爽やか×平凡
「次の文化祭、俺達はシンデレラの演劇をするってことで、みんな異議無いなぁ?」

委員長がクラスの全員を見渡しながら「よし、居ないな。…じゃあ今度は役決めだ」と言った瞬間
クラスの女子も男子も同時に「はいはいはい!」と大声をあげながら手を上げた。
委員長がその中から適当に近場の女子を指名すると、指名された女子は
「王子役は絶対に坂元くんがいいと思います」と、
顔を赤く染めながら力強く言うとクラスのあちこちから
「俺も坂元が適役だと思う」やら「私、坂元くんの王子様姿超見たーい」やら皆が皆、声を揃え坂元の王子役を賛成した。

皆がわぁーわぁー言う中、委員長は「はいはい、わかったから黙れー」と、手を叩きクラスメイト達を静まらせた。
「ってことでみんなが坂元が王子役が良いって言ってるんだが、王子役やってくれるか?坂元」
委員長は窓側の1番後ろの席に座ってボーッと窓の外を眺めていた坂元に声をかける。
「んー…別に構わないけど、1つ条件があるけど良い?」
「おぉ。きっとみんな、坂元が王子役をやってくれるなら条件の1つや2つ簡単に聞き入れてくれるよ」
じゃあ…と坂元はにっこりと笑顔を浮かべた。



坂元は頭が良く、その上運動神経に顔に性格と全てが良く、ここまでくると神様に愛されすぎてるといっても過言ではない。
そしてのその愛されすぎてる男は何を思ったのか『俺が王子役やるなら是非ともシンデレラ役は笹塚が良いんだけど、皆はそれで良い?』と、輝かしく眩しい笑顔をクラスの皆に向けたおかげで、なんと俺は主役であるシンデレラをやることになってしまいました…

「って、なんで男の俺が女…しかも主役やらなきゃならんのだぁああぁあぁ」
地味男こと、なぜかシンデレラ役に坂元に直指名され大抜擢した笹塚です。
家のベッドの枕に顔を埋もれさせながら手足を全力でバタバタさせ叫ぶが、当たり前だが誰からも返事は返ってこない。



俺が坂元に直指名でシンデレラ役を言われると男子、女子ともに「「「「は?」」」」と声をそろえた。
もちろん俺も何故突然自分の名前が呼ばれたのかわからず、みんな同様声を上げると
「笹塚が相手役なら俺、全力で王子役頑張るな」と坂元は皆の唖然の声を無視するように、坂元の斜め右前に座っている俺に向かって爽やかな笑顔で声をかけた。
その坂元の爽やかな笑顔を見たクラスメート達はその笑顔に見事やられ
「坂元くんが言ってるし、しょうがないか」やら「坂本がやる気出してくれるなら俺達も別にそれで良い」と何故か俺の了承を聞かず、知らぬ間に俺がシンデレラ役をやることが決定してしまった。
だが、中にはやはり俺がシンデレラ役をやるのが不満な様で女子達の俺を見る目がとても怖かった。




坂元とあまり関わったことないのに何故自分が指名されたのかわからない。
出席番号だって『さ』で一緒だが坂元と俺の間には4人ぐらい人がいる。
そのせいで席は近いが全く話した事はない。
ほんとなんでだよ…
何故だろうといくら考えても答えが出ないまま、明日から始まるシンデレラの練習を思い浮かべ憂鬱になりながらも俺は眠りについた。




朝学校に着くと、先に教室に居た坂元が「笹塚!おはよう」と声をかけてきた。
今まで一度も坂元に挨拶なんてされたことなんて無く、少し戸惑いながらも
「お、おはよ坂元」と声を掛けると
「これから練習の事で連絡するようになるかもしれないし、連絡先交換しようぜ」と昨日以上に爽やかに輝いた笑顔向けられ思わず見惚れてしまった。
坂元の不思議そうな顔で我に返り急いで携帯を出して連絡先を交換すると、どこか嬉しそうにルンルンしながら坂元は俺から離れて行った。
その後ろ姿を見て、何がそんなにまで坂元を嬉しくさせたのだろうと悩んだが何も思いあたる節がなく考えることをやめ、俺も自分の席に向かった。

席に着き今日から文化祭までの2週間の間、あんな爽やかで輝いた笑顔なんか向けられ続けたら、男だとしてもコロッと行っちゃいそうだなと不安に思う。
だがまぁ、今はそんなことより女子の俺への嫉妬の方が怖い…
なんせ何故だかわからないけど人気者である坂元に逆指名されちゃった訳だし…
あ"ぁ!坂元のことが好きな女子が俺に嫉妬してなんかしてきたら坂元のせいにしてやるからな!
さっきまで一緒に話をしていた坂元に視線を送り軽く睨んでやると、丁度こちらを見た坂元と目があってしまい慌てて目をそらすと同時に鐘が鳴った。
きっと睨んでたことなんか心の広い坂元の事だからあまり気にしてないだろう。
変に思ったとしても大したことはしてないしきっと放課後までには忘れてくれるだろうと高を括りSHRに意識を集中させた。




放課後になりシンデレラの演劇をやる俺達のクラスは、まず役者と裏方で役割ごとに別れ
役者は役者だけで台本を覚えたり演劇の練習をし、裏方はセット作りをする。
不本意ながら役者である俺は配られたばかりの台本に目を通していると後ろから肩を叩かれ、そちらを振り向くと坂元が不安そうな顔して立っていた。
「…?坂元何かあったのか?」
俺は知らず知らずのうちにいつの間にか何か坂元にしてしまったか?と、今日1日の出来事を思い出すが何も心当たりがない。
「今日のSHR前に笹塚俺のこと睨んでたけど俺なんかしちゃった?」
その言葉を聞きやっと『あぁそういえば今日の朝、坂元を睨んでたな俺』っと思い出した。
「あー…ちょっと遠くの空を見ようと目細めてただけだからなんでもないよ」
よく睨んだ本人が忘れていたことをコイツは今まで覚えてたなぁ…そんなに厳つい顔でもしてたか俺?
坂元は目に見えてホッと胸を撫で下ろし
「もしよかったら一緒にセリフ練習しない?1人でやるより相手に喋りかけた方が断然覚えやすいと思うし」と、あの爽やかな笑顔を俺に向けてくる。
少しドキドキする心臓を無理やりおさえつけ了承を返すと、俺の手を引き、椅子の置いてある場所に連れて行かれ椅子に座らされた。
「シンデレラと王子のダンスら辺から始めるな」と言い、
坂元は少し感情を込めながら台詞を読み、それを聞き俺も間髪入れずに自分の台詞を読むっという風に、交互にセリフを交わしていると不意に視線を感じ視線の元をたどると坂元がジッと俺を見つめていた。
俺が坂元を見たことで俺達は目が合いそのまま『やっと見つけました姫よ…僕はきっとあなたに何と言われようが二度とあなたを手放す事ができないでしょう…
だがその代わり一生あなたに愛を囁き続け幸せにさせる事を誓います
どうか僕と一緒に城に来てください』
セリフも一切噛まずに言う。
ジッとこちらを見つめられながら言われたせいで、俺の役であるシンデレラに言った台詞で、断じて俺自身に言った台詞ではないのに何故か自分自身に言われたセリフのように聞こえ、
恥ずかしさやら何やらで俺は台詞を続けて言う事が出来ず口もアワアワと開閉させながら顔を赤くさせた。
「…っ!なんで俺見てんだよ」
やっとこさ絞り出した言葉を坂元に投げかけるが、坂元はただ嬉しそうに笑うだけで何も言ってこない。
「俺なんかを見るより、ちゃんと台本を見ろよ」
何もいわず笑ってるだけの坂元に口では文句を言うが、内心はまだドキドキが治まらず坂元を直視することもできていない。
男相手に今までにないくらいのドキドキを味わされているなんて複雑な気持ちだが、動悸・息切れが治る兆しは全く見えて来なく、むしろ坂元が側にいることで逆に症状が悪化していく。
これ以上今は坂元と一緒にいると危険だと感じ『今日は家帰って完璧にセリフ覚えてくるから…ま、また明日』と足早に坂元から離れ、ダッシュで帰った。
帰る時、坂元が『笹塚!?』と叫んでいたが聞こえないふりをして帰らせてもらった。




あれから数十日経つが、あの時ほどではないが坂元を見たり、坂元が近くにいるとドキドキが止まらなくなる。
この症状の原因は鈍くもない俺は『恋』だとわかっている。
男相手に恋した事に戸惑わなかったと言ったら嘘になるが、あの!そう。あの坂元にだから仕方ないことだと諦めた。
爽やかに輝く嫌味のない女なんかイチコロの笑顔に男の俺までコロッといかされたよ。

坂元も俺も男だという性別の壁や
もし俺が女だったとしても、坂元ほどの人気者が女になっても普通だろう俺とくっ付く訳がない。
なので男の坂元を好きになったとしても俺は坂元に告白する気など最初からサラサラない。
だがやはり坂元を好きな気持ちは変わらないので今は自分の気持ちに区切りがつくまでは坂元のことを勝手に想わせてもらうことにした。
しかし演劇の練習中は坂元が相手役なので嫌でも意識してしまい高鳴ってしまう胸の鼓動を押さえつけ、自分に言い聞かせるように課せられた役になりきり、相手が『坂元』だということを考えないように徹した。

今も目の前でクラスメートからの差し入れを食べながら「笹塚!これ美味しいぞ」っとお菓子を差し出してくる坂元に、内心俺に構ってくれることに喜んでいるがそれを隠し
自分の出来る限りの自然な笑みを浮かべ「ありがとう」と受け取った。
坂元は俺を見ながらなぜか固まってしまい、どうしたのかと聞こうとしたが、ガラガラと勢いよく扉が開けられ「衣装完成したぞ!」っとクラスメートが俺と坂本の間に入り込んだことでそれは叶わなかった。

クラスメートが俺達に見せてきた衣装は、坂元の王子様服と俺のシンデレラの女物のドレスだった。
とても高校生が手作りで作ったように思えないほどよくできた仕上がりだが、女物のドレスを見たことで自分が女装する実感が湧き、何とも言えない微妙な気分になった。
その上「確認のためにも一度着てほしい」とクラスメートに言われてしまい、少しテンションが下がりながらもしぶしぶ渡されたドレスを持って試着室に移動する。

数分費やしてなんとかゴチャゴチャしたドレスを1人で着替え終え自分の格好を見てみるが、尋常じゃないぐらい似合ってなく、正直半端なく引いているとカーテンの外から「坂元くんかっこいい」やら「超似合ってる」と坂元への賛辞の声が聞こえてくる。
その声を聞き、王子様姿の坂元見てみたいという誘惑が襲ってくるが、こんな気持ち悪い格好を見せて坂元に不快な気分になってほしくないと思い、坂元の王子様姿は本番まで待つか…と諦め、ドレスを脱ごうと手をファスナーにかけた瞬間
シャッ、っと突然外と中を遮ってたカーテンが開かれた。
開けられたカーテンの前には、俺にドレスを渡して来た先ほどのクラスメートと王子様姿をしている坂元の2人だけが立っていた。
ビックリしすぎて何も言えず唖然としていると
「…うん、大きさに問題ないけど腰辺りがだいぶ余ってるし、改良の余地はあるな…。よし、確認終わったから2人とも脱いで良いから」と言いカーテンをサッと閉めた。
ビックリして唖然としたままだったが、しっかりと王子様姿の坂元を目に収めることができ喜びに浮かれた。
けれどしばらくして俺が坂元の格好を見れたということは、坂元にも俺の格好を見られたのだと気付き
坂元に醜い格好を披露してしまったという現実に泣きそうになった。



文化祭まで数日…
あともう一踏ん張りだと自分に喝を入れ、今日も愛しい人の隣で自分の感情がバレないよう、俺は役を演じ続ける。


文化祭準備編 完


解説
坂元くんは笹塚くんの事好きですよ。笹塚くんは気付いてないだけで坂元くんの笹塚くん贔屓は凄いです。
何があっても、何を言われても『ごめん。これから笹塚と練習だから後にしてくれる?』と笹塚くん優先にしてます。

笹塚くんはもう色々諦めてます。
好きになったのは仕方ない。想いが叶わないのも仕方ない。
だけど坂元くんのすることにイチイチときめいてしまってます。
期待したくないのに期待しちゃうし、もうこれ以上好きになりたくないのに好きになってしまっています。


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