あ、やばい。落ちる。


なんとも言えない浮遊感がゾクゾクとした刺激と共に私を襲う。たった今、学校の南棟二階の上から八段目、そこから足を踏み外しました。短い人生だったな。なんだかんだで楽しかったな。ああ今週のジャンプ買ってないや。続き見たかったな。後悔は、それだけだ。普通にこんな高さから落ちても最悪、足をくじくくらいだろう。なぜ死を覚悟しているかというと、私の目の前にはある人物がいるからだ。髪に赤メッシュを入れていて超長身のあの人。不良で有名で何か気にくわないことをしようものなら命はないと噂される、あの人。私がここから落ちたら確実に、ぶつかってしまうだろう。そして私の命はそこで消えゆくことでしょう。ああお父さん、お母さん、いままでありがとう。


赤メッシュのその人と階段から落ちるまでずっと目があっていた。お願いだから、逃げてください。私の命が危ないので。あろうことか赤メッシュのその人は階段を駆け上がってきました。さらにあろうことか私の体をふわりと受け止めました。


「おい、大丈夫か?」


あ、あれ。なんだかイメージと違う。おいコラテメーふざけんなよとか言われるかと思っていたが初めて聞いた優しい声に少し安堵する。


「…おーい?」

「ど、どうもありがとうこのご恩は一生忘れませんがあなたは今すぐ忘れてくださいそしてさようなら!」


きっと罠だ、油断させて捕まえる、とんでもない罠だ。そう思い私は自分が何を言っているのかもわからず立ち尽くす赤メッシュの彼をおいてすぐにその場を立ち去った。



* * *



「ねえなまえ!」

「なあに」


次の日学校へ行くとすぐに友達Aが私に話かけてきた。


「猩影っているじゃん?あの不良の人!」


ギクリ。いいタイミングで赤メッシュの彼、猩影の名前が出てきた。


「そ、それがどうしたの」

「なんか昨日放課後さー、階段から落ちてきた人を助けたらしいんだけどその人すぐ逃げたんだってー」

「へ、へー…」

「で、探してるらしいよー。なんだか物騒な話だねー!」


アハハ、と何の気なしに笑う友達A。おい友達A、私はどうなるんだ。見つけだされたら踊場とかに呼ばれて八つ裂きにされるのか。それとも私が女なのをいいことにあんなことやこんなことをさせられてしまうのか。その日から私は赤メッシュの彼に怯え、物影にかくれる生活を始めた。とりあえず二週間、逃げた。二週間も会わなければさすがに諦めるだろう。だが念には念を。私は卒業するまで赤メッシュの彼から逃げることを心に誓った。


「日直ー、これ放課後教材室に持ってってくれなー」


と先生が声をあげた日、私はたまたま日直であった。お、重いだろう…!!!!女子にこれは重いだろう…!!私の手には前が見えないほど高く積まれたダンボール。高く積まれたといっても二段しか積まれていないが。女子に対してこれは鬼畜だ。放課後の南棟、二階階段。ここの上から八段目で足を踏み外した記憶がある。まだ新しい記憶だ。両手にはダンボール。だがまた踏み外すようなヘマはしない!なぜなら今日はこの間のように目の前の赤メッシュにびっくりする必要はないからである。はっはっは!余裕だ!


「おい、お前っ!」


え?と声のした方角、踊場を挟んで一つ上の階段に目を向ける。すごく背の高い、男子生徒。髪は、赤メッシュ。ん?赤メッシュ?や、奴じゃないか!!!!私の頭は真っ白になり、ふらりと力が抜ける。


「危ねえ!」


そう言われたコンマ5秒後、ズドンと階段の下へダンボールが落ちた。中に入っていたノートや教材が、バラバラに散らかっている。本来なら私の体も一緒に落ちていたはずなのだが、私の体は大きくて温かいものに包み込まれていた。


「あ、あのー…」

「お前はいつもこっから落ちんのか?」


ええ、あなたのせいでね!とは言えず、後ろから抱き寄せられた状態でどうすることもできずに冷や汗をかいて突っ立っていた。さて、私はこのまま赤メッシュの彼に何をされるのか。


「すいません、土下座でもなんでもするのでとりあえず離れてください」

「ん?ああ、おう!わりいわりい…」


私と彼の体が離れ、向き合う状態になる。改めて見ると、かなり大きい。何がって、身長がね。


「あのよ、」

「は、ひぁい!」


また優しくする作戦か、いや待て。なんか顔が真っ赤だぞこいつ怒るのか?怒られるのか私は。


「名前…とクラス」

「…が?」

「教えてくれよ」

「へ?」

「あとよかったらアドレスと番号と住所と誕生日と血液型を…」

「いや、それはちょっと…」



なんだか、思ったより全然普通の人だ。どうやら周りが彼を勝手に不良にしたてていただけで、中身はとっても普通の男の子であった。


「あとよかったら結婚を前提に俺と付き合って下さい」


前言撤回、彼はとっても変な人であった。


















恋に落ちた
―階段から落ちた君に!


















「階段から降りるときは俺を呼べ!」

「え、なんで」

「お前いっつも落ちるだろ!ってことでアドレスを…」

「目的はそれか」
















***


学パロっていうか、
猩影くんって普通に
学校に通ってたよね?
狒々さま亡くなって
学校やめたよね?多分。

階段でロマンス、
うーん青春。
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -