鈍感×勘違い
誕生日プレゼントとして書かせてもらったリクエスト



俺には、大好きな恋人がいた。
元々は友達の友達で、相手も俺と同じ男だったのに、俺はそいつのことを好きになってしまった。



初めて会ったのは大学2年の夏。
次の授業の教室へと行くため友達と歩いていると、前方にいた奴がこちらに向かって手を振ってきた。
目を細めて相手を見るが知らない顔で、どう頭を捻っても誰だか思い出せなかった。
だけどきっと俺が思い出せないだけで、知り合いの誰かなんだろうと自己完結し、全力で手を振り返すと、その瞬間手を振ってきた奴は噴き出すようにして笑いだした。
え?と唖然としていると後ろからも笑う声が聞こえ振り返ると、前方にいた奴同様、友達も笑っていた。
何なんだよ?と俺はさらに頭の上にクエッションマークを浮かべた。
けれどさっきまで遠くの方に居た奴がいつの間にか笑いながら目の前まで来ており、俺の肩を軽く叩いて
「君じゃなくて、後ろのこいつに手振ったんだけど」と後ろに居た友達を指差したことで、二人が笑っている意味を理解した。
もしかしなくても俺は、勘違いで知りもしない奴に全力で手を振ったのかと、一気にブワーッと顔に熱が溜まった。
恥ずかしすぎて何処かへ隠れたいのに、残念ながら何処にも隠れる場所がなく、俺は仕方なく両手で自分の顔を隠した。


俺の顔の熱が完全に引いても、今だに笑い続ける友達に「いい加減にしろよ」と不機嫌気味に言うと、
全く悪びれる様子もないのに「わりぃわりぃ」と笑いを堪えながら言われた。
「ったく!!!笑いすぎだろ」
「だからわりぃって言ってんじゃん」
「……」
「……あの、俺もいっぱい笑っちゃってごめんね。えっと俺はこいつと同じ国文科の2年、白石和弥。君は何くん?」
「建築学科2年、津田友史」
少しぶっきらぼうになってしまったが、これは仕方ないだろう。
あんだけ笑われて愛想良くなんて俺には出来ない。

「じゃあ、友史くん。」
「友史でいい…」
「オッケー。俺のことはなんでもいいから」
「…カズ」
「ん?」
「…そう呼ぶ」
チラッと横目でカズを伺いながら言うと『おう、わかった。』と笑顔付きで返ってきた。
さっきまでの笑っていた姿とは違い、何処かキラキラしているその笑顔に俺の気分が少し上昇した。

その日からお互い会うと軽く挨拶をするようになり、そのうち喋るようになって、最終的には俺はカズを見付けるたびにワンコのように無い筈の尻尾をブンブン振り回し、戯れにいった。
正直最初の印象はあまり良くなかったが、あの後も何度も「ごめんな。笑っちゃって…。まさかあんな全力で手を振られるとは思ってなくて」と謝られた。
本当にすまなそうに謝るカズに、むしろ俺が悪いことしたんじゃないかと、罪悪感が湧いてくる程だった。
そんなカズに俺はいつしか最初の印象なんか完全に吹き飛び、良い印象だけが残った。
そしてカズと関わっているうちにどんどんカズの良いところを知るようになり、俺はいつしかこの友達の友達を好きになってしまった。相手は俺と同じ、男だったのに。



俺の必死のアプローチの甲斐あってか、カズに一か八かで告白してみると、困った顔をしながらも『じゃあ付き合ってみる?』と言ってくれた。
その場では『ありがとう。これからよろしく。』とだけ言ったが、内心は裸で踊り出しても気が収まらないぐらい嬉しく、俺のテンションは上がりまくった。
今この世界で自分が一番幸せだと言っても過言ではない。そう思いながら何度もニヤケる顔を必死で引き締め、家へとスキップをして帰った。


俺は隣にカズがいる毎日が楽しくて嬉しくて仕方がなかった。
だけど俺が友達の恋愛相談を受けるようになってから、俺とカズのすれ違いが生じ始めた。

俺は顔見知り程度だった女友達の深雪に『実は私、好きな人がいるの』と相談をされた。
俺を信頼して話してくれたのを無下にする訳にもいかず、出来る限りのことをしてあげようと深雪の話を真剣に聞き、二人でファミレスや学校と、色んな場所で作戦を練った。
放課後に何回かカズに一緒に出掛けようと誘われたが、深雪との先約があり、申し訳ないが全て断った。
どうせ深雪の恋愛相談が終われば、またいつでも二人で出掛けられるとそう思っていたから。
だけど深雪に恋愛相談され始めてから1ヶ月が経とうとした時、その日もカズに遊びに行こうと誘われたが、申し訳ないと思いながらもいつも通り断ると、泣きそうな顔をして『友史はもう俺の事、好きじゃないんだ』と
訳の分からないカズの言葉に俺は目を丸くした。

たかが数回誘いを断っただけでなんでそう、話が飛躍するんだよ。
思わず俺は『めんどくせぇ』と呟いてしまった。
その瞬間キッとこちらを見てきたカズは『そうだよね。俺と違って友史には可愛い彼女が居るもんね。俺みたいなめんどくさい女々しい男とは全然違うんだろうね。友史はそんな事しないって信じてた俺がバカだった。』
意味のわからないことばかりで、俺は訳が分からないまま売り言葉に買い言葉で『は?意味わかんねぇよ…なんだか知らないけど、カズが勝手に俺に期待してただけだろ?俺に押し付けんなよ。……はぁ、いいからお前は頭冷やせよ。それか俺に幻滅したなら別れるか?』
カズも俺の事を好きだとわかっていたからそんな心にもない事を俺は言ってしまった。
今思えば俺はあの時一番言っちゃいけないことをカズに言ってしまっていた。

『ああ、別れるよ。…別れてやるよ!!!!もう二度と俺の前に現れんな!!!』
そう言ってカズは俺の前から去って行ってしまった。
まさかそんな返答が返ってくるなんて予想もしておらず、慌てて『今のは違う!ただ頭に血が上っただけで…』と言おうとしたが、その前にもうカズの姿が見えなくなってしまった。
直ぐにカズの後を追いかけようとしたが、今日も深雪との約束があったことを思い出した。
今すぐにでも俺はカズの後を追いかけたかったが、今日はとりあえず先約だった深雪を優先し、明日必ずカズに会いに行こうと思い、自分の言った言葉に後悔しつつも、俺もその場を去った。


「どうしたの?友史」
「…え?あっ、ごめん。なに?」
「だから、その…もうそろそろ好きな人に告白してみようかなって…」
「そうなんだ。…そういえば結局誰が好きなのか最後まで教えてくれなかったな」
ハハハと笑っていると、深雪は下を向き何故か少し震えていた。
深雪?と声をかけると「…あ、あのね!!」と声を張り上げ、真剣な眼差しで見つめてきた。
その瞬間俺はハッとした。やっちまった…やっちまった。やっちまった。やっちまった!!!
俺は深雪から発せられる前に何を言おうとしているのか今更だがわかってしまった。

何回もカズにメールを送るが、返って来ない。
最終的には俺のメールが返ってきてしまい、電話も繋がらなかった。

俺の予想通り、俺は深雪に告白をされた。
『ずっと前から好きでした。付き合って下さい』と。
なぜ好きだった本人に恋愛相談をしていたのかと聞くと『恋愛相談を受けてもらえば少しでも意識してもらえると思って』と言う深雪に俺は項垂れた。
なんで顔見知り程度だった深雪に恋愛相談されたことを疑問に思わなかったのか、なんで俺は所構わず女と二人きりで居てしまったのか、俺の頭の中は今までの後悔とカズのことでいっぱいになる。
きっとカズは勘違いしている。
だからあの時『可愛い彼女』なんてわけ分からない事を言っていたんだ。
今更気付いても遅いのに次から次へと色んなことが実はああだったんじゃないか、もしかしてこうだったんじゃないかと思い浮かぶ。
深雪にはしっかりと誤解を招かないように『ごめん。深雪の告白には答えられない。すごく大事に思ってる好きな人がもういるから』と言って断った。


次の日カズの誤解を解くために色んな所を探したが、どこを探してもカズを見付けることができなかった。
けれどその代わりたまたま会った友達に「最近彼女と順調か?」「俺も深雪の事狙ってたんだけどな」と言われた。
問いただすと俺は深雪と付き合っているということになっていた。
なんだよそれ。どういうことだよと頭が真っ白になる。
ああだからカズは誤解していたのか…
恋人が違う奴と付き合ってることになってて、放課後に遊びに誘っても断られるんだ…そりゃ誤解しないはずがない。
友達には『深雪と付き合ってないから』ということを伝え、カズを探すんじゃなくて、直接誤解を解きにいこうとカズの家へと行ったが、もうそこにカズは居なかった。
管理人さんにカズの事を聞くと、既に2週間前に解約したと聞かされた。

まだ…まだ大丈夫。諦めずにカズを探し続けていれば必ず会えると信じ、俺はカズを探し続けた。
けれどそれを邪魔するかのように友達や知り合いから慰め会と称して合コンに何度も誘われた。
何故そうなったのか俺にもわからないが、『深雪と付き合っている』という噂から『深雪に振られた』といつの間にか噂の内容が変わっていた。
その噂のせいで知り合いが優しさから「他にも良い女は沢山いるから、落ち込むなって」と場を設けてくれた。
確かに俺は今ものすごく落ち込んではいるが、それはカズについて落ち込んでいるんだよと言いたいのを抑え、ありがとうとだけ言った。
皆からの好意を無駄にする訳にも行かず、何回か合コンへ行っているうちに、俺はとうとう完全にカズを見失ってしまった。

気付いた時にはもうカズは外国へ留学し、日本には居なくなっていた。





「いらっしゃいませー」と受付の女の子が挨拶している声がここまで聞こえる。

あれからもう7年も経ってしまった。
今だに俺はあの時のことを後悔し、あの日をやり直したいと何度も何度も願っている。
だけど叶うのは夢の中でだけで、現実はどうやっても叶えることができない。

「先生、お客様です。…その、先生の知り合いって方なんですが」
「…名前は?」
「葉山様という方です」
「んー。…まぁいいや通して」
そんな知り合い居たっけな?と色んな奴の顔を思い浮かべるが結局誰だわからないうちにトントンと扉をノックする音がしてしまった。
その音に『どうぞ』と声をかけるとガチャリと扉が開き、俺はその瞬間細めていた目を大きく見開いた。

「久しぶり、友史」
「…カ、ズ?」
「おう。」
目の前にはかつての恋人で、俺が今でも愛して止まないカズがいた。
『なんでここにカズが?』と言おうとしたが、カズの後ろからお腹を抱えた女性がひょっこりと顔を出したことで、言おうとした言葉は発することが出来なかった。

「有名な建築士の津田友史って、本当にカズくんの友達だったんだね」
「だから言ったろ?」と笑うカズに俺の表情が固まる。
「早速で悪いんだけど素敵な家、建ててくんね?」
笑顔で言うカズに俺の心臓はバクバクと大きく高鳴る。
この女はカズの何?この女の腹の中にいるのってもしかしてカズの…
頭が狂いそうになる。
だけど表面上はそれを出さないように「どのようなご要望で」「ご予算は」と言うが、頭は全く正常に働いてくれない。




「今日はありがとな。友史」
「いや、一応これを仕事にしているし、いつでも頼ってくれていいから」
「おう。…だけどいつも知り合いにはあんなに割安にしてんの?」
「いや…それは…」
カズだから俺は大幅に値段を安くした。もしかしたらまた、俺のところに来てくれるかもしれないと、ちょっとした期待と下心で。
何も俺が答えれずに居ると、カズは隣に居た女に『先に向こうに行っといてくれる?』と言い、部屋から女を出した。

二人きりの空間に無意識に俺はツバを飲んだ。
何を話せばいいのかわからない。
何から言えばいいのかわからない。
言いたいことはたくさんあるのに、何をどう言えばいいのかわからず、結局俺は無言のまま俯いた。

「…なぁ、友史」
「…何?」
「お前はまだ一人?」
「…うん」
「ならよかった。……多分お前、今勘違いしてるだろ?あれ俺の妹だから。旦那の方が今日来れなかっただけだから」
「は?」
「まぁあれだ。あの時のことはお互い水に流そう。俺もお前も悪かった。はい、喧嘩終了」
あっさりと解決した事に驚いて俯いていた顔を上げると、ニカッと笑うカズが目の前にいた。
昔見た、あのキラキラした笑顔がそこにはあり、俺はこの年で思わず泣きそうになった。

7年越しの喧嘩が今日でようやく、終わったようだ。





解説
カズくんはずっと不安だった。
恋人が突然、今まで一度も断られたことがなかった誘いを断わられ、噂で友史には彼女がいると聞き、だけどきっと何か理由があるんだと信じていたのに
ああ言われて、信じてた俺がバカだったとなった。

前々から留学したいと思っていて、行くって手続きはしたはいいもののなかなか行くことを友史に言い出せず、結局喧嘩別れしたまま留学してしまった。

別れてからもカズもずっと友史が好きだった。
留学から返ってきたときに誰かからあれは勘違いだったと知らされて後悔したが、会いにいけず、ずっと昔をやり直したいと思っていた。
だけどたまたま雑誌に出ている友史を見て、そのインタビューの中で、『家のモチーフはいつもどうしているのか』という質問に対して『大学時代の大好きだった恋人といつか住みたい家をいつも考えている』という答えに会いに行こうと決意し、妹の家を作るという建前で会いに行った。


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