都会人×田舎者
あれから7年、俺は毎年夏休みなると結城との約束を守るために
あの時と同じ場所、同じ時間に2人だけの秘密の場所に訪れ結城が来るのをひたすら待つ。
「今日も来ないか…」
海に夕日が沈みきるのを見送り、重たい腰を無理矢理持ち上げ家への帰路へと急ぐ。



「なぁ今年も行ってんのか?秘密の場所とやらに」
「んあ?あー、健治来てたんだ」
家に帰ってからアイスを食べながらテレビを見ていると、突然後ろから声が聞こえ振り返ると幼なじみの健治が立っていた。
「んで、行ってんのかよ?」
「当たり前じゃーん。ってか今、テレビ見てるからその話後でじゃ駄目?」
唯一毎週楽しみにして見てる番組の時に話しかけてくるとか相変わらずタイミング悪いよなぁ
君を本当に残念な人間だよ健治くん…
心の中で健治に同情しながらもテレビからは視線を外さず、しっかりと最後のエンディングまで見届けてから健治に向き直る。
「えーっと…、何の話だっけ?」
「だから今年も結城を待ってんのかって聞いたんだよ!」
頬杖をつきながらボーッと俺同様テレビを見ていた健治は俺が話しかけると一気に顔を輝かせ、やっと話しができると喜んでいるのかだいぶテンションが高く、無意識に俺の眉間にシワがよった。
「声デケェよ。落ち着けよ。あー、その話だったな…」
「もぉ、何年も経ってんだしいい加減諦めろよ」
諦めろよと言われても俺は結城が必ず来るって今も変わらず信じ続けてるし、諦めるつもりなんて全くないんだけどなぁ
「俺はしたくてしてることだし、健治には迷惑かけてないだろ?それに毎年毎年『諦めろ』ってうるさいんだよ健治は」
「俺は郁人のことが心配で……」
「高3の男子に向かって心配は不必要。ってか、何が心配なのかわかんねぇし」
昔から健治は俺と同い年のくせに勝手に『自分は郁人のお兄ちゃん的存在だ』と思い込み、
俺のやる事成す事『心配だ』『1人で大丈夫か?』『手伝うぞ』と余計な心配ばかりかけてきて、ぶっちゃけありがた迷惑すぎる健治の行動に少しイラッとするが
健治が凄く優しい良いやつで、本気で俺を心配しているとわかっているから文句を言うがあまり突き放せない。
毎年俺のことなんか気にしてないで夏休みなんだし彼女の1人や2人作りにいけばいいのに、ほんとに残念だよ君は…
俺は君の将来の方がとても心配で仕方ないよ。悪いやつに騙されないようにな…健治。





夏休みが始まってから1週間で早速夏風邪をひいてしまった健治の所へお見舞いに行ったあと俺は山の上にある神社へ向かった。
「こんないい天気で、まさに虫取り日和なのに健治のヤロー風邪引くなんてほんともったいないなぁ」
健治の残念さに同情しながら、木の上の方で鳴いてるセミに狙いを定め網を振り下ろす。
「…っおし!取れた」
網の中でジタバタ暴れているセミが落ち着くまで待ち、落ち着いた所でセミの背中を掴み虫かごの中に入れると
後ろからパチパチと手を叩く音と『凄いね』という声が聞こえ振り返ると同じ年頃ぐらいの綺麗な顔をした少年が目を輝かせながら立っていた。
「えっ、誰?」
あまり大きい島では無いので島の人々とはほぼ顔見知りのはずだが、この目の前にいる少年は初めて見る顔で俺は目を丸くした。
「僕は結城。旅行でこの島に来たんだ。夏はずっとこっちにいるからよろしくね」
「俺は郁人。あー、観光客かぁ!でもこの島、観光するとこ全然ないぞ」
観光客なら見たことなくても当たり前だと1人納得し、結城にあまりこの島には観光する場所がないと教えるとがっかりした顔した後
「郁人はいつも何してるの?」と聞いてきた。
「俺?うーんセミ取りとか冒険とかその日の朝にすること決めてるけど?」
「じゃあ僕、郁人がいつもしてることをしてみたい!」
「おー、いいぞ。色々俺が教えてやるよ」

その日から俺と郁人はよく一緒に遊ぶようになった。
遊んでる中で知ったことだが結城は俺より1つ年上の小6でこの島には1人できたらしい。
両親がお金持ちだから自由がきくんだと言っていたが1人でこんな島に来るなんて危険すぎるだろ…
それを結城に言うとヘラっと笑い『来年から中学生だし、僕もう大人だから大丈夫』と言った。
俺と1つしか違わないのに大人ぶる結城に俺は可笑しくて頬を緩めた。





あと少しで夏休みが終わってしまう。
たくさん結城と思い出作りができて満足しているが、明日で結城と会えなくなってしまうのはやはり寂しい。
『近いうちにまた来てくれ』と言えるほど結城が住んでる場所は近くないらしいし、中高一貫の学校に入ると言ってたので中学生になったら自由がきかなくなると少しションボリしていたのできっともうこれから先会える可能性はないだろ。
会えたとしてもお互い相手のことを忘れちゃってるかもしれないし…
いや、俺は絶対に結城のことを忘れない自信はあるがな!


はぁ…、にしてもなんで俺いつの間にか結城を好きになっちゃったんだろ。
男同士ってだけで無理なことなのに、もう一生会えないかもしれない相手を好きになるなんて…
でも最後になるならどう思われたってこの気持ちだけは結城に伝えたいな…


…っと昨日までは考えてたけど、実際結城を目の前にすると緊張して何も言えなくなるし
振られるのが恐ろしくて胃が痛くなってきた。
「郁人?顔色悪いよ?」
「あっ、うんごめん。大丈夫」
島に生まれた時から住んでいた俺だがこの夏休み中結城と冒険しているときにたまたま海も家も一望できる俺と結城だけの秘密の場所を見つけた。
見つけた日からその秘密の場所が俺と結城の待ち合わせ場所になった。
今はそこで2人お互いに海をボーッと見つめている。
「郁人はさぁ、僕が帰っちゃうの悲しい?」
「…悲しい」
「それは友達として?」
結城の問いの意味がわからず結城を見つめると苦笑いしながら
「…あのね最後だから言うけど初めて見たときから郁人に一目惚れしてたんだ僕。男に想われてもキモいだけだよね?ごめんね、直ぐに忘れてくれていいから」と言ってきた。
何故か落ち込みだす結城に慌てて
「お、俺も結城のこと好き!そ、その友達としてじゃなくて、恋愛感情で」
と返すと目を丸くした結城が『ほんとに?』と言い、ぐいっと俺に近づいてきた。
「ち、ちかい…」
「ねぇほんと?」
「ん。ほん…」
言いかけたところで結城に軽くキスをされた。
顔真っ赤にして結城を見ると
「またこの季節に、僕が1人前になった時に、必ず郁人を迎えに来るからそれまでここで待ってて…」
と俺を抱きしめながら諭すように言ってきた。
俺はそれに『うん』と言い、涙を流しながら結城に抱き着いた。



あれからもう7年、俺は毎年結城が来るのをここで待っている。
結城の必ず迎えに来るという言葉を俺は今も信じて待っているが、結城の方はもしかしたら俺のことなんか忘れてるかもしれない。
でもそれでも俺は構わない。
こうやって結城を想い待ってるだけで俺は幸せなのだから。


「んっー。今日も終わりか…」
伸びをしてからヨイショと立ち上がり、独り言を言いながら家に帰ろうと後ろを向くと
1人の男性が目を潤ませながら立っていた。
それに俺は驚きながらも嬉しさを隠せず、思わず勢いよくその男性に抱きついた。
「迎えにきたよ…郁人。長い間待たせてごめんね」







解説
健治くんは郁人くんのこと友情でも恋愛感情でも好きです。でも最初から勝ち目ないとわかっているので、郁人くんを見守りつつ不毛な恋だと諦めさせようとしてます。モテるのに郁人くんが心配で毎年彼女を作らず、そしてタイミングの悪さに定評のある残念な健治くんでした。私はいじらしくて結構好きですよ。

約束通り迎えに来てくれましたね。
郁人くんは人口の少ない島なので、他所からやってきた結城くんに最初は興味津々だったがその気持ちがいつしか恋に。
結城くんは無邪気にセミ取る郁人くんに憧れと同時に一目惚れをしました。
郁人くんと結城くんはお互い『好き好き大好き!!早く会いたい』と思っていたので、このあと2人で都会でイチャイチャラブラブ同棲生活をスタートさせます。砂吐くレベルの甘さです。
それにしても郁人くんも結城くんも小学生のくせにませててビックリしました。


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bkm
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