「さて、そろそろ戻るかな…。」


今宵は満月。雲もほとんどない。浮世絵町は月明かりと街頭で夜中だというのに明るかった。明るい夜というのは犯罪や違反行為も少なくなるもので、いつもよりも一刻ほど早くパトロールを終えた黒羽丸は本家へと帰って行った。家に着くなり鴉天狗に今日の報告を簡潔に済ますと、自分の部屋へ戻っていく。部屋の中まで月明かりが届いていて灯りを灯さなくても視界は明るい。寝巻である着流しに袖を通し、綺麗にたたんであった布団を部屋の真ん中に敷くと布団の中へ潜り込んだ。黒羽丸は寝る前に布団の中で明日、目が覚めたらすることを確認する。明日は起きたらすぐに早朝のパトロールをしなければ。そんなことを考えつつ眠りにつこうとしていた。


「くろーまるー。いる?」

「…あぁ。」

「入ってもいい?」

「…あぁ。」


黒羽丸が襖の方に目を向けると影でできた人型の黒いシルエットが月明かりのせいでくっきりと映っていた。入っても良いかと了承を得たその影がゆっくりと襖を開けるとそこには一人の女が立っていた。


「やあやあ、パトロールお疲れさま。」

「そう思ってるなら夜中の訪問は控えるべきじゃないのか、なまえ。」


なまえと呼ばれたその女は少しムッとした表情で、なによ、嬉しいくせに、と言いながら襖を閉め、黒羽丸の元へ歩み寄った。別に嬉しくなんかないと言う黒羽丸の頬は赤くなっていたのだが月明かりが明るすぎるためなまえがその顔色に気付くことはなかった。


「で、なんの用だ。…枕なんか持って。」

「わかってんでしょー。癒しのために添い寝しにきてあげたんだよ!」

「お、お前な…!」

「ってーことでおじゃましまーす。」

「お、おいっ!」


なまえは黒羽丸の枕を少し端に寄せ、自分の枕を隣に置くとするすると器用に布団の中へ潜り込んだ。もちろん一人用の布団なので二人で入るには少し小さい。その為、なまえは黒羽丸に体をぴったりと寄せて黒羽丸の脇元に顔を埋めた。枕、持ってきた意味ないんじゃないか?そう思った黒羽丸だったがなまえのある異変に気付いたためその言葉を押し戻した。


「…珍しいな、お前が甘えてくるなんて。」


微かにだが、なまえは震えていた。体を密着させなければわからないほどだったが確かに震えている。きっと何か怖い思いをしたのだろう。単刀直入に尋ねることはせず、優しく答えを導かせようと黒羽丸は話しかけた。実際、なまえが甘えてくるのは珍しいことだ。普段がツンツンしているぶん甘えるときにはすごく甘える。そういう時には必ず何かあるから、聞いてほしいという無意識のサインなのかもしれない。


「たまには適当に甘えないとね。黒羽丸に厭きられちゃう。」

「甘えられるのは俺としては嬉しいけどな。別に甘えてこなくても厭になったりしない。」

「本当に?」

「当たり前だ。逆に、なぜ厭きられると思ったんだ。」

「…黒羽丸に嫌われる夢みたから。」


どんな夢だったのかと聞くと、なまえは少し悲しそうに話し出した。自分が黒羽丸にツンツンした態度を取りすぎたために、黒羽丸はそれを面倒に思ってしまって他に恋人を作ってしまったという、なんともありがちな夢である。話をしている間、なまえが自分の着流しを固く握りしめているのに気付いた黒羽丸はなまえの腰に手をまわし、なだめるようにポンポンと軽く叩いた。


「で、黒羽丸が帰ってきた音で目が覚めて、…来ちゃった。」

「添い寝しに来たとか言ってないでそれを先に言え馬鹿者。」


まったく、と言って黒羽丸は枕から頭を下げるとなまえの顔があるところまで自らの顔を持って行った。先程まで腰に当てていた手を今度はなまえの頬へやるとその柔らかい肌を優しく撫でる。


「俺はそんなことでお前を嫌ったりはしない。絶対にない。」

「じゃあどんなことなら嫌いになるの?」

「うーん、浮気、とか?」

「わっ、私は絶対黒羽丸以外の人を好きになったりしないもん!」

「ははっ。わかってるわかってる。だから、嫌いになることはない。」

「…意地悪黒羽丸。」


安心したのか、なまえの震えはいつの間にか止まっていた。ぷうっ、となまえが頬を膨らますと黒羽丸はそれを指で押してやった。すると溜まっていた空気がなまえの唇からすうっと抜け出して、その空気を吸い込むように黒羽丸は唇を重ねた。


「全部、愛してる」


唇が離れた後、黒羽丸の口から発せられたその言葉を聞いたなまえは幸せそうに眠りに落ちていった。

















君の全てを僕に
―心も、体も、吐息でさえも。

















「できればパトロールのない日に添い寝をしてほしいものだな。」
「やっぱ迷惑だった?ごめんね。」
「そうじゃなくて。ほら、疲れている日は激しく運動できないからな。」
「そっかあ、とりあえず死ね。」

















***


愛さまリク、黒羽丸で甘夢でした。オチは絶対下ネタが入るどうしようもない私です。(笑)黒羽丸って絶対几帳面ですよね!布団敷くときも、シーツにシワ一つつけず敷いてそうです。で、仰向けで寝て朝までそのまま。寝返りもしなさそう。(笑)でも今回は横向きで寝てますよ!夢主さまを抱きながら寝るというシチュエーションですから!甘くしましたから!精一杯の甘ですから!汗 リクエストしてくださった愛さま、どうもありがとうございました。お持ち帰りは愛さまのみです。
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