不良×不細工
リクエスト



ある日のことだった。
今まで一切関わりのなかった不良だがイケメンで、学校の女子から人気な黒井大和くんに呼び出された。
僕みたいな不細工は影も薄いので存在すら認識されず、不良にカモにされることも少なかったが、とうとうカモにされる日が来てしまった。と、内心怖く、早く終わってしまえと祈っていたのだが、僕の予想は大きく外れ、何故か僕は黒井くんに告白をされた。

黒井くんが怖くてその場ではOKを出したが、家に帰ってとても後悔をした。
怖くて告白にOK出しただけで、別に僕は男が好きって訳じゃないし、それに黒井くんはなんで僕に告白して来たのかわからない。
僕のこと好き…なのかな?こんな不細工を…?ありえないと頭を横に振り考えを捨てる。



僕の考えはもしかしたらあながち間違いではなかったかもしれない。
黒井くんが僕を好きという方ではなく、カモという方。

黒井くんに告白されてから僕は黒井くんと一緒に居るようになったが、それはまるでパシリと不良の関係そのものだった。
昼休み黒井くんの元に行くと無言でお札を渡され、そのお金を使って黒井くんのお昼ご飯を買いに行く。
帰りも僕は黒井くんの3歩後ろを無言でついて行くだけ。
付き合ってるようには到底思えない。

いや、そもそも『付き合ってるようには思えない』って、僕は何を期待してるんだ。
黒井くんに告白され、もしかしてこんな不細工な僕を黒井くんは好きなんじゃないかという思いをありえないと否定したのに、いざ何も無いと不安に思ってるなんてバカみたいだ。

……こんな変な期待してしまってるのも、思いのほか、噂の黒井くんと現実の黒井くんが違いすぎるからいけないんだ。
噂の黒井くんは気に入らない事があると殴り、女子供にも容赦がないという噂だった。
だけど現実の黒井くんはいつでも一人落ち着き、怒っている所も喧嘩している姿も見た事がない。

黒井くんの容姿に惹かれて声をかけてくる女の人には戸惑いながらも苦笑いをし、優しくやんわりと断る。
黒井くんが子供に微笑んで手を振ってる姿も見た。

黒井くんはすごく優しい良い人なんだと思う。
そんな黒井くんを間近で見ていたせいで、僕が少しずつ黒井くんに好意をよせるようになってしまったのもきっと仕方のないことだ。

今だに名前の付けられない僕と黒井くんの関係に正直、不安や戸惑いで気持ちが押し潰れそうだ。
僕は黒井くんの何なんだろう…パシリ?友達?知り合い?……恋人?
僕には黒井くんの気持ちがわからない。




あぁ…やっぱり…

休みの日、欲しかった本を買いに行くために出かけた時、僕は黒井くんが女の人と腕を組んでる姿を見てしまった。
ちらりと見えただけだがあれは黒井くんだった。
涙が溢れ出し嗚咽まで出てきた。
胸が…痛い。息が上手に、吸えない。苦しい。
痛い、痛い、痛いよ黒井くん。

立っている事も出来ず、人の居ない路地へと入りしゃがみこむ。

僕なんかが黒井くんの恋人な訳が無いと最初からわかっていた。
だから黒井くんが女の人と歩いててもおかしくはないと、そう思っていた。
しっかり理解し、わかっていた。わかっていたけど思いのほかそれは辛くて仕方がない。

黒井くんの微笑んでる顔、無愛想な顔、戸惑ってる顔…
色んな黒井くんの顔が頭に浮かぶ。
だが最後に女の人と歩いていたさっきの黒井くんの姿が浮び涙腺が崩壊する。

なんで僕は黒井くんの事を好きになっちゃったんだろう。
こんな不細工で、男で、黒井くんに想いを寄せることすらいけない事だったのに…

片手で痛む胸を握り、唇を噛みしめる。
あぁ…こんな辛い思いをするならあの時怖くても告白を断って、黒井くんと関わりを持たなきゃよかった。
好きになんてならなきゃよかった。


色んな人に変な目で見られながらも家に帰り、再び泣いた。
泣いても泣いても気持ちはスッキリせず、自分がどれだけ黒井くんの事が好きだったのか思い知らされるだけだった。




翌朝鏡を見ると、目は赤くなり腫れていて、不細工な顔がさらに不細工になっていた。
前髪で目を隠しマスクもする。
学校では心配してくれた人が少し居たが大丈夫とだけ返すといつも通りに接してくれた。

今日は珍しく黒井くんはお休みだった。

なのに、放課後帰ろうとした校門には私服の黒井くんが寄っ掛かりながら誰かを待っていた。
自分ではないだろうと見なかったふりをして通りすぎようとしたが黒井くんに腕を掴まれた。

黙っていつも通り3歩後ろをついて行くが、たった3歩しか距離がなく黒井くんがしっかりとそこにいるはずなのに今日は遠く思えて仕方ない。
また涙が出てきそうだ。

「…松本、なんかあったのか?」

ちらっと僕を見て黒井くんは口を開いた。

初めて、下校中に声をかけられた。
今まで一度もなかったのに、なんで、なんで今日に限って声をかけるかな…

「…っ!?」

あー…、見られてしまった。

立ち止まり僕の前髪を持ち上げマスクを下ろした黒井くんは僕の顔を見て驚いている。
赤く瞼が腫れ、泣いてる僕を見て。

「…俺に、言えないことか?」

焦ったように言う黒井くんから目を逸らす。
僕はなんて返せばいいのか、どうすればいいのかもわからない。

「…離、して」

帰る。と告げ、黒井くんを通りすぎようとしたが、後ろに引っ張られ
バランスが崩れて黒井くんへと体が倒れた。

「ごめ、んなさい!」

慌てて離れようとしたが黒井くんにギュッと抱きしめられ動けなくなった。

「お願い…。俺から、…離れんな…」
「な、んで?」

離れんなって、どういうこと?
…だから僕には、黒井くんの考えてることはわからないんだってば…!!

「…黒井くん、は、ズルイよ。黒井くんの気持ちはいつも僕には、わからない…。」

黙ってしまう黒井くんに再び離してと言うが返事がなく不思議に思ってると、離されたが今度は前から抱きしめられた。

「………好き、なんだよ。手も繋げない。キスも、勿論その先もしたいけど、松本が好きすぎて震えて出来ないぐらい…松本の事が好きで好きで、仕方ないん、だよ」

驚きすぎて言葉が出ない。

「恋人になれたことが、嬉しくて、毎日毎日柄にもなく浮かれまくって…でも何話したらいいか、とか。周りに変に思われて松本に何かあったらどうしようとか。だから周りには恋人同士に見えないようにして、」
ただお前のそばに居れるだけで俺は幸せで、もう俺はお前を手離せないんだよ

あぁ、どうしよう。また涙が止まらない。

「黒井、くん。ありがとう。ありがとう。…僕も、好き、なの。黒井くんが」

黒井くんは驚いた顔をしたあと戸惑ったように笑う。

「ごめん。ホモにさせちまって、ごめんな。…でも、愛してる」

やっと…、黒井くんの気持ちが知れた。

言葉を発さず無言で首を縦に振り、黒井くんの首に僕は顔を埋めた。






解説
黒井くんは松本くんが大好きすぎて震えるぐらい本当に好き。
松本くんが自分を怖がって、断れなかったからOK出したんだとわかっている。
だからなるべく周りにはパシリと不良だと思わせ
女を連れて歩くことで、自分と松本くんを恋人同士だと
松本くんを周りからホモだと思わせないようにしていた。
自分のせいで松本くんの身に何か起こるのが怖くて、松本くんにこれ以上無理に迫って嫌われたくなくて
結局何もできず、いつもいつも俺はどうすればいいんだと悩んでいた。


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