お人好し×苦労性常識人
世間ではお嬢様お坊っちゃま学校と言われ知られている、ここ私立薗ヶ丘大学付属高等学校には王子様がいる。
名前は吉川環。学年は2年。
頭の良さや運動神経の良さもさることながら、吉川環の見た目は大変よろしい。
まるでおとぎ話から出てきたような、柔らかそうなふわふわした髪に、色の白い肌、ぱっちりとした目、筋の通った鼻、薄くも厚くもない血色の良い唇。
すべてが計算されてそこに配置されてるんじゃないかと思うほど完璧な作り。
話を聞くと彼の祖父は外国人らしく、クォーターな彼は全体的に色素が薄く、それもまた王子様さを増させている。
学校ではカッコよく美しい見た目から『王子様』という愛称で呼ばれ、性別の壁までも越え、男女関わらずとてもモテる。

だがそんな王子様には決定的な弱点があった。
それは王子様がどうしようもないほどのお人好し人間で、人を疑うということを知らない。


朝もみくちゃの電車の中で、知りもしない乗客達に大胆にもお尻や胸と、至る所を触られても『みんな掴まる場所が無いから僕に掴まってバランスとってるんだ』と勘違いをし、乗客達に自由に身体を触らさせている。

登校中も近隣の高校の生徒や、同じ学校の生徒に切羽詰まりながら「王子の笑顔を見なきゃ1日が始まらない」と言われ、「それは大変だ!もう朝なのに1日が始まってないなんて!」と言って全力で笑顔を作り、それを振りまく。
中にはツワモノも居て、王子がお人好しとわかっていて「あぁ…持病の発作で、今すぐ王子のパンツを手にいれなきゃ私は死んでしまう」と言ってくる。
そんなの一発で嘘だと見破れるのに王子は「まだ死んじゃダメだよ。君が死んだら悲しむ人はたくさんいる…僕のパンツがあれば治るんだよね?ちょっと待って…」と信じきり、公衆の面前でズボンを脱ごうとまでする。

授業中には保健のプリント音読に王子を選び、わざと卑猥な言葉や生々しい言葉が書かれている所を王子に読ませる。
その間みんな顔を真っ赤にしたり、中には我慢出来ずトイレへ向かう者もいる。
そんな状況でも王子は『我慢出来ないほどお腹痛いのかな?ちゃんと授業受けれないなんて可哀想』と全くわかっておらず、トイレへ行った者のお腹の調子を心配をする。

お昼には「私お箸忘れちゃったのー、王子のお箸貸して」と言ってくる勇者も少なくはない。
毎日の事なのでさすがに疑うはずだがここでも王子は「お弁当食べるのに箸がなきゃ食べれないもんね。僕のでよかったら」とニコリと笑い、迷いもせず自分が使っていた箸を渡す。

授業中隣の席の生徒が教科書の紙で指を切り、血を垂らしてるのを見て「大丈夫?」と心配し絆創膏を出そうとする王子に「大丈夫大丈夫こんなん舐めときゃ治るし……なぁ王子が舐めてくんね?」という願いに頷き舐めようとする。

放課後帰ろうとする王子を引き止め「王子の赤ちゃんを産めなきゃ、親が殺されてしまう」という言葉に
ハッとした顔をした王子は「今すぐ僕の赤ちゃんを産まなきゃ親御さんの命が…!」と慌て出す。
「そうなの、大変なの…」と全く悲しそうな顔ではなく、むしろ喜びに満ちた顔をしながら王子を校舎裏に連れて行こうとする生徒。



「いやいや、おかしいでしょ。なんで吉川の赤ん坊に限定されてるんだよ。それに親が殺されるならまず吉川より警察に頼め」
「あっ…上沼先生、今から帰るんですか?」
「もぉ先生!あと少しでいけたのになんで邪魔するのさ!」
「いけたも何も今からしようとしていたことは犯罪だぞ」
ブーブー言う女子生徒を言いくるめ、さっさと帰らせ吉川と二人きりになる。

「お前さー、もっと人を疑えよ…」
「疑う…?何をですか」
「…電車の中でみんなはバランス崩してお前に触ってるんじゃない!アレはお前に故意的に触ってんの。痴漢に痴女!れっきとした犯罪」
「はー…?」
「吉川の笑顔を見なきゃ1日が始まらないなんてありえないだろ。朝が来てる時点でそれは自分の否応無しに1日は始まってるから。あとパンツを手に入れなきゃ死んでしまうような持病の発作なんて、ある訳ないだろ気付けよ!そして公衆の面前で脱ごうとするな。俺が止めなきゃ脱いでただろ?」
「ほー…?」
「クラスメイトのお腹の調子を心配する前に、まず自分の心配をしろ。普通の勉強の内容にマスターベーションの手順(台詞付き)なんて無いだろ。あれは教員がお前に言わせたいが為に作った言わば官能小説みたいなもんだ」
「はー…?」
「あいつらはしっかり箸を持ってきてるのに、ワザと忘れたふりをしてんだよ。その証拠にお前の使用済み箸をジップロックに大事に大事に入れてる生徒を俺はこの目で何回も見てきた」
「はー…?」
「あと頼まれたからって人の血を舐めようとするな。他人の血を飲んだことで病気が云々というのを言いたい訳じゃない。いや、もちろんそれもあるが、俺が言いたいのは他人に血を舐めさせるような奴は普通のやつじゃないんだよ。下心があるからさせようとしてるんだ。今回は俺の受け持つ授業の時間だったから無理やりティッシュで血を拭かせたからいいものの、もう頼まれても舐めようとするなよ?」
「はー…?」
「知らない奴でも知ってる奴でも何処か人気の無いような所に連れて行こうとしてきたら、着いて行くな。お前の身が危険だ。いいか?わかったな」
俺の言葉に王子は不思議そうな顔をしながらも一応頷いていたが、きっと本人は全くわかってないだろう。
俺は今日に限らず同じことを毎日毎日何十回も言ってきた。
それなのにこうも学習能力が無いということは、本人は何がどう危険だかわかってなく、その上人を疑うということを知らないお人好しだからだろう。

こんなこいつが今も安全で、お気楽に過ごせているのはひとえに俺のおかげだろう。
その辺、もう少し俺に感謝してほしいくらいだ。


「はぁー…もういいよ。お前はそーいう奴だもんな。
…ほら、今日はタイムセールで野菜が安いから、お前もしっかり手伝えよ?頑張った暁には今日の晩御飯はお前の好物のハンバーグにしてやるから」
「っ!!!わーいやったー!」






解説
究極のお人好しで、もうこいつアホだろバカだろと確信するレベルの攻めと
攻めの学校で国語の教員をしている苦労性受けのお話。

二人は既に恋人同士で同棲もしている。
先に好きになったのは攻めで、攻めに告白された受けは『男なんて無理だ』と思っていたが、攻めのお人好しっぷりから目が離せなくなり
面倒をみている内に『こいつは俺が守らなきゃ』という義務感を持ち、付き合いだす。だけどいつからか義務感から恋愛感情へと発展していった。


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