5月5日、こどもの日。国民の祝日の一つでありGW中でもある。今日はその5月5日であるが私はどこかに遊びに行く、という事が出来なかった。


「なまえー、来たぞー。生きてるかー。」

「熱くらいで死なないよー。」


ガチャリ、と部屋のドアノブが下がりお見舞いに来てくれた猩影が入ってくる。いつも通りフードを深く被り、右手にはスーパーの袋が握られていた。袋は少し透けていて、冷えピタのパッケージが見える。なぜ子供用を買ってきたんだ猩影くん。せめて女性用にしようよ。


「ばーか、熱で死ぬ奴日本に53人くらいいるよ、多分。」

「53人って何さ。それに多分ってアンタも適当な男だね。」

「適当が売りだからな!」

「…嘘つけ」


その時、部屋にピピッ、という音が鳴り渡った。それは私の脇にある体温計から出た音で、体温を無事計り終えたことを私に知らせた。スウェットの首もとから手を入れ、それを抜き取る。


「38.9℃…」

「うっわ、やべーじゃん。なまえ温暖化してんじゃん」

「…なにそれ笑えない」

「渾身のギャグだったのに」


つまんない、というとちぇ、とそっぽを向かれた。猩影にギャグセンスは正直全くない。フードからちらりと見えた猩影の横顔がこの世のものとは思えない位…というか本人曰わくこの世のものじゃないらしいんだけど、とにかくすごく綺麗だった。


「つーか、お前薬のんだ?」

「飲んでない、まずご飯食べてない。」

「食わねーと飲めねーだろ。…粥作ったる粥。」

「作れんの?」

「馬鹿にすんなよー?そんくらいできるわ。」


たしかに猩影は1人暮らしだし自炊もしているようなのでお粥くらい作れるだろう。そういえばそうだったな、と思いそれ以上何も言わずに猩影に任せることにした。すでに喋るのも怠いくらい私の体は熱で茹で上がっている。二十分程でお粥が出来上がり、土鍋を持った猩影が私の元へ歩み寄ってくる。猩影の大きな両手には、私の小さな鍋つかみがはめてあって少し手がはみ出していた。しかもピンク色の鍋つかみ。なんとも不釣り合いなその光景に思わず笑ってしまいそうになる。


「卵使ったかんな、栄養あるぜ」

「わー、卵粥大好きー。いただきまー…」

「だめ、おあずけ!」


なんでよ、と頬を膨らまし猩影を見る。蓋を開けた土鍋の中のお粥はつやつやしていて、おいしそうだった。早く食べたいのに、おあずけだなんて何て鬼畜な男なんだ。すると猩影はスプーンを手に持ちニコッと笑った。そしてスプーンでつやつやな、卵のたくさんのった部分を掬うと自分の口元に持っていきフー、フー、と息を吹きかける。


「ほれなまえ、あーん」

「子供じゃないんですけど」

「え!?違った!?」

「本気で言ってるあたりかなりむかつくね。冷えピタも子供用じゃなくて女性用買ってきてよばか。」

「っはは、悪い悪い!でもま、今日くらい子供になってもいーんじゃねーの?子供には優しくしてやるよ。」


だってこどもの日だし、と言って私の口元にスプーンを運ぶ。それもそうか、と納得して(納得した私もおかしいのだが)お粥ののったスプーンを口に含んだ。表面は猩影が冷ましてくれたおかげでぬるくなっていた。口の中でバラバラになったお粥は、中のほうが熱かった。表面だけ冷めていて、内部は冷まされていないようだ。なんだか私みたいだと思った。猩影、私ね、表面上は冷たいだろうけど本当は猩影といると気持ちが熱くなっちゃうんだ。嬉しくて、楽しくて、でも恥ずかしくて。なかなか素直になれないけどそれをちゃんとわかってくれるあなたがとても大切だよ。なーんてね。柄にもないことを思い浮かべながらお粥を次々に口に入れる。半分くらい食べると、もう私のお腹は満たされていた。いつもなら全部食べれるのに。食欲がないってのは厄介だ。


「もう食わねーの?」

「…お腹いっぱい」

「じゃー俺が食おっと」

「うつるよ」

「別にかまわねーよ。なまえの風邪菌ならありがたいね」

「…私は看病しないよ」

「ひっでーなあ。まずお前は、薬のめ」


そう言って袋からだした薬は粉剤で、薬が苦手な私は思わず顔をしかめた。薬はうまく飲み込めないから嫌いだ。食べ物は勝手に喉を通るのに薬のことは拒否してしまう。そうしてる間に粉末が広がって口中が苦くなる。その時の味を思い出したら嗚咽しそうになった。


「ほら、飲め」

「…粉は嫌だ」

「わがまま言うな!子供じゃあるめーし」

「今日だけ子供でいいって猩影が言ったんじゃん。」

「…あぁ!そうだったな。」


さすが、自称適当な男だ。この短時間で自分の発言を忘れていたらしい。どうすっかなー、と猩影は私に薬を飲ませる作戦を練り始める。部屋の中をぐるぐるまわったり部屋に入ったり出て行ったり。しばらくその様子を見ていたがやがて何かを思いついたのか顔を輝かせながら猩影は部屋に戻ってきた。


「なまえ!」

「なあに」

「ちゅーしようぜ、ちゅー。」

「なっ 嫌だよ!うつる!」

「いーじゃねーか、一回だけでいいから!な?」

「えー…」


どうせなら一回だけ、なんて言わずにたくさんしてほしい。なんて口が裂けても言えない。


「満更でもなさそうじゃねーか、よし、するぞ!」


そう言うと、なぜか猩影はすぐそこにあったコップを手にとり水を口に含んだ。不思議に思い、何してんの?と尋ねようと口を開けた瞬間、猩影の唇が私のそれに重なった。それと同時に、口を開けていた私の口内に冷たい液体が侵入する。びっくりして、喉をゴクリとならしながらひとのみにしてしまった。それを確認するように猩影の舌が私の口内を探り、やがて唇が離れた。


「ちょっと、水…!あれ、苦っ!え、何これ!」

「はっはっは、引っかかったな!お前の口に薬を流し込んだ!」

「猩影!ちょっ…!最低!」

「これだから子供は手がかかるぜ」



最悪だ最悪だ。口の中には飲みきれなかった粉末が残り口内で溶けて苦味がでる。何が優しくする、だ。何がこどもの日だ。一生恨んでやる。


「うえー、苦いいいあああ」

「仕方ねえなあ、口直ししてやるよ」



















こどもの日の大人達
―俺が、面倒みてやるよ!



















口直し、と言ってもう一度重ねられた唇はやっぱり苦くって。でもこうやって飲ませてくれるなら苦い薬も悪くないかもなあ、なんて思った。

















***


猩影くん夢読みたい!
って方が結構いらっしゃって、
そういえば短編書いてないなー
って思ったので書いてみました。

猩影くんが看病にきてくれるなら
超高熱でも私は耐える!←
薬の飲ませ方がロマンチックなのは
私の妄想の賜物です。


薬、すごく苦手です。
見ただけで吐きそうになります。
というか、昔は薬飲むたびに
吐いてたので薬の意味な…
/(^o^)\ww

猩影くん学パロ連載とか
したいかもなー。
猩影くんに限らず
学パロ連載したいかもなー。
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