奴にしかキスしねぇよ。」
「へー…。私も好きな人としかキスしたくない。」
端から見たら、変な会話かもしれない。けどこれは私達にとって告白と同じだったから。2人で笑った後、もう一度キスをした。
with―今までも、これからも。
「レモン味じゃなかった」
「なにがだよ」
「キス。」
「さっきスルメ食ったからな」
「…ばか」
***
アンケートで一番多かった
牛頭で甘夢でした!
幼なじみで学パロという
素敵な案をいただいたので
それに則ったつもりでしたが
見事撃沈/(^o^)\あちゃ!
よくあるパターン!あちゃ!
こちら、一応フリーという
名目をつけてしまったので
フリーにいたします。(笑)
持ち帰りはご自由に、です。
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