愛されない俺は、愛されている
リクエスト



俺の兄ちゃんはイかれてる。
昔から弟の俺のことが大好きすぎて、ブラコンやネジが一本抜けてるどころの騒ぎじゃない。間違いなく、頭がおかしい。

そのおかしさは俺が物心着いた時から既に片鱗を見せ、俺が少しでも兄ちゃんから離れると『光希、何処に行こうとしてるの?』と腕が軋む程掴み、何処へも行かせようとしない。
保育園に入り、やっと俺に友達が出来ても、何処からかそれを知った兄ちゃんが『光希は僕以外はいらないでしょ?』と言って、友達には二度と近付かせてもらえなかった。
そのせいで俺には今でも友達と呼べる相手は居ない。
別に何でもかんでも兄ちゃんの言う事を聞かずに、たまには逆らえばいいんだと自分でもわかっているが、兄ちゃんがよく俺に言う『光希がどこかへ行ったら、光希を見付け出して必ず殺すね。大丈夫、光希を殺したあと、僕もちゃんと死ぬから』という言葉に縛られ、兄ちゃんの元を離れるどころか、俺は一度も兄ちゃんの言うことに逆らったことがない。
あの兄ちゃんの事だし、その言葉はきっと本気なんだと思う。
俺ももう少し生きていたいと思うし、死に急ぎたくはないから、兄ちゃんの言うことには逆らわないでいるけど、さすがにトイレを手伝われるのは正直やめてほしい。
一緒に風呂に入って身体を隅々まで洗われるのや、一緒に寝るのはまだ許せるが、大も小も兄ちゃんの許しがなきゃすることが出来ないのは面倒くさい。
後処理も全部兄ちゃんがやり、自分のことなのに後処理すら兄ちゃんはすることを許してくれないから、このままじゃ俺は我慢しすぎて膀胱炎になっちゃいそうだよ。


「みーつき!」
「…何、兄ちゃん?」
「…愛してるよ」
「っん…んん」
兄ちゃんに膝枕をされながら漫画を読んでいると、ご機嫌な声色で声を掛けられた。
漫画から視線を外し、兄ちゃんを見ると、言葉と同時に容赦無く口の中に舌を入れられ、絡めてきた。
それに俺は抵抗せず、目をつぶって兄ちゃんのなすがままにした。

俺達の関係は周りから見ればおかしいものだと思う。
当の本人である俺がそう思っているのだから間違いない。
兄弟でこんな事をするのも、身の回りの事を全部されるのも、人間関係を勝手に決められるのも、全部全部おかしいことだとわかっている。
だけど俺には頼るべき人も、信頼のおける家族も、全て兄ちゃんしか居ないから、俺は兄ちゃんに逆らえないし、離れることもできない。





朝、兄ちゃんに起こされ、一緒にトイレへ行き、用を済ませる。
そしてトイレから帰ると、兄ちゃんに服を着替えさせてもらい、兄ちゃんの作った料理を兄ちゃんの手で食わせてもらう。
歯磨きも準備も全て兄ちゃんがやり、学校までも兄ちゃんが校門まで車で送ってくれる。
俺が学校に居て兄ちゃんと離れている間は、兄ちゃんから10分に1度メールが届き、メールの返信をすぐにしないと、兄ちゃんから鬼のような電話がかかってくる。
あと俺は基本的にお昼ご飯は食べられない。俺は兄ちゃんの手からじゃなきゃ食べることを許されていないから、何かを口にすることすらしちゃいけない。
トイレも一緒で、どんなに行きたくても行ってはいけない。そのせいでこの年でもたまに漏らしてしまうことがある。
帰りは行き同様に兄ちゃんが車で迎えに来てくれ、家に帰ってからは軽い物を兄ちゃんから食わせてもらい、その後は兄ちゃんと一緒にのんびりする。
そして6時頃になると兄ちゃんは夕食を作り出すので、俺は兄ちゃんの目の届く場所で大人しくしている。
ご飯が出来たら温かいうちに兄ちゃんに食わせてもらい、その後は一緒に風呂に入って身体の隅から隅まで洗ってもらう。
風呂から出てからも一通り兄ちゃんにやってもらい、最後は一緒に床に就く。
こんな生活を小さい頃からずっと続けていたから、同じ毎日が、今もこれからも、この先ずっと続いて行くんだと俺は思っていた。
だけど太陽が出ていて暑い午後、食事どころか飲み物すら飲んでいない俺は、体育の真っ最中で倒れた。
気が付けば白い天井が見え、俺は保健室で眠っていた。

「あっ、福田くん起きた?大丈夫?痛い所や気持ち悪いとか、何かある?」
「……」
無言で首を横に振る。兄ちゃん以外の人と喋ることを許されていないから、俺は声を発することが出来ない。

「顔色ももう良さそうだし、大丈夫かな?一応紙に、症状と思い当たる原因を書いといてくれる?」
そう言って多分保健医だろうその人はガラガラと扉を開けて部屋から出て行ってしまった。
多分体育の時間終わってるし、兄ちゃんからのメールと電話がヤバそうだなと思いながら俺はベッドから立ち上がり、書いといてと言われた紙を取って記入しておく。
ちかくするとまたガラガラと扉が開かれる音がしてそちらを見ると、さっきの人と俺のクラスの担任が立っていた。

「福田くん書けたかな?見せてくれる」
紙を渡し、俺の書いた内容を一通り見ると、保健医は眉間に深くシワを寄せた。
「お昼ご飯食べてないってそりゃ倒れるはずだよ。…いつも食べてないの?」
頷くと、『作ってくれる人はいないの?』『朝ごはんは?』『親御さんは忙しいの?』と次から次へと質問をされたが俺は首を縦か横に振るだけで、一度も声を発さないでいると、さすがに怒ったのか「ちゃんと声だして答えてくれなきゃ、わからないんだけど」と言われた。
だけど俺は他の人と喋っていいと兄ちゃんに許されてないから、それは出来ないと困っていると、「まぁまぁ落ち着いてください。福田には何か声を出せない訳があるのかもしれませんし」と担任が割って入ってくれた。
それにホッと胸をなで下ろしていると、クルリと担任はこちらを向き
「あと数時間で終わりだけど、今日はもう福田は早退な。一応親御さんに電話したんだけど繋がらなかったから、家までは俺が届けるから」
そう言って、いつの間にか持ってきていた俺の荷物を手渡された。



担任の車に乗ってから気付いたが、親御さんって兄ちゃんのことだよな?
俺が学校にいる間はずっと肌身離さず兄ちゃんは携帯を持っているはずなのに、連絡が着かないっておかしくないか?と思い、体育に行く前から見ていなかった自分の携帯を取り出そうとしたとき、グラリと目の前が歪み、意識が飛んだ。

次に目を覚ますと、天井に写真が貼ってあった。
右から左までビッシリと天井の壁が見えないぐらいの、俺の、写真がそこには貼られていた。
驚き、目を見開いていると「おはよー。よく寝てたね、光希」と足元の方にいつもと雰囲気が違う担任がニッコリと笑ってこちらを見ていた。
思わず声が出そうになったが、今までの兄ちゃんからの言い付けで何とか声は出なかったが、訳がわからず、俺の頭の中は真っ白になる。
呆然としているだけじゃ何も解決はしないので、まずは状況を把握しようと全身に力を入れ、身体を起こして部屋を見渡すと、天井同様に、壁一面にも俺の写真が所狭しと貼られていた。

「綺麗に撮れてるだろ?苦労したけど光希の写真が欲しくて、俺、頑張っちゃったんだ。」
ニコニコと怖いぐらいに笑う担任の目は、兄ちゃんの目と全く一緒で、俺は一瞬で把握し、そして諦めた。こいつも兄ちゃんと一緒でイかれてやがる。
「いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも、…光希のお兄さんだからって本当にこいつ邪魔だったわ。それに俺の光希にベタベタしやがって……。だけどもう大丈夫だからな、俺が光希を守ってやるから」
俺と一緒に写っていただろう兄ちゃんの部分だけズタズタにされている写真に近付き、憎らしそうに語る担任を俺は無視し、視線を手元に下ろした。
両手には手錠が繋がれ、首ら辺に感じる重みから、きっと首輪も付いていると思う。

兄ちゃんに助けに来て欲しいとも思うが、これで兄ちゃんから離れられるんじゃないかとも思う。
それに助けてもらえたとしても、俺は兄ちゃんに有無を言わさず殺されるだろうなとも確信する。

ふぅと息を吐き、自分の世界に浸っている担任を横目に、また寝ちゃダメかな?と俺はゆっくりと、無駄にふかふかなベッドに身体を倒した。






解説
病んでる兄とイかれてる担任、そして不憫な弟のお話。

一応親とは一緒に住んでない設定です。兄が『親であっても光希に触るのは許さない』と本気で親を殺そうとしたので、親は恐怖して子ども達とは離れて暮らしている。
兄は天才児で親から愛されているが、弟は親から愛されていない。

担任は元々は光希くんのストーカーで、光希くんへの思いが爆発して監禁に至った。光希くんとお兄さんがどんなことをしているのかも知っている。だからこそ、神聖な光希くんを穢すお兄さんは許せない存在。

光希くんの携帯にはGPSが付いているが、他にも盗聴器や何やら、光希くんが知っていたものから知らないものまで色々付けさせられている。


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