私は今日から2年生になる。去年のクラスは楽しかったといえばそうであるが、特別印象に残っている出来事がない。私は特に意識していなかったが、去年私がいたクラスはいわゆる落ちこぼれ組というか、とにかくあまりよろしくない生徒が集まったクラスであった。そうは言ってもみんななかなか個性のある人ばかりで、退屈せずに一年を過ごすことができた。あのクラスに未練なんかないはずだったのに、なんだか今になって少し寂しいと思う。そんなことを考えながら玄関先に張り出されたクラス替え表に目を通す。私の目の前には人だかりができていて、みんな自分のクラスを確かめている。友達同士で手を取り合いキャッキャと浮かれる女子や、ハァとため息を漏らしこの世の終わりみたいな顔をしている男子。みんながみんな満足できる結果にはならないけど、クラス替えはやっぱりいいと思う。出会いの幅が広がるし、それによって自分の刺激にもなる。何をやっても普通な私が、もしかしたらその刺激によって、何かに関して人並み以上のことができるようになるかもしれない。私もこのクラス替えに大きな期待を抱いていた。…小一時間前までは。









「…なんで?」

「おいおいみょうじひどいじゃねーか、先生の顔見て第一声がそれかい?今お前不細工だぞははは!」

「一言余計です。なんでまた先生が私の担任なんですか、っていうかなんでクラス全員替わってないんですか?嫌がらせ?新手の嫌がらせですか?」

「つーか俺の席があそこなのが気にいらねえ!」

「はっは!みょうじも牛頭丸も…嬉しいからってそんなにっ痛っ蹴るな!痛ェっ!」

「さあ鯉伴先生、どうして私たちのクラスは替わってないのか35字以内で簡潔に述べてください。」



小一時間前、クラス替え表を見た瞬間、私は違和感を覚えた。見たことのない名前が並んでいるはずのそこには、見たことのある名前しかなかったのだ。見間違いだと思い、目をこすってもう一度よく見たがやはり先程と変わらない。印刷ミスか何かだと祈り、近くにいた先生に尋ねたがそうではないらしい。見たことのある名前しかない、つまり去年と変わらない面子であるということ。確かにさっき少しだけ寂しいとは思ったが、何もこんなところで私の願いを叶えてくれなくてもいいと思う。それはもっと肝心な時に…、と話が逸れたが、行く場所の無い私はとりあえず表にある2年Z組の教室に向かって歩き出した。だいたいZ組ってなんだよ。隣のクラスはG組なのに、いきなりZ組ってなんだよ。そういえば去年もだった。去年もなぜかI組だったが、何か意味はあるのだろうか。教室に着くと、見慣れ過ぎた面々が私と同じような顔をしてそれぞれ座っていた。黒板にあった座席表をみて、私も指示された席に座った。それから5分程して、にへらにへらと気持ち悪いほどに笑顔の鯉伴先生が教室にやってきたもんだからクラス代表として私と牛頭丸が先生に攻撃を仕掛けた、というのがこれまでの流れだ。


「いやあ、だってお前らみたいな問題児、バラバラにしたら大変だろ?ははは!」

「句読点含んで35字っ…すげえな先生、俺参ったわ…。」

「「「そこっ!?」」」

「分かればいいんだ牛頭丸。さ、席につけお前ら。HRやるぞー。」


クラス一同、牛頭丸の言動に気が抜けたのか、激しくツッコミを入れた後は大人しくなった。私はふと、教室内を見渡した。隣の席はクラス一、いや学校一天才な河童で、その隣は毛倡妓だった。私の斜め後ろには牛頭と馬頭、さらにいとこである猩影の仲良し三人組がいた。私の後ろの後ろには鯉伴先生の実の息子であるリクオがいて、教卓の前には鴉天狗三兄弟がかたまっている。氷麗と倉田くんは比較的遠い場所だがメガホン常備のこの教室では距離なんか関係ないだろう。


「ま、そういうわけで今年もお前らの担任を務めることになった奴良鯉伴だ。俺の紹介なんかこんくらいで終わらせて、質問あるやついるかー。」

「はーいせんせー!」

「なんだ馬頭丸。」

「なんでZ組なんですかー?」


あ、それ私も気になってた。興味があったから、鯉伴先生の回答を少しドキドキしながら待った。毛倡妓も、そういえばそうよねぇと怠そうに机に肘をつきながら言った。河童はフゥとため息を漏らしてつまらなそうにして、まるで答えがわかっているみたいだった。いや、わかっているんだろう。天才だから。鯉伴先生ははっはと笑いながら黒板に、新しい白いチョークで2年Z組と大きく書いた。


「ほら!2年の2とZ組のZ、似てるだろ?」

「そ、そんな理由…?」

「そうだぞ馬頭丸!何でも理由なんて些細なもんなんだ。」

「っはーい!先生!」

「ん?どうした猩影。」

「もしかして1年ん時I組だったのって…」


答えは聞かなくてもわかっていたから、自然とみんな呆れ顔になっていた。私たちの担任はとてもいい先生だとは思うけれども、こういうおかしなところがあるから時々困る。こういうところがいいといえばそうでもあるのだが、先生一人の我がままがクラスの名前を変えるというのは結構すごいことではないか。それもそうか、この学校の校長先生はぬらりひょん先生で、鯉伴先生のお父さんだもんね。ぬらりひょん先生もぬらりくらりとして適当な人だし、鯉伴先生なんかご覧の通りだし、リクオもこんな感じだからこの一族はとても賑やかそうだ。


「もちろん、1年の1とI組のIが似てるからだ!」


期待通りの答えが返ってきて、もはやすべてがどうでもよくなって(決して悪い意味ではない)、私は机に突っ伏した。


「ねぇねぇみょうじさ〜、」

「なあに河童。」

「この調子でいくと来年はE組になる気がしない?」

「…確かにそうかもね。」


河童がいう事に間違いはないからきっと来年もこの面々で、さらにクラスはE組になることだろう。来年の事はさておき、鯉伴先生の発言に牛頭丸馬頭丸猩影が反論しているのを見て、ああ今年も波乱万丈な1年になりそうだなあと思った。


















新学期
―打ち砕かれた期待を胸に!
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