大学生×社会人
本当にありえなすぎるだろ俺…
男の俺が同じ男を好きになることすら普通じゃないのに
その上、その人が妻子持ちなのに諦められないなんてどんだけ執念深いんだよ…



社会人2年目を迎えた俺は絶対報われない恋に胸を焦がす毎日を過ごしている。
「上野くん今日、一杯行かないか?」
「いいですけど、また息子さん関係ですか?」
「はは、バレてしまったか。もうすぐで息子の誕生日でな」
うちの部署で部長を任され、そして俺の報われない恋の片想い相手である高見部長。
高見部長は会社に入ったばかりの新人で右も左もわからない状態の俺に嫌な顔1つせず、優しく丁寧に仕事を教えてくれた。
そのことがきっかけで俺は部長に恋してしまった。
元から部長が結婚しているのは左手の薬指に付いてる指輪で気が付いていたが、まさかもうすぐで二十歳になる息子までいるとは想像もしていなかった…
38歳の部長に20歳の息子がいるなんて、本当にびっくりだ。
そして最近俺はその20歳になる息子さんの相談や話を部長からされるようになった。
部長曰く『若い者の考えは若い者にしかわからん』という考えから俺にとっては部長と2人きりの食事などという得としか思えない状態が続いている。






「小さい時から啓太は凄く優秀でな、小学生の時なんてテストで良い点とるたびに俺や直子に見せてきて、そりゃー可愛いやつだった。
今も、昔と比べりゃ可愛さはなくなったが、俺達親にとって子供はいつまでたっても可愛いもんだよ…ヒック」
酔いが完全に回ってる高見部長は、酔っているのかと疑いたくなるほど滑らかにつっかえもせず息子の啓太くんの話を続ける。

部長ー、言い方は毎回変わってますが内容がほぼ一緒の事しか言ってませんよ
「啓太くんが頭も性格も顔も良くて、親思いの良い子だってのは十分にわかったので、誕生日プレゼントの話をしましょうよ」
「あぁそうだった。そうだった。はぁ、啓太ももうすぐ二十歳か…
この20年間、長いようで短かったよ。
…あと数日で啓太と一緒に酒を飲めるようになるなんてな…
おれ、今まで頑張って仕事してきて…生きてて良かった……ヒック」
まーた語りだした…とため息をつきたくなるが、目頭に涙を溜めながら本当に嬉しそうに微笑み、息子さんのことを語る高見部長は仕事している時とは違う、優しい父の顔をしていて思わず俺も微笑んでしまう。
こんなに部長に愛されてる息子さんも素敵な旦那さんを捕まえた奥さんも幸福者だな…
あーあ、俺も早く部長のことを諦めて新しい恋でもして結婚したいよ…
「啓太くんの為にも、啓太くんが喜びそうなプレゼントしっかり考えましょう」
俺の恋より、今は部長の息子さんの誕生日プレゼントの方が重要だ。
部長が部下に頼ってまで息子さんを喜ばせたいみたいだし、俺も手伝えることなら出来るだけ手伝いたい。
「あぁ、そうだな。…そーいえば、上野くん、5日後空いてるか?」
「はい。残業にならない限り暇ですけど、何かあるんですか?」
「啓太や直子に上野くんの話をしたら、『是非家に連れて来て』と言われてな。良かったら家にご飯食べに来てくれないか?」
部長……お家でどーいう風な話をすれば『家に来てくれ』って話になるんですか…
「…はい、迷惑にならないなら是非」
「よし!直子に腕によりをかけてもらうから楽しみにしとけよ」
二カッと笑う部長に俺も笑顔で返す。




飲みに行った日、息子さんである啓太くんの誕生日プレゼントに何をあげるか、あのあと徐々に酔いが覚めてきた部長と話し合い、時計をプレゼントする事に決まった。
そして次の日、仕事場に時計のカタログを持ち込み昼休憩の時間を使って柄や色を決めた。
あとになって、柄も色も完全に俺好みで選んでしまった事に気付き、もし啓太くんが気に入らなかったらどうしようと頭を抱えてたが
そのまた次の日、早速誕生日プレゼントの時計を買いに行って息子さんにプレゼントした部長が『とても喜んでくれたよ』と言っていたので、とりあえず安心した。
そしてそれから数日たった今日、俺は部長と一緒に部長の家へと向かっている。


「いやぁ啓太がプレゼントをすごく喜んでてな。上野くん、君のおかげだよ。本当にありがとう」
「良かったです。俺の好みが啓太くんに気に入ってもらえて。またなんかあったら言ってください、俺でよければ手伝いますので」
話ながら部長の愛車に揺られ着いた家は一般家庭より一回り大きく、俺は『将来このぐらい建てられるように頑張ろう』と1人勝手に決意した。
外観も良ければやはり内観もよく、入ってすぐの玄関には既にスリッパが用意され、ホコリ1つ無さそうな上にピカピカの廊下に暮らしの違いを感じた。
妻にするなら掃除上手も要素として必要だな…うん
「ただいまぁー。上野くん連れてきたぞー」
部長が声を張り上げると奥からパタパタと走る音が聞こえ、ガチャッと扉が開かれるとそこには長身でVネックの服の着たイケメンくんが笑顔で立っていた。
「父さんおかえり。その人が上野さんだよね?写真で見るより断然可愛いね」
「あぁただいま。上野くん、こいつが息子の啓太。よろしくしてやってくれ」
…あっ!はい!!と告げた俺に啓太くんは『初めまして』と言い手を差し伸ばしてきたのでその手を掴み握り返す。
今、気のせいじゃなければ可愛いって言われなかったか?
「ささ、父さんも上野さんも早く行きましょう」
何故か握手された手は離されず、そのまま引っ張られ中に進んだ。
普通ならここで何かしら言って離してもらうが、いつも話では聞いていたが初めて会った啓太くんは部長が思わず自慢したなるのがわかるぐらい本当にカッコ良く、呆然としてしまいそれどころじゃなかった。


「あなたが上野くんね!うん。写真より可愛いわ」
中に入ると部長の奥さんがキッチンの前に立っており、まだ手を繋いだままの啓太くんが部長の奥さんである直子さんの事を手短に紹介してくれた。
あれ?また可愛いって言われたよ俺…
…部長?ホントにお家で俺の事どんな風に話してるんですか…
「もう少しで出来るからあっちのテーブルで待っててくれる?
啓太はついでにこのお皿も持って行ってちょうだい」
直子さんに言われ俺と繋がれてる手をチラッと見たあと少しブー垂れた顔をした啓太くんはしぶしぶ頷き俺から手を離した。
手を繋いだり、今の名残惜しそうな顔といいもしかして俺、啓太くんに気に入られてる?
「あっ、俺も何か手伝います!」
「上野くんはお客さんなんだから座って待っててください」
「そうだ。直子の言う通り、上野くんは何もしなくていいんだぞ」
家着に着替えに行っていた部長がちょうどよく戻り、直子さんの言葉に便乗する。
申し訳ないがお言葉に甘えさせてもらい適当に座って待たせてもらった。
既にテーブルの上には沢山の料理が揃っており、どれも美味しそうで思わずヨダレが出そうになるのをこらえてテーブルから視線を外し、隣に腰を下ろした啓太くんを見た。
「あの…、啓太くん」
「どーしました?あっ、喉でも乾きましたか?」
「いや、違くてコレ。…ちょっと日にち過ぎてるけどお誕生日おめでとう」
ガサゴソと鞄を漁り、一つの包みを取り出して啓太くんに渡す。
「靴下なんだけど。大したものじゃなくてゴメンね」
「これ、俺に…ですか?」
俺が渡した袋をジッと見つめながら唖然とした顔する啓太くん。
だが直ぐに我に帰り『ありがとうございます。大事に使わせてもらいますね』とお礼の言葉と笑顔が付いて返ってきた。




直子さんの料理は本当に美味しく、その上部長に勧められるがまま酒を飲んだせいで、俺はフラフラになり自分1人では立てないぐらい酔ってしまった。
「ぶちょー、すいません」
「いやいや、俺も調子にのって飲ませすぎたのも悪かったよ。明日は休日だし今日は我が家に泊まってくれよ。今、直子が準備してるからもう少し待っててくれ」
「…すいません」
さっき用意してもらった水をちびちび飲み、酔いを覚ます。
頭の中がグルグルする…なんだこれ…気持ち悪い…
「大丈夫ですか?布団の用意出来たんで行きましょ。…立てますか?」
「ありがとう。啓太くん」
迎えに来てくれた啓太くんの肩を借りてなんとか立ち上がり歩き出す。
階段を上がり着いた場所は生活感のあるシンプルな部屋だった。
「こんな酔ってる上野さんを1人にさせられないんで、俺の部屋に布団敷いてもらったんです。」
スーツに皺が出来ちゃうんで脱ぎましょうかと言う啓太くんの言葉に従い俺は服を脱ぐ。
フラフラしながらもなんとか脱ぎ終わると近くから視線を感じ、視線の先を辿ると啓太くんが何故か俺をガン見していた。
「どーしたの?啓太くん」
「あっ…いや、なんでもないです。あの、もう電気消しますね。おやすみなさい。」
突然慌てだす啓太くんを疑問に思いながらも眠気がやってきてそれどころではなくなり、俺は啓太くんに『おやすみなさい』と言い目を瞑った。
もう少しで眠りそうな浅い意識の中、「上野さん。好きです」という声と唇に何かが軽く触れる感触を感じながら俺は意識を離した。






解説
会社の慰安旅行の写真で上野くんを見て惚れてしまった啓太くんと、
今だに高見部長が好きだけど、自分の気持ちを部長に言う気も奥さんから部長を奪い取るつもりもない上野くんの焦れったい、まだまだ恋に発展しないだろう話。
ちなみに年齢は上野さん24歳。啓太くん20歳。高見部長38歳。直子40歳。

もし、続きを書くとしたら上野さんの好きな人がお父さんだと気付き『俺じゃ父さんの代わりにならないですか?』という展開になると思います。


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