我儘×平凡
いつものように友達と授業の為移動していると、
話しをしながら歩いていたせいで余所見をしており、人とぶつかってしまった。
しかも、階段で…
下手側にいた俺は『あっ、落ちる』と思ったときにはもう遅く
気付いた時には既に俺の足は地面に着いておらず、後ろ向きに階段から落ちて行った。

けれどなかなか痛みを感じない事を不思議に思い、つぶっていた目を恐る恐る開けると、俺は人を下敷きにしていた。
オロオロしながら下敷きにしてしまった人を確かめるそれは同じクラスの西村和だった。

「に、西村悪い。大丈夫か?いや、大丈夫じゃないよな…、マジでごめん」
西村の顔を下から覗きこみながら聞くと
「だ、大丈夫じゃねぇーよ。河野のせいで右手ひねったじゃねぇーか」
西村は怒っているみたいで顔を赤くし、俺と目も合わせてくれない。

「ホントにごめん。右手ひねったって事はノートとか写せないよな?なら、俺が代わりにノートを写すから…」
俺は慌てながら怒ってる西村の右手を擦りながら西村の様子を伺った。
「…ノ、ノートは友達に写してもらうからいい。お前はアレだ!俺の身の回りの世話でもしてろ」
こちらを見ずに言う西村はまだ怒ってるのだろう。

西村は保健室に湿布を貼ってもらいに行くと言ったので
俺は、怪我した西村の右手を擦り、小声で『痛いの痛いの飛んでけー』っと言って、俺もその場を離れていった。


ノートは西村の友達が写してくれているみたいだが、俺は罪悪感から西村に「やっぱ俺がノート取ろうか?」っと掛け合うが
「河野の字は汚くて見にくいから断る」っと言われてしまった。
俺の字、そんなに汚いかな?っと落ち込んでると
「そんなことより右手痛いんだから食わせろよ」っと西村に言われた。
俺と西村は今屋上でご飯を食べており、右手が使えない西村の代わりに俺が西村に弁当を食べさせてあげている。

「ごめん、次は何食べる?」
俺が聞くと、んーっと考え始めた西村。
その西村の顔を見て、西村のイケメンさを再確認した。

本来、西村はクラスの人気者な上に学校一のイケメンでもある。
だから、いつも西村の周りには明るい男友達や可愛い女の子、ハデな女の子が西村を囲んでいる。
そんな西村だからこそ、俺と関わり合うことなんて一切ないだろうと思っていたので、西村の友達等を差し置いて西村と二人きりで弁当を食べてるこの状態は本当に信じられない。

西村は悩んでるだけなのに仕草も顔も何もかもカッコいい。
西村と一緒に居ることで西村が少し我儘なところがあると知ったがそんな性格も顔のカッコよさでカバーされる。

「なんでもいい」
「じゃあ西村の弁当って肉類ばっかだしこれあげる。あーん」
肉ばっか食べてる西村に、自分の弁当からジャガイモを掴み西村の口の前まで持ってきて『あーん』をして西村を諭した。

「あ、あーん。…ジャガイモ柔らかすぎんだよ!!」
そー言って西村はそっぽを向いてしまう、そんな西村に俺はクスッと笑う。
俺はそんな西村に可愛いけどカッコいいなと思ってしまう。

少しの間、意識を飛ばしてるといきなり黒い影が出来ていた。
気付いて、黒い影を見上げれとそれは西村だった。
「ボーッとしてどうした?風邪か?俺に移っちまうだろ。早く直せ」
いつも通りの意地悪口調だが、これは西村なりに心配してるみたいで今もペタペタとオデコや頬を触ってきている。
そんな西村に何故か俺は胸が高鳴って顔に熱が集まっていくのがわかった。

「マジで風邪引いたのかよ。今日はもう家帰れ」
赤い顔をしてるだろう俺に、西村は言った。
胸が高鳴り顔に熱が集まるのは風邪か、何かの病気のせいだと決め付け
俺は西村が言ったとおり直ぐに家に帰った。


いつも通りの毎日。
昼食食べる前にトイレに行っていた俺は西村が待ってるであろう屋上に向かうと
そこには西村と、学年で可愛いと有名な女の子の2人がいた。
何故かその光景に胸がチクンと痛み出した。
けれどその痛みを知らんぷりし、入るに入れない屋上を俺はソロリと覗き、聞き耳を立てた。
そして聞き取れたのは、西村に告白してる女の子の声だった。

女の子は顔を赤くさせ、恥ずかしそうに顔を俯かせて西村の返事を待っている。
そんな女の子に西村は女の子を見ながら『ごめん。好きな人がいるんだ。』っと言って告白を断った。
フラれた女の子は泣き出し、それを聞いていた俺も涙を流していた。
別に女の子に同情したわけではない。
ただ『西村って好きな人居たんだ』っと思ったら自然と涙が溢れだした。
そして俺はそこで初めて『俺って、西村の事好きだったんだ』と気付いた。

西村に告白した女の子は泣きながら屋上を出ていった。
俺は女の子が見えなくなるまで隠れ、見えなくなった所で流していた涙を拭いて自然を装い屋上の中に入って行った。
失恋したばかりで笑えない顔を無理矢理動かし、笑顔を作り西村に見えるところまで行くと
「おせーよ、バカ」と言われた。

いつもと変わらない西村にホッとしながら
腰を降ろし食事をしようと、西村の弁当に手を伸ばすと
「もう手治ったから一人で食える」
と言われ弁当を右手で持った。

その瞬間目の前が真っ暗になる。
俺と西村とを繋ぐものが無くなり、西村と一緒に昼食を食べる理由が無くなった。
西村を好きだと気付いた瞬間に失恋し、そのうえ西村の手が治り接点も無くなった。
いや、これで良いんだ。元々接点なんてなかったし、これ以上西村と一緒に居て辛いのは俺だ。

「…ならもう西村と昼食するの終わりだね。じゃあね」
俺は座っていた腰を上げて屋上の扉に手を掛けようとしたが、後ろに居た西村に腕を捕まれ叶わなかった。

「……どーしたの?西村」
「どーしたもこーしたもねぇよ。何処に行こうとしてんだよ」
西村の言葉を聞き、少し泣きたくなりながらも
「だって、西村の手が使えなかったから俺が代わりに世話してただけで、治ったなら用済みっしょ?」
「何処にも行くんじゃねーよ」
西村我儘すぎだよ…。俺がどこに行こうが俺の勝手だろ
そう言いたいが、泣くのを堪えるために唇を噛み締めてるので言葉が出てくれない。

「…っ!?何泣きそうな顔してるんだよ」
「……」
「は?意味わかんねー。…顔がより一層不細工になってるぞ」
俺の顔をジロジロ見てくる西村の言動に我慢できず、俺は俯いて涙を零してしまう。

「…っ、…も、やだ。離、して」
「なんで泣いてんだよ…」
「やめて、…嫌い。西村、なん、て…嫌い!」
「………あぁ、わかった。俺もお前なんか嫌いだよ」
西村に嫌いなんて言われてショックを受けるどころか、そんな言葉とは真逆で何故か俺を抱きしめる西村に俺は戸惑いが隠せない。

「な、なに…して」
「お前の事なんか嫌いだけどそれ以上にお前のこと大好きなんだよ。なぁ、なんで泣いてんだよ。俺が何かしたか?それなら謝るから…、だから嫌いなんて言わないでくれ」
必死な西村に思わず涙が止まりポカンとする。

「何それ…、俺の事が好きなの?」
さっきの好きな人って俺の事?そんな上手い話なんてあっていいの?

「なんか文句あるか?それと、これは告白だからな。お前に拒否権なんてねーから、今日からお前は俺の恋人。男同士だから無理とか知らねーから。…いいから早く訳を話せ」
西村の我儘さは健在だが、最後に少し西村が泣きそうな顔をしていてまたポカンとする。
けどすぐに我に返りニッコリ笑う。

「我儘な西村には教えない」





解説
我儘な西村くんにはまだ自分の気持ちは言ってあげません。
でも西村くんに問いただされて直ぐにゲロります。

西村くんは我儘だし、意地悪だし、俺様だし、だけど河野くんへの思いは本物です。
結構本人なりにアピールしてるつもりだったし、優しくしてたつもり。
河野くんに届いてたかというと微妙です。


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