王道?×平凡
ほんの3週間前…5月という中途半端な時期に転入生が来ていたということに俺は初めて知った。
転入生に興味なかったってのも少しあるが、8割以上がこの学園に来たせいで離ればなれになってしまった大好きな恋人のことで頭がいっぱいだったため、他のことを考える余裕が俺にはなかった。

そんな俺が何故今日、転入生の存在に気付いたかというと、
それは理由はわからないがただひたすら転入生にジーッと見つめられてたからだ。
転入生は俺を見るだけで、近づいて来たり話しかけたりせず、本当にただただ俺を見つめるだけで、これといって人より視線に敏感というわけではないのに、
誰かから見られていると気づき、視線の元を辿った結果、転入生に行き着いたのだった。
視線を辿ったことで俺と転入生は少しの間目が合った状態だったが転入生は直ぐに何事もなかったように俺から視線を外し、転入生の周りに群がっていた生徒会の奴らと話し始めた。
この学園に入学してから1ヶ月以上経つが未だ友達が出来ていない俺は、たまたま近くで俺と同じように食事をしていた生徒に声をかけ『あれは誰なのか』と生徒会の奴らの真ん中にいた転入生を指差しながら聞き、そこで初めて俺は転入生の存在を知った。

だがなぜ転入生は俺を見ていたのかという疑問が残ったが、きっとたまたまだろうと納得し俺はあっという間に転入生のことを忘れ、すばやく寮部屋に帰って愛しの恋人に電話をかけた。
機械特有のプルルルルルルという音を聞きながら、相手が出るのを今か今かと焦れったく思いながらも待ち、
ガチャッと音が鳴った瞬間『もしもし!もしもし?』と間髪を入れずに言うが相手からの返事がなく、
『もしもし、馨?』
返事がないことを不安に思い、確かめるように少し大きめに名前を呼ぶと、
小さく『ん。』と返事が聞こえ、思わず目の前に馨は居ないが嬉しくなり笑顔になってしまう。
だが、やはり目の前に馨がいないという悲しさを思い出し、心が痛くなり涙が出そうになる。
『…馨ぅ!俺寂しいよー泣いちゃうよー』
『海は泣き虫だなぁ』
『だって馨が居なくちゃ生きていけないもん』
『俺も海無しじゃ生きていけないよ』
『…嬉しい。でも馨、全然寂しそうじゃないじゃん』
『んーそうかもね。寂しくは無いからな』
『もしかして、浮気してるの?…馨が幸せなら俺は…『違うから』』
『海の事がこんなに好きなのに、他に行くわけ無いだろ。その前に、海以外の奴に興味ないし。あーだけど俺、絶賛海不足中だわ』
『…もぉ、馨大好き!俺も超馨不足だよ!』
そこからいつものように何気ない話をして、馨との電話をきった。
気付いた人は気付いただろうが、そう。
俺の恋人である馨は男なんです。
しかも平凡な俺とは全然違い、馨は超超超イケメン!
なぜそんなイケメンの馨と俺が付き合っているかと言うと話が長くなってしまうのでまた今度。
だけど馨と俺は自他共に認めるほどのバカップルで親公認の仲なのだが
この春、2人とも無事同じ高校に合格したのに、馨が1年間海外にいる馨の両親の手伝いに行くことになり、1年間離れ離れになってしまった。
夜に電話をし、それ以外はメールをしているがやはり本人が居ないのはとても寂しく、馨と電話をした後は必ず泣いてしまう。
毎日枕を濡らしながら寝ているせいで少し睡眠不足になってしまい、
授業中にうとうとしてしまうことが多くなって授業に集中力する事も出来ない。
馨に『寂しい』とは言うが、『会いたい』や『帰ってきて』などの言葉は俺の低いプライドのために絶対に言わないようにしている。
本当は馨に会いたいし帰ってきて欲しいが、馨の両親のお仕事のお手伝いは難しいものばかりで早く帰ってくるのは無理だ。
俺がワガママを言って馨に迷惑をかけたり困らせたくはない。
ノロケじゃないが俺が『会いたい』なんて言ったら、俺の事を愛してくれてる馨は迷わず俺のために仕事を放っといて日本に帰ってきてくれるだろうが、それじゃあ馨の両親に迷惑をかけてしまうことになるので、俺が我慢しなければならない。



昨日は馨と電話した後、なかなか寝付く事が出来ず
やっと眠りだしたのは3時過ぎでまだとても眠いが学校が始まってしまうので無理矢理にでも身体に鞭打って起き上がらせる。
今日も1日馨がいない生活をしなければならないのが辛いが、俺にはどうすることもできないので
一言『おはよ、行ってきます。』とだけ馨にメールを送り、寮部屋から出る。


特に何か変わったこともなく、ひたすら教師の話を聞きながら黒板に書かれた文字を自分のノートに写しているうちにいつの間にか、全て授業が終わっていた。

『今頃馨はどうしてるんだろ』っと頭の中を馨でいっぱいにさせながらいつもよりだいぶ早いが気分転換を含めお風呂につかる。
湯船にもしっかり浸かったあと湯冷めしないうちに素早く服に着替え、またしてもいつもより早めに食事を取ろうと食堂に足を運ぶ。
特に食べたいものなどなかったので適当にかけうどんを頼み食べ終わりそうになった時、ちょうど良く馨から電話がかかってきた。
今までの適当でテンション低くかったのは幻だったのかと思うくらい『もしもし馨?』っと少し高めの声が無意識に出る。
『はは、今日も海は元気だね』
『…そーでもないよぉ、馨が居なくて寂しいし』
『ふーん。海、今何してるの?』
『今?かけうどん食べてる。馨は?』
『俺?俺は…』
馨の声を聞いてるうちにだんだんウトウトしだし、馨の声を聞きながら久々に心地よい眠気に誘われ俺は深い眠りについてしまう。



隣から愛しい体温と匂いがするのに気付き、今まで閉じられていたマブタをゆっくり開ける。
「起きた?海」
「んー」
「こんなところで寝て、風邪引いたらどーすんの」
「んー…?ごめん?」
思考がまとまらないまま、投げ掛けられた言葉に素直に返す。
だが、少ししておかしいと気付き話しかけてきた相手を見て目を丸くする。
「…かお…えっ?」
馨の声によく似てて、もしかして馨!?っと思い見た顔は知らない人だった…
いや、違う。この人知ってる…確か昨日初めて知った転入生君だ
「えっと転入生君?」
「海さぁ、俺の事わからないの?」
何故か転入生君に呆れたようにため息をつかれ、少しムカッとしていると転入生君は『オラッ』と言いながら
分厚い眼鏡をとり、長い前髪を上にあげた。
「…っ……馨ぅ」
その顔は今までずっと会いたいと思っていた馨だった。
思わず軽く泣きながら馨に抱き着き、顔を馨の胸に押し付ける。
だが冷静になり、なんで今馨が此処に居るのかという疑問が出てきた。
「なんで…えっ?ってか、転入生君…えっ?」
馨が目の前に居るのはとてもとても嬉しいが、馨の親の仕事を手伝う為に1年も離ればなれなってしまったはずなのに、なんで今馨は俺の目の前にいて、俺をギュッと抱き返してくれるの?
「1年も海と離ればなれとか耐えられねぇから、オヤジの仕事の手伝い1ヶ月で全部終わらせてきた」
二カッと笑ってるんだろうが、長い前髪と分厚い眼鏡のせいで馨の顔を見ることが出来ない。
「俺もずっと馨と会いたかった。でも、なんでそんな姿してるの?」
確か馨は、目が良いから眼鏡なんてかけていなかったし
1ヶ月でこんなに髪が長くならない。
「あー…それは、海は別になんとも思ってないのに、俺だけが海に会いたいって思って予定より早く仕事片付けて帰ってきたら恥ずかしいじゃん。だから海の様子を伺うために変装してた」
馨の言葉に目を丸くするが、意味がわかり嬉しいと思いながら少し悲しい気持ちなる。
「俺だってこの1ヶ月間ずっとずっとずーっと馨の事だけ考えてたのに、何とも思ってないわけないじゃん…
寂しかったし、帰ってきて欲しかったし、会いたかった…」
だんだん照れ臭くなって馨の胸に顔を埋めながら言うと
「うん。来てすぐに、んな事思わずに海に会いに行けばよかった。
海が寝不足なのも、毎朝目を赤くさせてんのも俺のせいだろ?ゴメンな」
俺の頭を優しく撫でてくれる馨に大人しく、今まで会えなくて出来なかった分、ギュッと抱きついていると
「「「「「「馨!!!」」」」」」」と揃った声が食堂の入り口らへんから聞こえた。
そのおかげで、俺達がいるのは食堂だということを思い出し、恥ずかしさから馨から離れようとしたが、その瞬間強い力で馨に抱き締められ、離れることが出来なかった。
「か、馨?呼ばれてるよ?恥ずかしいからもぉ離して」
「やだ。それに恥ずかしがってる海も可愛い」
俺らがイチャイチャしていると馨を見付けた生徒会役員達がこちらに近付いてくる。
「もぉー馨ぅー、勝手に居なくなっちゃダメでしょ!ってか、誰?そいつ」
「馨が何処にもいないのでさがしましたよ。…あなた、馨から離れなさい」
「…馨……心配…した」
「「馨ーっ!!僕達と遊ぶ約束でしょ?」」
「おいテメー、馨から離れろ」
……あー、馨さん?
あなた生徒会役員落としたんですか?
ちょっと…えっ?俺がいるのに…
俺には飽きたって事なの?
「ねぇ、馨。俺1人じゃ足らないってこと?それとも俺に飽きたの?ごめん気付かなく「おい!テメーらのせいで海がいらん勘違いしてんじゃねーか。マジうざったいんだよ消えろ。
…海?違うからな?俺が愛してるのはお前だけだからな!証拠にこんなところでも海にキス出来るから!…しようか?」…ふふっ、わかってるよ。俺も馨大好き」
少し冗談が過ぎたかな?
さっきまであんだけ馨に愛をささやかれてたのに、俺に対する愛が偽りのものだとか思ってないから
「このー海!俺をからかったなぁー。あとで覚悟しておけよ」
「へへ、馨にだったら俺何されてもいいよ」
「嬉しいこと言ってくれちゃって…、それなら遠慮なく明日学校行けないようにしてやる」
また場所を忘れてイチャイチャしてると
生徒会役員達が唖然とした顔で俺たちの事を見ているのに気付いた。
「馨?こいつはお前の何なんだ…?」
いち早くこちらの世界に戻ってきた会長が馨に問うが、馨は聞こえない振りをしているのか会長の問いには答えずに、俺をひたすら抱き締めてくる。
嬉しいけど、こんなに人がいっぱい居る前で抱き締められるのはさすがに恥ずかしすぎるよ…
照れ隠しの為に「馨!!会長が呼んでる!」と言うと
不満そうな顔をしたあと
「海は俺の可愛い可愛い恋人だから、お前らが見ると可愛い海が減るから見るんじゃねーよ」と言い
生徒会役員達から見えないように俺を隠し、またもや唖然とした顔を浮かべる生徒会役員達を置いて、俺達は食堂から出て行く。



この1ヶ月、馨が居なくて寂しい日々を過ごして来たが、これからずっと一緒に学校生活送れるんだと考えると思わずスキップしたくなるほど嬉しい。
抱き締めたままでは歩きにくいので、手を繋ぎながら馨の寮部屋に向かう俺達にはもぉ後ろから何か言ってる声も聞こえない。








解説
手のつけようがないただのバカップル。存在が恥ずかしい。所構わずいつもいちゃラブ。
でもそーなるまでに色々あった。
それを乗り越え今のアレがある。


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