お昼時、食堂はいつもより空いていた。別に僕は宇宙食だから食堂じゃなくていいんだけど、何故か今日は食堂でゆっくり食べたい気分だった。空いているといってもそれなりに人はいるから空席を探し歩いていたとき、僕の目に彼女が映った。


「みょうじせーんぱいっ」

「わーぁ、梓くん。」

「先輩っていつも棒読みで驚きますよね。」


みょうじ先輩の座っている席は四人掛けで、隣には夜久先輩、向かい側には七海先輩と東月先輩がいた。それぞれの先輩にも軽く挨拶をする。テーブルの上を何気なく見るとみょうじ先輩以外の三人の皿はきれいさっぱりで、みょうじ先輩の皿には2、3個のおいしそうなサンドイッチが乗っていた。食うの遅ぇよみょうじ!と七海先輩が言ったのに対してみょうじ先輩も、哉太は食べ方が汚いんだよ!と反撃する。そこから言い合いが発展して、夜久先輩と東月先輩が仲裁に入る。本当に仲がいいな。あと一年、僕が生まれるのが早かったらもっとみょうじ先輩と近かったのかな。みょうじ先輩と二人でいるときには感じなかった年の差。みょうじ先輩が同級生たちに囲まれているのを見ると嫌でも距離を感じる。その時、夜久先輩が七海先輩と東月先輩の耳を借り、なにやらひそひそと内緒話を始めた。三人は顔を見合わせて、よし、というと席を立った。


「みょうじが遅いから俺ら先に行くわ―。」

「木ノ瀬君、お昼まだだろ?よかったらみょうじと食っててくれないか。」


キョトンとする僕に、夜久先輩がみょうじのことお願いね、とこっそり耳打ちをする。そのあと夜久先輩はにっこりと意味あり気に微笑んだからこれはきっと僕に協力するよ、とそういう意味なんだろう。


「ありがとうございます。」

「…なんで梓君がお礼言ってんの?」

「さあ、何ででしょうね。」


何も知らないみょうじ先輩の前に腰を降ろす。僕は宇宙食を取り出すとテーブルの上に広げた。みょうじ先輩はおお!と目を輝かせて宇宙食を見る。初めて見たのか、興味津々のご様子だ。食べますか?と問うと、いらないよ!とすごく欲しそうな顔で言われたから思わず笑ってしまう。


「な、なんで笑うの!」

「いやだって先輩、そんな欲しそうな顔していらないと言われても…っはは!」

「っもう!笑い過ぎだよ…!」

「っあはは、すみません。でも先輩、我慢しなくていいですよ、はいあーん。」

「っ!」


顔を真っ赤にさせる先輩。何やってんの!と言われるかと思いきや、少し躊躇った後僕の方を一瞥してから遠慮がちにストローを咥えた。僕は正直驚いて、でも嬉しかった。チュー、と啜る先輩が可愛い。ストローから口を離すと、先輩は目を合わさずにごちそうさまですと言った。


「結構おいしいんだね。」

「そうですよ。バリエーションも豊富だし、飽きることはまずないですね。」


そう言って僕がストローを咥え宇宙食を食べ始めると、あ!とみょうじ先輩が大声をあげた。その顔は真っ赤で、僕はその赤の理由を知っていたから、おかしくて仕方なかった。ちょっと、苛めたくなっちゃうな。


「あっああああああ梓くん!」

「ん?どうしたんですか先輩?」

「あのー、そ、それ…!」

「どれですか?」

「ス、ストロー…」

「ストロー…が何ですか?」


その先をなかなか言えずにみょうじ先輩は口ごもってしまう。わかってるでしょ…!とちょっと怒りながら僕に理解を求めてくる先輩。まったく、そんなに可愛い反応されたらもっと苛めたくなるじゃないですか。


「わからないですねー。答えは先輩から聞きたいです。」

「わかってるじゃん、その言い方…!」

「まあ正直わかってますけど、」

「じゃあいいじゃん!」

「先輩のこの可愛い口から聞きたいんですよ、ダメですか?」


あー、と頭を抱え込むみょうじ先輩。十中八九、今彼女の顔は真っ赤。ツンな先輩ももちろん可愛いけど、デレた先輩に敵うものなんてこの世に存在しないと思う。やばいな、やばいな。そんなことを考えていたらふいに先輩が顔をあげて僕の目を見た。やはりその顔は赤くて、羞恥心からか涙目になっている。それ、誘ってますか?誘ってますよね?ここが食堂じゃなかったらさすがの僕も抑えらなかったですよ。


「そのっ…間接…キス………だからやめてください…。」


本当に、ここが食堂でよかった。色んな思惑が胸の中をもわもわと行き来するが、簡潔にまとめるとそれが僕の今の気持ち。僕は余裕なふりをしてニコリと微笑み、よくできました、と先輩の頭を撫でた。あーもう、本当に可愛い。もっとこの余韻に浸っていたいたいがどうやらそうもいかないらしい。時計を見るとお昼休みも残りわずか。早く食べないと次の授業が始まってしまう。


「先輩、早く食べちゃいましょう?」

「あ…うん、食べよう食べよう。」

「サンドイッチ、美味しそうですね。」

「美味しいよー、錫也特製だからね!梓くんもどうぞ。」

「…僕もサンドイッチくらいは作れますよ。」

「じゃあ今度ご馳走してよ。」

「いいですよ、じゃあ僕の部屋に来てくださいね。」


東月先輩に妬いているということを上手に隠して、うまい具合に先輩を僕の部屋へ誘った。もちろんみょうじ先輩は赤くなって、は!?と言ったけれどもすかさず僕が小指を出して約束ですよ?と言うと、先輩も小指を絡めてきた。交渉成立。次の休みに僕の部屋へ来る事を約束して、僕とみょうじ先輩は協力して急いでおいしいサンドイッチをたいらげた。


















お食事メランコリー
―おいしくいただいちゃいました。


















***

サンドイッチの具は何にしよう。
- ナノ -