イケメン×サラリーマン
駅のフォームで俺は一人、一方的に部長への怒りを募らせていた。

ちくしょー!!部長めぇー!!!!!
何が『あっ、野村くん暇そうだね。なら、これやってくれる?』だ!
『やってくれる?』って疑問系で言ってるはずなのに、
言葉の裏に『やんなきゃ、給料減らすよ?』って脅してるようにしか聞こえないんだよ!
ただでさえ少ないサラリーマンの給料をこれ以上減らされたくも無いし、大人しく部長から引き受けた仕事をせっせとやったけど、いつも帰ってる時間より1時間半も大幅に過ぎてるじゃないか…
はぁ…、今日はもうあのイケメン君を拝むことが出来ないな

推定年齢17歳。俺好みどんぴしゃなお顔を持つイケメン学生。
俺はいつもこのイケメン君の乗る電車に間に合うように毎日時間を調整して会社から出ているのに
今日は部長のせいで、イケメン君が乗る電車に乗れなかったじゃないか!
イケメン君に密かに恋愛感情を抱いてる冴えないオッサンの唯一の楽しみであるイケメン君観察を邪魔するなんて、絶対に許さない…


ため息を付きながら、来たばかりの電車に乗ろうと一歩踏み出し、ふと電車の中を見ると人の多さに愕然とした。
…待てよなんだよこの人の多さ…。
これが帰宅ラッシュってやつなのか!?

いつもは6時頃には既に家に帰り着いている俺にとって、ラッシュに巻き込まれるのは初めての体験で驚きが隠せない。
こんなラッシュの中、家族が待つ家に帰るためにいつも混雑した電車に乗り込むサラリーマン達の頑張りに拍手がしたくなった。

ってか、これ以上電車ん中に人入れんのか?
次の電車が来るまで待っても良いが、まだどーせ帰宅ラッシュで次の電車も混んでるはず
この電車に乗っても次のを乗っても同じだな…
だけどこれに乗った方が30分は早く着くしこれに乗るしかないか…。



駅員さんが乗客の背中を押して、電車の中に押し込めるという手助けもあり、なんとかぎゅうぎゅう詰めの中に入り込めた。
ぎゅうぎゅう詰めの中には脂ぎったオッサンやスラリとしたOLやら沢山の仕事帰りの人が身体を寄せ合いながら乗っていた。
やることもなく暇でやっていた人間観察も飽き、ボーッとしていると
おもむろに何かがお尻をかすめた感触がした。
こんなぎゅうぎゅう詰めだし誰かの鞄がかすったんだろうとあまり気にせずにいると、今度は尻を撫でくり回された。

鞄はこんな触り方なんてできる筈もないし、触ってるのは確実に人の手だと確信してため息がでた。
はぁー、きっと女に間違われて尻なんか触られてんだろこれ…
男が痴漢されるなんて、男の恥じゃないか
…ほぉーら、お前の狙いの人は反対だぞぉ
だからはやく、男だって気付いてくれぇー


…こいつ、いつまで触ってる相手が男だってことに気付かないんだよ。
かれこれ10分以上経ってんだろ。
抵抗してもやめないし、そもそも痴漢って犯罪だろ。
このまま放置してたら間違えて男の尻を触ってた痴漢さんが今度こそ女の人に痴漢する被害が出るだろう。
ここは俺が恥を捨ててガツンと言うしかないな。
いや、恥ずべきなのは俺じゃなく、女と間違えて触ってたこの痴漢が恥ずべきなんだ!
「さっきから、おまe…」
勇気を振り絞り文句を言おうと口を開いたが、ゴツゴツとした男特有の手が俺の口を押さえ、言葉を強制的に止まらされた。

これでやっと痴漢していた相手が男だと気付いてくれたはずと安心しているのもつかぬま、
痴漢をしていた男はさっきよりも激しく俺の尻を擦ったり揉んだり形を確かめるように触りだした。
っと思ったら、直ぐに触ること事態やめた。

さっきまでの勢いはなんだったんだ?と考えてると、いきなり腕を握られプシューッと開いた扉の外に連れていかれた。
此処俺が降りる駅じゃないんだが…

痴漢に手を引かれながらも何処か冷静に考え、痴漢に掴まれてる腕を見たあと掴んでる相手を確認しようと徐々に視線をあげた。
人混みで見えなかった痴漢の顔を拝めてやろうと見た顔に俺は目を白黒させた。

だって、さっきまで俺を痴漢してたやつから、いつの間にか痴漢さんがイケメン君になってたのだもの……

なんでイケメン君が俺の手掴んでるんだ?
それよりいつの間に、痴漢してた野郎からイケメン君にチェンジしたんだよ?
いやその前に、なんでイケメン君がこんな時間にこんな所に居て、その上俺の腕を掴んでんだ?!
混乱し過ぎて正常に頭が働いてくれない。

『ガチャン』
…ガチャン?
軽く飛ばしていた意識を戻し、現実に目を向けると俺は知らない玄関に居た。

「…ど…どこ?」
無意識に出た言葉でより一層、何処だかわからないこの場所に不安を感じた。
「此処は俺の家です」
そーだ!いつの間にか、痴漢に掴まれてた腕をイケメン君に掴まれていて、この場所に連れて来られたんだと思い出した。

「イケメン君がなんで俺の腕を?」
思わず考えてた事が口から出てしまい、イケメン君は不思議そうな顔をしたあと、理解したのかプッと笑い始めた。
イケメンが笑うと尚更イケメンだな
イケメンは何してもイケメンなのか…、カッコ良すぎて思わず見とれてたわ

「もしかして、イケメン君って俺のこと言ってるんですか?」
「いや…あの…、…名前知らないから…」
イケメン君は、あぁ、そうでしたね と言って笑った後
俺は、要(かなめ)です と言いながら腕を再び掴まれ、部屋へと連れてかれた。

「あっ!えっと俺は、祐二って言っt「じゃあ、祐二さんですね」」
…俺もう死んでもいいや
か、要くんの名前を知れた上に
俺の名前を呼んでくれるなんて…
女に間違われて痴漢されたことも忘れそ……う…?
あれ?そーいえば、俺を女と間違えて痴漢してた奴は何処に行ったんだ?

「…じ……ん?祐二さん!」
「あっ、ゴメン。…あのさぁ、要くんに聞きたい事あるんだけどいい?」
要くんに呼ばれ現実に戻された俺は、気になってた痴漢の事について聞いた。

「要くんって、いつから俺の腕掴んでたの?」
俺の質問を聞いた要くんは不思議そうな顔をして、
「いつからってー…、最初から?」
最初からって、何処からが最初からなんだ?

「要くんに腕掴まれる前に、掴まれてたはずなんだけどなぁ…?」
「俺以外は祐二さんの腕掴んでないですよ」
俺見てましたし と言う要くんにまた俺は頭を悩ませた。

「確かに、痴漢さんに腕掴まれてたと思ったんだけどなぁ」とボソッと呟いたのが聞こえていたのか、
「まぁ、俺がその痴漢ですからねぇー」と淡淡と笑いながら言った。
要くんの言った言葉は俺の中で処理するのに時間がかかり
やっと理解出来たときは、俺はソファーに座わり、隣には要くんが座っていた。

「要くんは要くんで、痴漢が要くんで、要くんが痴漢な訳?」
自分でも言ってることもわからず喋ると、そんな俺を要くんはニコニコ見ながら
「俺は要で、要は俺で、痴漢も俺だよ」と言いながら顔を近付けてきた。

何するかわかってしまい条件反射で離れてしまった俺に要くんは少しブー垂れた顔して
「理解してもらえましたか?」と聞いてきた。
ブー垂れた顔もカッコ良いなんて流石!

「ようするに、ずっと俺の尻を女と間違えて触ってたのは要くんってこと?」
「少し違うけど大体は合ってるよ。祐二さんだってわかってて痴漢してましたし俺」
男だって知りながら、尻を触っていた?
顔に出てたのか付け加えるように

「俺を毎回見てくる変わった人だなぁって気になってたらいつの間にか恋しちゃってた。痴漢したのは何時もより帰る時間が遅くなったのに祐二さんに会えて運命かな。って」
爽やかに言われたって、尚更俺をメロメロにさせるだけなんだからな
って、…は?告白された?え?
「お、俺も要くんのことがずっと好きです!」
俺がそー言うと要は、はい知ってますと言いながらニッコリ笑い、これから遠慮しませんからと言って
唇を奪われた。

こんな冴えないオッサンの視線に気付き、恋しちゃったと言った要くん。
関わることなど出来ないと思った。
要くんの視線に入れるなんて思わなかった。
あのあと、本当にこんな冴えないオッサンなんかを恋人にしていいのか?要くんなら選り取りみどりなのに…っと言うと、
「惚れたんです。責任とってください」と言われ、俺は顔を赤くして黙って頷くことしか出来なかった。





解説
三十路間近のサラリーマンの話です。
イケメン君はタイプだが1度も付き合いたいと思ったことはなかったです。ただ見てるだけで幸せだった。
元々男しか好きになれない人。

初めはぶっちゃけ気持ち悪いなと思っていた。毎日毎日同じ電車だし、ずっと自分を見てくるし、正直やめてくれと思っていたがふとしたことがキッカケで気になりだし恋しちゃっていた。

おいおいまた手直しします。
絶対します。


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bkm
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