「みょうじせーんぱい!今帰りですか?」

「あー確か君は梓君。うん。今帰りです。」

「僕のこと覚えててくれたんですね。嬉しいです!」


居残りの委員会活動が終わったから帰ろうとしていたら弓道部の部室の前で一個下の梓君が私に話しかけてきた。この間月子と廊下で話をしていたらこの子が来て。それが初対面だった。月子が一生懸命梓君の紹介をしてくれたっけな。弓道部のスーパールーキーで、とにかく凄いらしい。第一印象としてはルックスよし、声よし。噂に聞くとかなり自信家らしいけど、ナルシストってわけじゃなさそう。とにかく一言にまとめると、嫌いじゃない。それだけ。モテそうだなあ。それだけ。


「先輩、寮まで送っていきますよ。」

「だだだ大丈夫だよ!」

「僕が送りたいんです、ダメですか?」


こんなことサラッと笑顔で言うもんだから照れる。でも照れたなんて知られたくないから一生懸命平静を保ってじゃあ勝手に送ってください、なんて可愛くないことを言ってみた。梓君は嫌な顔一つせずに、はい、勝手に送りますと言って笑った。


「みょうじ先輩って、ツンデレなんですか?」

「は?誰がツンデレだって?」

「みょうじ先輩、ですよ。ははっ、夜久先輩の言うとおりですね。」


月子め。明日覚えておけ。すっかり梓君ペースに飲み込まれてしまった私はその後もツンデレツンデレと言われそのたびにムキに反応してしまった。これじゃあまるで自分でツンデレを肯定しているようなもんじゃないか。梓君はムキになる私を見てあははと笑う。その顔が可愛くてドキドキしてるなんて絶対言わない。しばらく歩くと私の寮が見えてきた。寮に着いたら梓君とお別れ。これでからかわれなくて済む、清々する。と思ったのと一緒にちょっとだけ寂しかった。あーもう、私は多分今彼の計算通りに心が動いているんだろうな。全部お見通しって感じの梓君の自信あり気な顔。おかしいな、梓君を見ていると調子が狂う。そんなこんなしているうちに寮の前に着いてしまった。私はすぐに中に入らず、立ち止まって梓君に話しかけた。


「送ってくれてありがとう。お礼に明日ジュースでもおごってあげるよ。」

「お礼なんて、僕が勝手にしたことですから。でも、本当にお礼をくれるならジュースじゃなくて、他のものでもいいですか?」


なんて傲慢な野郎だ。でもまあ、嫌な顔せず送ってくれたし。楽しかったし。…仲良く、なりたいし。ちょっと自分に素直になってみたら傲慢な野郎という言葉は自分の中で撤回できた。梓君の欲しいものなんだろう。あんまり高くないものにしてほしいな。今月のお小遣いもう残り少ないんだよな。


「いいよ、何が欲しいの?」

「先輩が欲しい、って言ったらくれます?」


赤面。私は頬が真っ赤になるのを感じた。梓君の顔が見れない。でもあの余裕の笑みで私を見てクスクス笑っているに違いない。思い切って顔をあげて梓君の顔をみたら、予想通り余裕の微笑みだった。なんでそんなに余裕なんだ、もう。


「それは…ダメです…。」

「あははっ、やっぱ突然はダメですよね。」


恥ずかしくって、どうしたらいいかわからなくって、俯き加減にお断りした。冗談が過ぎる、この子。先輩、携帯貸してください。突然そう言われて、何も考えずに携帯を梓君に渡すと、梓君は反対の手に自分の携帯を持ってなにやらピコピコし始めた。


「じゃあ今日は、アドレスと電話番号だけもらっていきますね。次は必ず先輩をもらいますから。」


そのセリフとニコッと笑う梓君に私の心臓はバクバク。からかうな!って怒ったらからかってませんよ、とまた余裕の笑みを浮かべた。じゃあまた明日。そう言うと梓君は私に背を向けて、歩き出そうとした。刹那、私の口が勝手に開いた。


「あ、梓君!」

「はい、なんですか?」

「その…部屋についたらメールしてね。あ、安否確認するから!」

「先輩…。はははっ!みょうじ先輩って本当に…!」

「な、なによ!」

「あははっ、別になんでもないですよ。ただ、可愛いなあって思って。」


じゃあ後でメールしますね。そう言って私の頭をくしゃくしゃに撫でた後、梓君は射手座寮に向かって歩き出した。私はすぐ部屋に駆け込んで行った。心臓がバクバクうるさかったのはきっと走って部屋まできたせいだ。梓君がかっこいいとか可愛いとか、梓君の事が好きだとか、絶対そんな理由じゃない!


















ツンデレメランコリー
―素直になってよ、私!


















木ノ瀬です。無事、部屋に着きました。
明日も勝手に送ってもいいですか?

嫌味ったらしくそうメールがきたもんだから
勝手に送ってください。と返信した。


















***


ツンデレって相当扱いにくいと思うんですけどあずにゃんはいとも簡単に攻略しそう。(笑)
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