「竜二。」
「ん。」
「お前はなまえが好きか。」
なまえが茶を淹れてくると言って出て行ってからすぐに、刹が俺に言った。危なく読んでいた本を真っ二つにするところだった。俺はほんの上から目を出し、刹を見る。先程とは違う、真剣な目つき。何を言おうとしているか、全く読めない。
「…嫌いでない。」
「…まあそれだっていい。頼みが、あるんだ。」
「頼みだと?」
「…さっき、見ただろ?当主…なまえの母親を。」
「ああ。…なまえを見るあの目つき、本当に母親なのか疑ったがな。」
「…なあ頼む、竜二…。なまえを、助けてやってくれ…。」
刹が、床に跪いた。その声はとてつもなく切ない。なまえはまだ戻ってこない。(きっと今頃当主に捕まってる。)刹がそう言った瞬間、俺が昨日見たなまえの寂しげな顔の理由がきっとここにあると確信した。とにかく、事情を話すように俺は刹に言った。