「痛たたたた…。痛いよ竜二くん。痛いよコレ。」

「やせ我慢なんかしてるからだ。さっさと腕を出せ。」


いつものように土手で暇つぶしにお昼寝(夕方寝)をしていたら妖怪が現れたので、退治しようとしたら怪我をしてしまった。妖怪が急に現れたもんだからびっくりして咄嗟に粉雪を召喚したから何が起こったかなんてよく覚えていない。でも頭を落ち着かせて冷静になった時には既に、襲ってきた妖怪は私の足元で気絶していて、大事には至らなかった。が、腕を切られたらしい。遅れて鈍い痛みが走った。そこへ同じ学校の生徒と思わしき男の子がやってきて妖怪について質問攻めするもんだから帰るに帰れない。しかもお前呼ばわりするもんだから名前を教えてやり、彼の名も尋ねると彼が花開院家の竜二くんだということが判明した。花開院家―…全国規模で有名な陰陽一家だ。みょうじ家とも多少の関わりがあるらしく、たまに花開院家の者がみょうじ家に出入りしているのを見かける。身元が分かり、且つ相手が自分と同じ陰陽師であるのなら隠さなくてもいいだろう。私はそう思って、竜二くんに式神・粉雪を見せた。そうしてあーだこーだしているうちに、私の怪我に気付いた竜二くんが手当のために私を花開院家に連れ込んだ、というのがここまでの流れだ。それにしても、まさか花開院の者が同じ学校だったなんて、びっくりだ。

治療のため連れてこられた部屋はこれでもかというほど殺風景。空き部屋なのだろうか、生活感がこれっぽっちもない。しかし部屋の隅には綺麗にたたまれた布団とたくさんの書物があるからもしかしたらここは客間か何かかもしれない。竜二くんに言われた通りに切られた右腕を出すと、竜二くんはそっと傷に触れた。ズキッと痛みが走る。んっ、と小さく悲鳴を漏らし顔をしかめるが、我慢しろと言われてもう一度傷に触れられた。どうやら傷の度合いを調べていたようだ。次に、しみる消毒液で傷口を消毒され、ガーゼを宛がい包帯を巻かれる。竜二くんは多少荒治療だが慣れているのかテキパキとその作業をこなした。


「傷は浅いようだがガーゼはこまめに替えろ。痕が残らんといいがな。」

「お気遣いありがとう。でも痕くらい残っても大丈夫さー。」

「お前女だろーが、痕が残ったら嫁の貰い手がいなくなるぞ。ただでさえ馬鹿っぽいのに。」

「失礼だよ竜二くん。普通はそこで『俺が貰ってやるから安心しろ』って言うんだよ。」

「…はっ、誰がお前みたいな馬鹿を嫁にするか。」


気のせいだろうか、なんだか一瞬、竜二くんの表情が曇ったように見えた。少しだけ重くなった空気をはらいたくて、疑問に思っていた部屋について尋ねることにした。


「ねえ、この部屋って客間?」

「俺の部屋だ。」

「え、嘘、殺風景!普段部屋で何してるの?」

「特に何もしねえよ。本読んだり、寝るだけだ。」

「物置いてないんだね。なんで?」

「…"跡"を残さないため。」

「…え?」

「いや、なんでもねえ。」


竜二くんの目が、どこを捉えているのかわからない。"跡"を残さないため、とは一体どういうことだろう。私はさっぱり理解できなくて、悶々と考えを張り巡らす。きっと彼"も"何か爆弾を抱えているヒト。結果、それしかわからなかった。とその時、竜二くんの視線が私に戻ってきたのをなんとなく感じた。気付かないフリをしていたけれども、竜二くんの手が私の顔に伸びてきたのを感じるると、さすがにそちらの方を向いた。竜二くんの顔がとても近い。うわ、綺麗な顔。…じゃなくて。


「な、なななな何っ!」

「…顔にも傷がある、見せてみろ。」

「いや、大丈夫だよ!」

「顔だぞ?それこそ痕が残ったらどうする。お前は一生独身だ。」

「一言余計だな!どこに痕が残っても大丈夫ですから!」

「いいから見せろと言ってるんだ!」


スパン。襖が開く音がした。襖に背を向けて座っていた私はゆっくりそちらを向くと、にっこり笑顔の女の人が立っていた。


「竜二〜!今日は久々に私が料理をつくったのよ〜!お友達もよかったら…って、お友達じゃないわね!お邪魔してごめんね!」

「…母さん。」

「え、竜二くんのお母様!?」


竜二くんのお母様はとても綺麗な方で、ちょっとだけ竜二くんに似ていた。でも待ってくださいお母様、お邪魔なことなんてないんですが。と言いたいところだが、今の私達の体勢を見たら誰でも誤解してしまうだろう。竜二くんが私の顔に手を置き、顔が近い。…大変な誤解をされてしまった。


「なんや、兄ちゃん彼女連れてきたんか。えらいべっぴんさんやんなあ!」

「ゆらまでこなくていい。そしてこいつはそんなんじゃない。」

「まあまあ二人とも、彼女さんもいることだしみんなでご飯にしましょ!」

「母さん、話を聞いていたか?こいつはそんなんじゃない。」


竜二くんがいくら言ってもお母様とゆらちゃんという子は囃し立てるのをやめない。私はその光景を見て、微笑ましく思いつつもどこか嫉妬していた。





―タダ、ウラヤマシイトオモッタ。
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