落ち着け私。良く考えろ、思い出せ。目の前にいる妖怪は一体なんだ。記憶を一つ一つ確かめるように思い出す。翼の折れた妖怪、私はあの妖怪に会ったことが…ある…?
――――…
『陰陽師の娘よ、その封じられた力を私によこせェェェっ!!!』
―封じられた力…?
『邪魔するな陰陽師ィィィ!!!ガッ…アアアアアァァァアッ…!!!』
(なまえ、大丈夫だったか―…?)
―お父様…?助けに来てくれたの…?
『よくもっ…、許さんぞ陰陽師ィィィィィッ…!!!』
(なまえっ!逃げっ―…)
―お父様っ…!?お父様ァァァァァァアア!!
――――…
「なまえっ!!」
刹の声でハッとした。ザシュッ、と嫌な音がしたコンマ数秒後、身体に激痛が走った。思い出すのに必死で、避ける方が疎かになっていたため攻撃を受けてしまった。うっ、と一瞬身を屈めたが、すぐに先程思い出したことが頭をよぎる。そうだ、すべて思い出した。こいつがお父様を殺めた張本人。折れた翼はお父様がやったものだ。相打ちになったと聞いていたが、どうやら生きていたようだ。ふつふつと湧き上がる怒り。それとともに他の"何か"が湧き上がってくる。なんだろう、体が熱い。体内は熱いのに、感じるのは冷たさ。深手を負った右わき腹を抑えながら、妖怪をギロリと睨みつける。
「アンタ…絶対に許さないから…。」
許さない。許さない。アンタだけは。身体のどこからか、感じたことのないような巨大な力が湧いてくる。陰陽師の力、霊力。それがとまることなく溢れだす。溢れたそれは私の身体を包んでいく。さっきから感じていた冷たさは私の霊力だった。止まらない、どこまでも膨れ上がる。
「…まずい、封印が解けたか…!っなまえ!!落ち着け!!」
刹の声が聞こえた気がしたが、自分の憎しみの声しか聞こえなくなっていた私の耳には遠く遠くにしか聞こえなかった。
―キオクハナクナラナイ。