近頃、なまえの様子がおかしい。いつもならペタペタとどこまでも俺の後をついてくるのに最近はめっきり傍にいない。仕事の邪魔になると追い払ってもついてくるほど甘えたななまえが。ついてくるのがわかっているから冷たくあたるのだが。照れ性な俺の事をなまえは理解してくれている。しかしなぜ最近俺に対して素っ気ないのだろうか。もうすぐ日が落ちる。その時間帯にそんなことを考えながら部屋で一人休んでいると襖の向こうからなにやら楽しそうな男女の声がして、それが俺の耳に届いた。


「なまえ殿、美味しい茶菓子を買ってきたのだが一緒に如何かな?」

「わぁ、ありがとう黒!いただきます!」

「それ。その桃色の可愛らしいのをなまえ殿に食べていただきたい。可愛らしいなまえ殿にぴったりだ。」

「やだなぁ、黒ったら。」


どうやら黒田坊殿となまえが縁側で茶菓子を食べているようだ。なまえにはあれほど飯の前に物を食うなと言ったのに俺の部屋の前で堂々とそれを施行するなんて、何を考えているんだ。いや、なまえの事だ、考えなしに違いない。そこが俺の部屋の真ん前だという事をすっかり忘れて、黒田坊殿と楽しく茶を嗜んでいるのだろう。なんだかすごくイライラする。


「おや、なまえ、晩御飯の前に菓子なんて黒羽丸に叱られるんじゃない?」


あれは首無殿の声だろう。落ち着いた声色でなまえに話しかけた。そうだ首無殿、なまえにもっときつく言ってやってくれ。そしてできれば黒田坊殿からなまえを遠ざけてくれ。


「でもね首無、目の前に甘いお菓子を出されたら我慢できる女の子なんてなかなかいないよー?黒羽丸にはちょっと悪いけども…。」

「はは、なまえのいう事はご尤もだ。…ちょっと動かないで、口元に菓子がついてるから。とってあげる。」


前言撤回、首無殿も離れてください。気になってそうっと襖の隙間からその光景を覗いていた。首無殿がなまえの口元についた菓子の破片を取ろうと指を伸ばすとなまえはピクッと一瞬反応したがはい、とれたよ、と言う首無殿にありがとう!と笑顔を向けた。俺以外の奴にあんな笑顔を見せるなんてなんだか本当に胸糞悪い。心なしかなまえの頬が赤くなっている気もするし、ああ、イライラする。イライラと同時に、胸がギュッと締まる。こんな気持ち初めてだ。心臓のあたりがムズムズして、痛いわけでもないが苦しい。心臓を握りしめられたかのように呼吸が詰まる。悔しい。俺のなまえなのに。俺以外の男と会話するなまえにひどく苛立ちを感じる。なまえに話しかける男たちに甚だしく苛立ちを感じる。

その時、リクオさまが三人のもとへ歩いて向かっていた。既に夜のお姿だ。


「あ!リクオさま!」


リクオさまに気付いたなまえはぴょんと縁側から降りると笑顔でリクオさまに駆け寄っていった。またそんな無防備に笑顔を見せて。お前は俺の前でだけ笑顔でいればそれでいいのに。


「例のことなんですけど…。」

「あぁ、それなら首無と黒田坊が協力してくれてるぜ、現在進行形でな。」


例のこと、とは一体なんなのだろう。俺の知らないところでリクオさまとなまえの間に秘密がある。例えどんなに小さな秘密でも、それが仕事上の秘密であっても、俺の知らないなまえが存在するなんてそんなことあってほしくない。


「えっ!?そうだったんですか…!っていうかここ、よく考えたら黒羽丸の部屋の前…。」

「気付かなかったのですかなまえ殿。まったく、黒羽丸も世話のやける…。首無、耳を貸せ。リクオさまのお耳もお貸し願いたい。」


俺の世話がやけるとか聞こえたが、どういう意味なのだろう。疑問に思ったが、今度は黒田坊殿が首無殿とリクオさまとコソコソ話を始めたためそちらに気がいってしまってあまり気に留めなかった。了解、と首無殿が言うと、三人はなまえの前に立った。


「なまえ殿、実は拙僧、以前よりなまえ殿に想いを寄せておりました。どうかこの黒田坊とのお付き合いを考えていただきたい。」

「へ?」

「なまえ、実は僕も前からなまえの事が好きだったんだ。僕と付き合ってほしい。」

「え?は?」

「いや、なまえ。俺の嫁にならねえか。三代目の嫁、悪かねえだろ?」

「え、あのリクオさま?」

「おお、そういえばなまえ殿には黒羽丸という恋人がいましたな。あんな奴は忘れて、新しい恋人を…」





バンッ!!!!




耐え切れなくなった俺は勢いよく襖を開けた。なまえが、俺を見て驚いた声で俺の名を呼んだ。


「ちょ、黒羽丸!って、わあっ!」

「大人しくしろ。」


なまえを横抱きにし、それだけ言うと俺は羽を羽ばたかせて屋根に上がった。そしてなまえをそこにおろすと、俺は大声で、家中に聞こえるようにこう叫んだ。


「なまえは俺の女だ!!誰も手ぇ出すんじゃねえ!」


その様子を見たなまえは驚いて固まってしまっていた。それをいいことに庭から、俺たちを見上げている奴らに見せしめのようになまえに接吻をする。後から考えたら、俺は大変恥ずべき事をしたのだと後悔したが、それはまた数分後の話。下からはキャー、だのワー、だの冷やかす声が聞こえたが、俺の耳には微かにしか入らなかった。なぜなら、なまえが俺に接吻をし返してきたからだ。思いもよらなかったことに少しびっくりしてしまった。


「ふふ…っ!もう、黒羽丸ったらまんまとのせられて…!」

「のせられる?な、なんのことだ。」


なまえの言葉の意味がわからず、しかしその時リクオさまが庭から予想以上の効果だなーとなまえに向かって叫んだのでさらに混乱してしまった。


「あ、あのね黒羽丸、実は…」


なまえの話によると、先程の告白はみな初めから仕組まれていたものだと判明した。どういうことかというと、普段なまえに対して冷たい俺に不安を感じたなまえが、俺に嫉妬をさせたいと思いそれをリクオさまに相談したところこのような作戦になったとか。つまり俺は最初からこの四人に踊らされていたということだ。そういうことだったのか、どうりで…。冷静に考えると俺は今、おそらくとんでもない赤っ恥をかいたのではないだろうか。自分の頬が熱くなっていって、きっと今は真っ赤になっているだろう。決まりの悪い俺は、なまえに文句を言う気にもなれずその場にしゃがみこんだ。


「えへへ、ごめんね黒羽丸。でも、嬉しかったよ。」

「…今夜、覚悟しとけよ。」

「へ?なんか言った?」

「…いいや、なんにも。」


皆ー、晩御飯ですよー!と下からは雪女の声が聞こえたが、降りて行ったらきっと皆にいろいろと言われることだろう。どうも俺は行く気にはなれずしばらく屋根の上で、先程の自分を思い出して一人赤面していた。


















赤っ恥の鴉さん
―伝わっただろ、俺の精一杯!


















「よぉ黒羽丸、さっきはいいもんみせてもらったぜ。」
「リクオさま…。もうそのことは…。」
「いやあすごかったぜ。なまえは俺の女だ!手ぇ出「リクオさまぁぁぁぁあああぁぁ!!!(泣)」っと、悪い悪い!」














***


朔夜さまリク、黒羽丸で嫉妬でした!シリアスな嫉妬にするか甘い嫉妬にするか迷いましたが甘くなりました。(笑)シリアス希望だったらスミマセ…!黒羽丸に言わせたい台詞を言わせてみたんです。でもきっと彼はこんなこと絶対言わない。いや、言うかもしれないけど大声で叫んだりしない。でもやらかしました我が家の黒羽丸くん。(笑)イメージが崩れたという方、本当に申し訳ありませんでした。土下座いたします。とにかく、真っ赤になる黒羽丸が愛おしくて愛おしくてっ…!私はアニメの黒羽丸が素晴らしく大好きなんですけど、(もちろん原作も好きですが!)下野さんの声でこの物語を想像(妄想)したら、激しく萌えたんです…!故にやらかしました、はい。リクエストしてくださった朔夜さま、どうもありがとうございました!お持ち帰りは朔夜さまのみ。
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