なまえと出会って2日後、そういえば昨日はあの土手になまえはいなかった。午前の授業が終わり俺は教室で一人本を読みながら弁当を食っていた。別に友達がいないわけじゃない、あいつらは単細胞だから一緒にいると疲れるんだ。どうでもいい噂話ばかりして、くだらない。受験生なら受験生らしく勉強だけしていればいいんだよ、ったく。
「おい、花開院〜っ!。」
「なんだ。」
「あれ、あれだよっ!」
あれと言って友人が指差した方向は教室の出入り口。そこにはなまえがいた。なぜここになまえがいる。というかなぜ俺の友人はこんなに興奮している。…ああ、思い出した。俺がなまえの名を聞いたことがあるのは恐らく、友人がこうやって騒いでいたからだろう。少なからず人気があるらしい。見た目は悪くないがあいつは馬鹿だぞ。って、馬鹿なこいつに言っても無駄だな。
なまえはキョロキョロと教室内を見渡し、誰かを探していた。…手に体育着を持っているからおそらく俺に用があってきたんだろう。そう思ったが自分から出て行くのもなんだか気が引けて、気付かないフリをした。(竜二くんいますか。)(花開院ならあそこだよ。)雑音に混じってそんな会話が聞こえてきた。それからすぐに俺の目の前になまえが現れて、やあ!と煩いくらいにあいさつされた。こいつのこの元気は一体どこからやってくるんだ。
「これ、ありがと。返しそびれちゃってごめんね。」
「…ああ。」
「あっ、ちゃんと洗濯したよ!?」
「わかった、わかったから静かにしろ。」
「あと、これ…、」
なまえが俺に差し出したのは綺麗にラッピングされた小さな何かだった。なんだこれは。プレゼントにしたって、今日は俺の誕生日でもなんでもないし、ましてやなまえが俺の誕生日を知っているはずがない。
「ハンカチも洗ったんだけど、綺麗にならなくて。だから代わりに!」
「別にんなもんお前は気にしなくていーんだよ。」
「そういうわけにもいかないよー。とにかくこれはお礼だからさ!受け取ってください。」
なるほど、これを買いに行ったから昨日は土手にいなかったのか。もらっておく、と礼を言って(俺なりに精一杯のお礼)包みを受け取る。俺となまえの会話が終わったのを見計らって、先程の友人がなまえに話しかけている。(なまえちゃん、アドレス教えてよ〜!)(ごめんね、携帯家に忘れちゃって。)…また携帯を忘れたのかこの女。じゃなくて、なんだかなまえとこいつが話してるのを見るとイライラする。嫉妬とかじゃない。単に周りで騒がれて煩いだけだ。と思う。適当になまえから友人を追っ払って、教室から出してやる。しつこい友人たちは教室の中からまだなまえに手を振ってる奴もいる。なんて単純な、なんて馬鹿なクラスメートたちなんだろう。
「ね、竜二くん一人でお弁当食べてるの?」
「あいつらと一緒に食うと飯がまずくなる。」
「そんなこと言ったら失礼だよ、…じゃあ一緒に食べよっか!」
「はぁ?」
「いいじゃんか、私も一人だし!明日お昼に裏庭ね!決定!」
「…どちらかというとお前もあいつらと同レベルな気が、」
「なに?」
「いや、なんでもねえ。…わかった、気が向いたら行ってやる。」
と、その時丁度よく予鈴がなった。次移動教室だった!とあわただしく去っていくなまえを見えなくなるまで見送ったあと、俺は静かに教室に入った。が、瞬間煩い奴らに囲まれた。
「りゅーうーじーくーん、どういうことかなぁ〜。」
「…何がだ。」
「何がだ、じゃねーよ!お前いつの間になまえちゃんに手出したんだよー!」
「俺があいつに手を出す?ふざけたことを言うな。」
「くっそー!まさか花開院にしてやられるとは!」
「だ か ら!違うと言ってるだろうが!」
「…なかなかやりよるな、花開院。」
「人の話を聞けお前らぁぁぁぁああああ!!!」
煩い煩い煩い。なぜ俺の周りはみんなこんな奴らばかりなんだ。この調子じゃこいつらなまえの所に後で聞き込みを入れに行きそうだ。それだけは阻止しなければ。…馬鹿で単細胞なクラスメートに手を焼く時が楽しいと思う日がくるなんて、想像したこともなかった。というか思いたくなかったが。なぜだろう、ただ消耗していくだけだった日常を、ここ数日で噛み締めたいと思ってしまうようになった。
―スコシダケヤサシクナレタ。(気がする)