ありがとう。でもごめん、信じられない。
物心が付いた時には既に隣に居て、
自分でも気が付かないうちにいつの間にか俺は晴海の事を好きになっていた。
だが俺はその気持ちを晴海に伝える気は一切なく、自分の気持ちにフタをしてその事実を墓場まで持っていくつもりでいたが、中学2年に上がって1週間経とうとしたその日
突然晴海は頬を赤くさせながら『恋人が出来た』と告げた。
内心少しショックを受けたが、『中学生にもなれば恋人の1人や2人出来たっておかしくない』ということもあり、別段戸惑いもなく一緒になって喜び祝ってやると
晴海は少し気まずそうな顔をしたあと意を決したのか
『その…恋人っていうのは実は、男…なんだ』と言い
今度こそ俺は目の前が真っ白になった。

そのあと俺は『凄くカッコイイ』やら『優しい』やら
嬉しそうに恋人の話をする晴海の話を聞いていたが、ちゃんと笑えてたか自信がない。

別に晴海が幸せならそれでいいが、もし俺が気持ちを抑えずに晴海に告白をしていたら実っていたのかと考えると凄く切ない想いが沸き上がる。
しかしもう過ぎてしまったことにはどうしようも出来ない。それに今更どうしたって遅く、俺は晴海の幸せを見守ることに徹した。


けれど中学3年の夏から晴海と晴海の恋人はよく喧嘩別れをするようになった。
理由は些細な事ばかりで
『俺を待たずに先に帰った』やら『デートに遅れた』やら『構ってくれない』やら
馬鹿らしい理由ばかりで最初の方はお互い直ぐに謝り仲直りしていたが、どんどん仲直りするのに時間がかかるようになり、
とうとう2月の始めに喧嘩別れをしてから卒業の時まで喧嘩は続き、流石に焦った晴海がよりを戻そうと恋人に電話をかけたが『このケータイは既に使われていない』という無惨なアナウンスが恋人との終わりを告げ、晴海は声をあげて泣き崩れた。
俺にすがるように愛しい人を思って涙を流す晴海に俺は思わず墓場まで持っていくつもりだったものを口に出してしまっていた。
晴海は俺の突然の告白にビックリしたのか一瞬涙は止まったが再び涙を流し始め
『あの人じゃなきゃ嫌だ』と首を横に振った。
わかりきっていた返答だったがその時の俺は一歩も引かず
『あの人の代わりでいいから『恋人』って肩書きを俺に頂戴。俺はずっと晴海の隣に居続けるから』と言い俺は晴海に触れるだけのキスをしたあとギュッと抱き締めた。
それに晴海は抵抗せずただただ俺に抱き締められながらゆっくりと首を縦に振ってくれた。

傷心なところに漬け込み晴海の恋人の位置を手に入れるなんてホント自分はズルいなと苦笑いを浮かべた。
けれど俺は同時に晴海の恋人が迎えにくるか、晴海に好きな人が出来たら直ぐにでも別れ、晴海の幸せを願おうと決心した。





あれから1年以上経ち、気が付けば俺と晴海は高校2年生になっていた。
俺と晴海が通う高校は少し特殊で、全寮制の男子校故に男同士での恋愛がここでは普通の出来事で最初は2人とも戸惑っていたが、1年も経てば嫌でも慣れた。
それに学園の人気者である生徒会や風紀委員などその他親衛隊持ちに晴海はいつの間にか惚れられており、人気者達が毎日晴海を口説く姿を見ていたら慣れたくなくても慣れてしまった。
けれど人気者達に惚れられたせいで、晴海は人気者達の親衛隊に目をつけられ軽いのから犯罪ギリギリのまであらゆる制裁を受けており、軽いものなら晴海にバレないよう俺が処理してるが
俺と別行動してたときに知りもしないやつに強姦されかけていた晴海を見付けた時は心臓が止まるかと思った。
一応俺と晴海の肩書きは今も『恋人』のままだが、1年前のあのときに1度キスしたっきりキスなどしたことはないし、ましてや身体の関係も全くない。
恋人といってもすることはほぼ友達のときと一緒で変わったことと言えば時々抱き締めあうだけだ。
なので人気者達が晴海を口説いてる姿を見ても『晴海は俺のものではないし、それにいつか晴海に好きな人が現れるまでのただの肩書きだから』という気持ちと慣れのせいもあり特に何も思わなくなった。
それにもしかしたらこの人気者達の誰かを晴海は好きになるかもしれないと発展の機会を増やすためにあまり晴海とは必要以上にそばに居ないので、押しに弱い晴海なら人気者達に押しきられてヤってる可能性もあるので感情を無にする他ない。
けれど人気者達は確かに肩書きだけだとしても俺と晴海が付き合っていると知ってるはずなのに晴海を口説くなんて、いつか晴海に好きな人が出来たときに潔く諦めてくれるのかがとても不安に思えて仕方ない。
まぁ多分邪魔してくるだろうし、そんときは俺がなんとかしてやればいいか。

そんなことを思ってた数日後ある人物が学園にやってきた。
その日は突然の集会で体育館に集まると新しく赴任してきた英語の教師を紹介された。
ただそれだけのことだが俺と晴海は新しく学園に赴任してきた英語の教師に目を丸くした。
だってあの人は俺達の中学時代の教師であり晴海の恋人だった吉野先生なのだから。
どーいう理由でこんな始業式を終えて数週間経った微妙な時期に先生がこの学園に来たか知らないが、これで晴海が幸せになるんだと思うと俺も幸せな気分になる。
俺は隣に座る晴海の横顔を見ながら、一応肩書きにすぎない『恋人』の関係にあとで別れを告げようと頬を緩ませた。
俺は自分の幸せより、俺が一番好きで今も愛してる晴海の幸せをこれからも友達という形でずっと隣で願い続けるから。



集会が終わって直ぐ人気者達が晴海に群がってきたので俺は安心して晴海の元から離れ、先生の元に向かった。
先生も俺が向かってるのに気付いたみたいで、先生は軽く俺に向かって手を振った。
「久しぶりですね先生」
「おー、お前は相変わらず晴海の隣にいるんだな」
「そりゃ友達ですからね。…本題ですけど、先生のせいで晴海凄く悲しんでましたよ」
俺が本題を告げると先生は少し顔を歪ませた。
「あぁ…、ホントに悪いと思ってる。いきなり何も言わずに消えたことは凄く後悔した。でも俺は今も昔と変わらず晴海を愛している」
遠い目をしながら『まだ晴海を愛している』と答えた先生に俺は安堵した。
これで晴海の幸せは確定したも同然。
なんだかんだ人気者達に構われても(身体の関係は俺にはわからないが)風紀委員長や会長といい雰囲気にはなっても恋にまでは発展しなかった。
これはきっと未だに先生を引きずってるからだろう。
「先生の言葉聞いて安心しました。…あっ、先生!この学園の人気者達はほぼ晴海の事が好きですから早くやり直した方が良いですよ」
最後に忠告してから俺は走って自分のクラスに向かった。



放課後『先に帰ってて』という晴海に従い先に帰り、俺と晴海の寮部屋の共同スペースでボーッとテレビを見ながら晴海の帰りをまっていると
思っていたより早く晴海が帰ってきた。
「おかえり晴海ぃー」
「おー、ただいまぁ」
自分の部屋に行き、荷物を置き部屋着に着替えてきた晴海は俺の隣に座り俺同様ボーッとテレビを見だしたので
「ただの肩書きだけどさぁ、一応別れよっか」
視線をテレビから外さずに言うと
「はっ?」
っと驚いた声を上げながらバッと勢いよく晴海が俺を見てきた。
えっ?ただの肩書きだけど一応恋人だったよね?
嘘…、恋人だと思ってたのって俺だけなの?
うわっヤバい、凄い恥ずかしいんだが…
「あー…、恋人だと思ってたのって俺だけだった?それなら直ぐにでも忘れt「どーいう意味だよ」…え?」
何故か晴海は涙を流しながら俺を睨み付けてきた。
「なんで別れなきゃならねぇんだよ!俺なんかしたか?あまりワガママ言わないように…ヒック……して…我慢してたのにぃ……ヒック俺の何が…駄目だったんだよぉ」
状況が理解出来ずに唖然と俺が固まっていると晴海は袖で涙を拭ってからさらに睨みをきかせ
「そりゃ最初は友達だったし恋愛感情なんて全くなかったけど、先生の事でショックを受けて落ち込んでた俺を救ってくれたのも、先生の事を乗り越えられたのもお前のお陰なんだよ?
お前が何も言わずにただギュッと抱き締めてソバにいてくれたから俺は立ち直れたし、いつの間にかお前の事好きになってたのに
キスなんてあのときの1度きりで、抱き締めてくれるけど他は一切触りさえしないで今までと同じ友達の時みたいに接してくるし
なんだよ!俺のこと好きじゃなくなったのかよ!」
一端引いていた涙が再び出てきたのか晴海は言い終わると『ヒック……うっ、ん…』と声を一生懸命殺しながら涙を流すので
とりあえず抱き締めてやり背中をポンポンやって晴海を落ち着かせながら、俺も落ち着こうと深く呼吸をすると少し頭の中がスッキリした。
「なぁ晴海。晴海にとって俺は先生の代わりだったんだろうし、先生と会えたんだから俺は晴海の為にも別れた方が…」
そこまで俺が言うとまた晴海は俺を睨み付けてきた。
「さっき先生見てビックリはしたけど、先生に恋愛感情はもうないよ。それに放課後に先生に呼び出されて『やり直そう』って言われたけど俺にはお前が居るから断ったし!
あと、お前は先生の代わりなんかじゃない」
イマイチ現実味が無く晴海の言っていることが信じられないが
先生より俺をとったって事はわかった。
けれどやはり信じられない。
あんな先生大好き人間な晴海が俺を選ぶ事なんてありえないし…

きっと先生の突然の登場にビックリしすぎて判断が鈍ってるんだろう。
それなら1週間もすれば正常な考えになって先生の方が良いって気付けるはずだ。
だからそれまでこの話は保留にしといた方がいいよな?

気の迷いだとしても好きだと言ってくれてありがとう。
俺も晴海の事、大好きだよ。








解説
ずっと隣に居て、好きになって、その好きな人に恋人が出来て、幸せそうにその恋人の良い所好きな所を毎日のように聞いていたから、突然好きだと言われてもそう簡単に気持ちを信じられないという話。ずっと隣で見て、聞いていたからこそですね。
この人等が幸せになるのには結構時間がかかる。


prev next

bkm
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -