イケメン×痴漢
も、もう我慢できない。
1回だけ、1回だけでいいので触るのを許してください神様…



ぎゅうぎゅう詰めの電車の中、ドア付近に立ち外を見ている茶髪のイケメン君目掛けて俺は手を伸ばす。
揺れの酷いもみくちゃの電車だとしてもさすがに揉むのはヤバイだろう。けど自然を装って傾いた拍子に手を押し付けるぐらいならばきっとバレないはず。
そう考え、急カーブを狙い実行し見事に作戦は成功した。
男なのであまり柔らかくはないが引き締まりのある良い尻に思わず再び触りたい衝動が湧き上がってしまうが、1度きりだと決めていたので俺は諦め体を支えるために両手で手すりに掴まった。






「ねぇお兄さん。さっき俺のお尻触ってたでしょ?」
「えっ?あっ…」
最寄り駅に着き、降りたと同時に突然腕を掴まれ振り返ると、そこにはさっきの茶髪のイケメン君が屈託のない笑顔でニコリと笑っていた。
幸いにも降りる人が少ない駅で、周りに人は居なかったおかげで誰にも聞かれずに済んだが、痴漢したことを本人にバレてしまっていたなんて…
「す、すいません。つい出来心で…。
何でもしますんで許してください」
「まぁ許す許さないわ今は置いといて。とりあえず、お兄さんの家に連れてってよ」
イケメンの言ってる意味が理解できず数秒固まった後、やっと意味を理解し声を荒げる。
「…えっ?はっ?」
自分を痴漢した相手の家に来るって……何故?
こいつ俺に襲われるつもりなのか?それとも他に別の意図でもあるのか?
「連れてってくれないと『この人が痴漢しましたー』って駅員さんに言いに行くよ?」
…それは何としてでもやめていただきたい。
どういうつもりだかわからないが、俺の家に連れて行けばいいらしいし
黙ってしたがっておくしかない。
「歩いて10分ぐらいだから少しかかるよ?」
「全然大丈夫だから、早く行こう」
イケメン君と並んで歩き出し、少しずつだが思考が冷静になり『なんだこの状況は…』と思いながらも、隣にはモロ好みのタイプが居てドキドキが止まらない。
茶髪のイケメン君の身体はとても細くスラリとしているが決して女みたいに抱きしめたり掴んだりしたらすぐに折れてしまいそうというわけではなく。
むしろ男特有のゴツゴツした角張った手なんか、俺よりも断然大きく思わず『触りたい』と考えてしまうぐらい魅力的な代物で、無意識に俺はイケメン君の手から視線が外せなくなっていた。
「どーしたのお兄さん?今度は尻じゃなくて手、触りたいの?」
「うん。……えっ?あっ!違う違う!そうじゃない!」
突然のことで思わず頷いてしまったが、何正直に頷いてんだよ俺…
本当に何なんだよ今日の俺は、おかしすぎるだろ…

恋愛対象は物心ついた頃から男だったが、今まで『触りたい』なんて思ったことは1度もなく、けれどこのイケメン君を見かけてからは『触りたい』という衝動が溢れ出てきてしょうがない。
「だってお兄さん超俺の手ガン見して「こ、此処が俺の家!!!」」
イケメン君がブーブー言っていたが、お願いだからさっきの俺の発言は忘れてくれ。
このままいくと俺、犯罪者になっちゃうから!
いや…痴漢してしまった時点で既に俺は犯罪者か…
「あんま綺麗じゃないけどどうぞ…」
「失礼しまーす」
一人暮らしのサラリーマンとしては割と家はデカイ方だが、あまり片付けは得意ではないので所々散らかっている。
けれどイケメン君はそれほど気にしてないのか、とことこ歩き出しリビングのソファーに腰を下ろした。
「飲み物はお茶でいい?」
「はい。っで、お兄さん!お兄さんってホモなの?」
「………あぁ、そうだよ。痴漢した事はホントに悪いと思ってる。つい出来心だったんだ…」
黙々とお茶を注ぎ、そのコップをイケメン君の前に置いてやる。
「お尻を掴むぐらいならどんだけ揉んだって構わないけど、俺のお尻なんて柔らかくないからつまんないよ?俺より絶対お兄さんのお尻の方が柔らかいだろうし」
イケメン君はソファーから立ち上がって俺に近付き、ふにっと俺のお尻を揉んだ。
「あっ…」
「ほーら柔らかい」
ふにふにと未だ揉み続けてるイケメン君の手首を掴み、俺の尻から離す。
「な、何やってんだよ」
「お兄さん見てたらすごく触りたくなって…。お兄さんって普通の顔だけどなんかスゲー可愛い。
多分電車の中でお兄さんが俺に触ってなかったら、俺の方がお兄さんに触ってたよ」
俺がイケメン君に触ってなかったら、イケメン君の方が俺に触ってた?…どういうこと?
俺はホモだからわかるが、こいつはどう見てもノンケだろ…
「男になんて全く興味なかったんだけど、なぜかお兄さん見た瞬間凄く『触りたい』って思っちゃったんだよね」
だから窓越しからお兄さん見ながらどうにかして触ろうと考えてたら、お兄さんの方から俺に触ってきてくれたから嬉しかったんだ
と、呆然となっている俺を他所に喋り続ける。
「『これはきっと運命だ!』って思ったんだけど、お兄さんホモみたいだし、たまたま近くに居たのが俺ってだけで別にほかの奴でも良かったんでしょ…?」
いやいや、今までイケメン君以外に痴漢なんてしたことは無いし
好みのタイプが居たとしても『良いな』と思う程度で触ろうとも思わない。
それなのについ触ってしまったのはイケメン君だからで、他の奴でも良いという訳では無いだろう。
「あながち『運命』っていうのは間違いではないと思う。確かに俺はホモで男が好きだけど、『触りたい』と思ったのは君が初めてだし……」
イケメン君は俺の発言を予想していなかったみたいで目を丸くする。
あぁ、イケメンってどんな顔してもイケメンなんだな…
「同じこと考えてるね。やっぱりお兄さんと俺の出会いは運命なんだね。これはもう付き合うしかないと思うんだけど、お兄さんはどーしたい?」
さっきの驚いた顔とは違い、今度はニヤニヤした顔をしながら俺に聞いてくるが、なんで答えがわかってる質問をワザワザ聞いて来るんだよ。
「………付き合い…たい」
そう言った瞬間、イケメン君はニッコリ笑った。
運命うんぬんの前にイケメン君って元々俺のモロ好みだし付き合えるなら付き合いたいに決まってるだろ。
「じゃあ今日からよろしくね、お兄さん」











おまけ
「付き合ってくれるって言ってくれてよかったよ」
「…もし断っていたら?」
「そりゃー『付き合ってくれなきゃ、痴漢したこと警察に言います』って脅してたよ。そうそう。お兄さんの家に行ったのだって、お兄さんがおれにその気がなかった場合に『責任とってください』って丸め込むためだったし。いやぁ、上手くいって本当に良かった良かった」
「…最初から俺はイケメン君と付き合うしか道はなかったんだな………」








解説
ホモサラリーマンとノンケチャラ高生のゆる甘痴漢話。でも痴漢、ダメ絶対。
ずっとホモだが初恋すらしたことない。
性の対象が男で『あぁ、俺ってホモなのか』と気付いた。お付き合いは女の人と何回かあるけど数カ月もしないで別れてしまう。
ノンケチャラ高生はチャラいが、こう見えて結構頭良い。そしてお婆ちゃんっ子の料理上手です。お袋の味を高校生のクセして作れます。
2人の言う通りこれは運命です。


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bkm
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