放課後、といってもまだお日様はだいぶ高い位置にある。次々に校門から出て家へ帰宅する生徒たちを1人1人確認するように軽く一瞥。みんな、まっすぐに自宅に帰るのだろうか。それとも友達とどこかに寄り道したりして、夜遅くに帰ったりするのかな。で、親に怒られたりして。それをうざいとか、面倒くさいと思うのが普通なのかもしれないけれども、私は一度だってそんな風に思ったことがない。思わせてももらえない。むしろ、羨ましくさえ思う。


「…ぃ、おいって。」

「っ竜二くん!いつの間に!って、いひゃい!いひゃいれす!」

「さっきから話しかけてるのに気付かないお前が悪い。」


竜二くんが私の頬を思いっきり引っ張ったせいでほっぺたがヒリヒリする。手を離したあと、顔を覗きこまれて「真っ赤だぞ」とクツクツと近距離で笑われたら目線をどこに置けばいいのかわからなくなった。行くぞ、と言われて竜二くんはズカズカと歩き出したけど、普通私の家に行くなら私についてくるもんじゃないのかな。そう思ったけれども、竜二くんが私の後ろなんか絶対に歩かないだろうな、竜二くんらしいと言ったら竜二くんらしいな、と思って黙ってついて行く。途中で竜二くんのクラスメートの人たちに遭遇して、竜二くんがひやかされていた。なんだか申し訳ないけど、そんなに否定されたらちょっと傷つく。なんで傷ついてるんだろう、その答えは敢えて導き出さない。愛されない私が、そんなこと。

もうすぐ家に着く。門の前では刹が仁王立ちしていて、私たちの帰りを待っていた。よ、と刹が竜二くんに挨拶したけれど、竜二くんは刹の頭部をじーっと見た後、まだアホ毛が立ってるぞ、と言って意地悪な笑みを零した。


「てめっ、人が挨拶してんのにそれは無視か!アホ毛はどうでもいいんだよ!」

「お前煩いな。滅するぞ。」

「俺は人間だ!ったく、人がせっかく茶菓子買ってきてやったっつーのに…。」

「刹ありがとーね。じゃ、とりあえず中入ろうか。」

「なまえ、」

「何?刹。」


(当主と雪芽(ユキメ)様がもうお帰りになってる。)(しくった、もうそんな時間だっけか。)(竜二、追い返されたりしないか?)(大丈夫だよ、お母様のことだから花開院の人間だって言えば快く迎えるよ。)(…それもそうかもしれないけど…。)


「なまえ、刹。何コソコソ話してやがる。」

「なーんでもないよ竜二くん!さあ、行こう行こう!」


不思議そうな顔をしながら、竜二くんは私の後に続く。出来る事ならお母様に出会わずに私の部屋に行けたらよかったのだが、どうやらそうもいかなそうだ。本宅の玄関の前には既にお母様と何人かの門下生たちがいて、私達の行く手を塞いでいた。ここを突破しないと、中へは入れない。お母様の顔を見ただけでなんだか気が遠くなりそうになったが、倒れていられない。動悸がする。竜二くんが私の顔をチラリと見たが、応対する余裕なんかなかった。


「お帰りなまえ。…その方はお友達かしら?」

「…そうですお母様。遊びに来てくれたのでそこを通してください。」

「そうしたいのは山々なんだけど…なまえ、わかってる?」

「…お母様、この人ね、花開院さんちの竜二くん。」

「…そう、花開院さんの…。竜二さん、よくいらっしゃいました。」


やっぱり思った通りだ。お母様の表情はコロリと逆転し、満面の笑みに変わる。何故か竜二くんも満面の笑みになってるけど、アレが俗に言う営業スマイルだろうか。さらに竜二くんはどこからかお菓子屋さんの袋を取り出し、お母様に手渡している。なんて用意周到なんだろう。多分、竜二くんのお母様の言いつけだろうな。

私と竜二くんと刹はなんとか私の部屋にたどり着いた。ふー、と私と刹が安堵のため息を漏らす傍ら、竜二くんはさっそく本棚をあさり、クッションを座布団代わりにして座った。私はまだ胸の動悸がおさまらず、大きく深呼吸をする。自分の部屋だからにおいなんてわからないけど、なんだかひどく安心した。「俺、お茶淹れてくる。」と刹が部屋から出て行こうとしたが、きっと今出て行ったらお母様に捕まってしまうだろう。刹に被害が出ないよう考慮し、私が行くよと言って部屋を出た。案の定、水場にはお母様がいて、私は潔く連行されたけれど。




―ジユウ?ソンナモンジャナイ。
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