翌日、午前の授業が終わってすぐに裏庭へ向かった。最近ではなまえと昼飯を食べることが日常化していて、また、それを楽しみにしている自分がどこかにいる。馬鹿で単細胞な友人たちには相変わらず誤解され続けているが、それを嫌に思わない。嫌じゃないから否定もしない。というか、単に否定するのが面倒なだけだ。裏庭へ行く途中、自販機の前を通る。…そういえば、なまえはいつも飯の時に飲み物類を持ってこない。そのくせ咽やすい。自販機の前に立ち止まり、しばらく考え込む。何か買っていってやろうか、しかしなんだか気が引ける。うーんと眉間に皺を寄せたが、気付くと俺の後ろに何人か並んでいたから勢いで俺の好きな茶を買ってしまった。


「あ、来た来た!いつもより遅かったから来ないかと思ったよー。」

「ふん、そんなに俺に来て欲しかったのか?」


冗談混じりにそう聞けば、うん!と笑顔で返されてしまった。こんなに素直にそう言われてしまえば、どうしたらいいかわからない。目をあちこちを彷徨わせ、あー、と動揺をごまかす。買ってきた茶をなまえに向かって放り投げると、なまえは上手くキャッチした。


「お茶?もしかして私に買ってきてくれたの?」

「お前は毎日毎日咽すぎだ。茶くらい持って来い。」

「わー、ありがとう!今日の昼食は特に咽やすいやつだからどうしようかと思ってたとこ!」


なまえが笑いながらそう言って取り出したのはコンビニの袋。中にはサラダとサンドイッチが入っていた。なるほど、確かにパンは咽やすい。なまえはサンドイッチの袋を手際よく開けた。その手は小さく、しなやかだ。自分のとは違うそれに、しばらく目を奪われる。なまえのひとつひとつの動きに自然と目がいってしまう。ダメだこれ、重症だ。


「?どうしたの竜二くん、いただきますしようよ。」

「っあ、ああ。」

「じゃ、いただきまーす!」

「…いただきます。って、」

「ん?」

「なぜ今日は弁当じゃないんだ?」


さっきまでは何の違和感もなかったが、こうしていつもの位置にいつものように座ると、いつもはあるはずの桃色の弁当箱がないのは不自然な光景に見えた。「お泊りだから」とだけ言われれば、理解に苦しんだ。おそらく、うちで弁当を作るわけにもいかないからコンビニで済ます、ということなのだろう。余計な気をつかわんでも、きっとうちの母さんがなまえの分も勝手に作るだろうに。

食べ終えた後はそれぞれ教室に戻って午後の授業を受ける。今日の最終授業は数学だった。このクソ眠い時間帯にクソ眠い科目を持ってくるとは。時間割を決めた教師を滅してやりたい。とは言っても、別に苦手なわけではないからさほど嫌な顔をせず、適当に授業を聞く。眠気と退屈さで欠伸が出る。窓の外を見ると、校庭ではどこかのクラスが体育の授業をしていた。このクソ暑い中、ご苦労なこった。とその時、見たことのある顔が見えた。そいつは100メートル走のスタートラインに友人とともに並ぶ。ピストルの音とともに一斉に走り出した。中盤から差がつく。そいつは残り50メートルというところで先頭に出た。ぐんぐん2位との差をつけ、ぶっちぎりの1位。…なかなかやりやがる、あの女。嬉しそうに友達に囲まれているそいつ―、なまえから目が離れない。授業終了後、後ろの席の馬鹿で単細胞な友人に「お前ずっと外見てたよな!」とからかわれたのはまた別の話。


「ごめん竜二くん、着替えてたら遅くなっちゃった。6時間目体育でさー!」

「…お前の足の速さに免じて許してやる。」

「っ、見てたの!?」

「見えただけだ。ほら、さっさと帰るぞ。」


1人で帰り慣れた道を、今日は2人で歩く。少しずつ、俺の日常が変化する。それに伴って、気持ちがだんだん穏やかになっている。なまえと出会ってから、数えてみればまだ数日。こいつには人を惹きつける不思議な力があるのかもしれない。そうでなければ、この俺が、こんなに。




―ココチヨイ、ニチジョウ。
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