みょうじ先輩が教室で寝ていた。今は放課後で、教室には先輩以外誰もいなかったし僕は遠慮も何もせずに教室に入っていった。机の上には学級日誌が広げられているからどうやら今日はみょうじ先輩が日直だったようだ。女の子特有の丸みがかった字で書かれていたそれを見て少し笑みを漏らす。感想欄が三分の一程しか埋められていない。書いている途中で寝てしまったんだろう。まったくこの人は。男子ばかりのこの学校で放課後居眠りをすることがどれほど危険なことなのか全くわかってないんだから。僕はとっても不安なんですよ?あなたが誰かに襲われちゃったら、って考えるとね。
みょうじ先輩の長い前髪が顔にかかっていたからそれを直す。そうしたら先輩のかわいい顔が丸見えになって、ついつい見惚れてしまった。可愛くて愛しくて。僕は素直に頬を綻ばせ、先輩の髪を撫でた。
「せーんぱい、今日も可愛いですね。」
そう呟いても先輩は起きる気配がない。いつもなら真っ赤になって照れ隠しに怒るのに。その顔が見たくてやってる部分もあるから、ノーリアクションなのはちょっとつまらない。頬をツンツンしてみたけど、やっぱり起きない。耳に息を吹きかけてみたけどうーんと唸っただけで起きてくれそうにない。はあ、今ならこの人を襲っても誰も文句は言わないと思う。とその時、先輩が眉間にシワを寄せてムニャムニャと寝言らしき言葉を紡ぎ始めた。
「ずさ…く…。あずさ、くん…。」
「っ!」
あずさくん、梓君。みょうじ先輩は僕の名前を呼んだ。夢に僕が出てきてるんだ。すごく嬉しい。でも先輩?本物の梓君がここにいるんですからいい加減夢の世界の梓君からさようならしてくれませんか?ちょっとだけ夢の中の僕に嫉妬した。我ながらどうかと思うけど、それくらい先輩は僕にとって大事な人。絶対誰にも渡したくない人。この"僕"だけを見ていて欲しい。夢なんかじゃなく、現実で。そう感じて、僕は先輩の唇にキスをおとした。先輩は誰にも渡しません。たとえ夢の中の僕にだって、あなたは、あなただけは、渡すことはできない。ゆっくり唇を話すと、そこには目を開けた先輩の顔があった。寝起きの重たい瞼を一生懸命に開いて、僕を見つめていた。先輩の瞳には"僕"が映っている。それだけで安心する。
「おはようございます、先輩。あれ、あんまり驚かないんですね。」
「…これは…夢?」
「いーえ、ここは現実です。まだ寝ぼけてるんですか?先輩、何の夢見てたんです?僕のこと呼んでましたよ。」
「梓君と教室でお喋りしてる夢…。」
「へえ。それだけですか?」
「喋ってたら梓君が…。」
そこまで言うとみょうじ先輩は顔を赤くして目を逸らした。この反応は照れてるとか恥ずかしいときにやる先輩の癖だ。おそらく、夢の中の僕と何か恥ずかしいことでもあったんだろう。
「夢の中の僕が、先輩に何をしたんです?」
「…今日も可愛いですね、って言って頭を撫でてくれて…。」
「…はい、あとは?」
「ほっぺツンツンされて、耳に息フーってやられて、あと…。」
「…先輩、もしかしてずっと起きてました?」
先輩の夢は僕がさっき先輩にしたことと同じ。だから本当は先輩起きてたんじゃないかと思ったけどそれはないか。だって先輩に可愛いって言うと耳まで真っ赤になるし。さっきはならなかったから完全に寝ていたはずだ。
「そのあと、夢の中の僕は先輩にキスしましたよね?」
「…!な、なんでわかったの!」
「それはですね、さっき先輩が寝ている間に僕は先輩の頬をつっついたり耳に息を吹きかけたりした後にキスしたからです。途中まで経過が同じだったので、もしかしたらと思ったんですけど。当たっちゃいましたね。」
「…デジャヴ?これデジャヴって呼んでいいの?」
「先輩の唇、おいしくいただいちゃいました。」
そう言うと、先輩は真っ赤になって、寝てる間にヒドイ!ってちょっと怒った。寝ている先輩が悪いんですよって言い返したら、頬を膨らませてしまった。そんな顔したって可愛いだけなのに。先輩、これ本当に無意識?僕をこんなに夢中にさせて、どうしたいんですか?
「ほら先輩、いつまでもむくれてないでさっさと日誌書いてください。」
「梓君、部活は?早く行かないと!」
「先輩が書き終わらないと行きません。」
「え、でも」
「早く行かないと宮地先輩に怒られちゃうなー。」
「…超特急で書きます!」
シャーペンを手に取り、猛スピードで紙の上にペンを滑らせる。あっという間に感想欄は埋まって、さあ行こうと促された。もう少しゆっくり書いていてくれてもよかったのに。そう思ったけど本当にそろそろ部活に行かないと宮地先輩に怒られちゃいそうだったから口にはしなかった。教室から出て、廊下を歩きながらみょうじ先輩と会話をする。
「先輩、もう教室で寝ないでくださいね。先輩は危機感がなさすぎです。」
「…教室じゃなかったら寝てもいい?」
「ダメです。寮で寝てください。あ、でも僕の前でならいつでも寝てもいいですよ。大歓迎です。」
キスしまくりますから。遠慮しときますって断られたけどそれが本心じゃないのはいつもの先輩の癖から読み取れた。
可愛いくて素直じゃない僕の女神様。
寝ても覚めても
―"僕"だけを見ていてくださいね?
「木ノ瀬!遅いぞ!何をしていた!」
「そうですね、宮地先輩的に言うならふしだらな事ですかね。」
「っ!俺がその根性叩き直してやる!」
***
初 スタスカ夢☆きらっ
宮地の口調がわからんー!(笑)
これからスタスカ増えます。