イケメン×健気4
リクエスト


吾輩は猫である。名前はまだない。

そんな冗談も言ってられない事態が発生した。
昼寝から目が覚めると何故か俺は猫になっていた。
学校から帰ってきてすぐ制服のままベッドに寝転がり、昼寝をしたところまでは覚えているが、気が付いたら俺は猫になっていた。
最初はどうせ夢だろうと思い寝に入ったが、再び起きてもまだ猫の姿のままで、何度か自分の頬を叩き、やっとこれは現実なんだと認めた。

どうして猫なったのかを考えてみても、これと言って原因は思い付かず、とりあえず助けを呼ぼうと叫んだが、発した言葉は猫語だった。

家には珍しく誰かが居て、勢い良く扉を開けたが、その相手を見て思わず嫌な声が出た。
最悪、クソ妹じゃねぇか…
なんで今日に限って居るんだよ
と心の中で愚痴った。

妹は俺の部屋をキョロキョロと見回し、俺を見付けるとこれでかというほど顔を歪めた。

「最悪っ!私が猫嫌いなのわかってて持って帰ってくるとか、あいつマジありえない」
汚いものでも摘まむようにして掴まれ、ポイっと家の外に放り出された。

何故だかわからねぇが猫になってるし、クソ妹には追い出されるし、一体何が起こってんだよ

とりあえず歩き出すと外は今まで慣れ親しんだ景色とは全く違い、どれも大きく、内心舌打ちをした。
この後どうしようかとトボトボ歩いていると、横スレスレに車が通り、水溜りの飛沫が直に俺へとかかった。

「んにゃ!?」
驚いた声まで猫で、本当に俺は猫になったんだと、ため息をついた。



猫といえば公園だろと向かうと、入る前にカラスに攻撃された。
どうやらここら辺はこのカラスの縄張りらしく、公園に入れさせないようしつこく俺に絡んできた。
今までカラスなんてどうとも思っていなかったが、身体が小さくなった今は、カラスの大きさに俺は慄いた。

やっとカラスから逃げきれはしたがもう身体はボロボロで、お腹も空き、俺は道路に倒れ込んだ。
別にもう死んだっていい。

諦めていると、誰かが俺のそばにやってきて、軽く撫でられた。
抵抗しようにも力はなく、俺はそっと誰かに抱き上げられた。


家に入ったなと思っていると風呂場へと連れてかれた。
シャワーが出た瞬間驚いて飛び上がると、水がかかったのか「うわっ」という声が聞こえた。
突然お前が俺に水をかけたりするからだと怒ると、今度はゆっくりお湯をかけられた。
温かいお湯は気持ち良く、相手のされるがままになっていると、突然身体を必要以上に撫でられた。
なんだ!?と身体を見てみると、俺の身体からは泡が出ていた。
腹が減ってる俺には抵抗する気力もないので、水溜りで汚れた身体を大人しく洗わせてやった。

ご飯を食べ終え、俺を拾ったやつの顔を拝んでやると、何処かで見たことある顔だった。

「さっきまで汚くてわかんなかったけどすごいカッコいいね」
顔と同じ高さにまで俺の顔を持って行かれ、ジッと見つめられた。
こいつ、確か同じクラスの地味男の斉藤(さいとう)羽波じゃん。最悪。

お腹いっぱいで力も出るようになったので爪を立て、もがいた。
「痛っ」と声を上げる羽波にざまぁと思い、去ろうとしたが、再び触ってこようとするので威嚇した。
触るんじゃねぇよキモいな。

その日はそのまま家へと帰り、妹にバレないよう、素早く自分の部屋へと帰った。
どうするかはまた明日にして、今日はもう寝ようと、俺は眠りについた。


翌朝目を覚ますと、俺は元の姿に戻っていた。
よかったとホッとしてリビングへと行くと、クソ妹に「っち、猫持って帰ってくんじゃねぇよ」と怒られた。
言い返そうとしたが、やっぱあれは夢じゃなかったんだなと驚き、口を開けなかった。


昨日のことがあったからか、自然と羽波に目が行った。
相変わらずパッとしない地味男だなと見ていると、一瞬だけだが目があった。
直ぐに逸らされたから本当に目があったかは断定できないが、多分目があった。
男と目があっても嬉しくねぇよとそれから一切俺から羽波を見ることはなかった。


夕方になると突然俺の身体は再び猫になった。
もうそろそろでクソ妹が帰ってくるかもなと思い、飯をタカリに行くかと、めんどくさかったが羽波の家へと向かった。
来てやったぞと言わんばかりに扉を叩くと、音が聞こえたのか、恐る恐る扉が開かれたので、素早く中へと入った。

「お前、昨日の猫か?どうしたんだよ」
どうしたもクソもねぇだろ。
元は人間の俺が他の野良猫みたいに生ゴミ食うわけねぇだろが。早く飯出せよ。
そう言葉では言うが現実では猫語になるので、向こうは勝手に俺の言葉を解釈し、抱き上げられそうになったので、猫パンチを食らわせた。
俺に触んじゃねぇよ。





「名前ないと不便だよな…えっとハルはどうかな?春樹くんに似てるし、」
そう言う羽波に、俺は食べるのを止めた。
羽波に飯をタカリにくるのもこれで4回目だ。

「あっ、春樹くんっていうのは同じクラスの人でな。好きなんだ、実は」
おえええええ
マジかよ。きっもきっも
聞かなきゃよかった。こいつホモかよ。しかも俺のことが好きだとかふざけんなよ。
早目に飯を食い、俺のことを好きだと言うホモがいる家になんて1秒でもいたくなくて、さっさと自分の家へと帰った。


意識してみると相当俺のことが好きらしく、1日に何度も俺を見ているのがわかった。
気持ち悪いなぁと見られてるのがわかる時は、あえて顔を反対へと向けた。





ウザい、キモい、だるい
そう思っていたのに、2週間も経つと、少しずつ俺の気持ちは変わって行った。
飯をタカリに来ただけの俺に飽きもせず話しかけ、『いかに春樹くんが好きか』『ハルがカッコ良くて、だけど可愛いか』を熱く語った。
そして好きだと何度も猫である俺には言うのに、現実の俺には一切話しかけることもなく、見るのも1日に数回だけと決めている羽波の健気さに、少しだけ、本当にほんの少しだけだが俺の心は動いた。
同情から猫の姿では優しくしてやってもいいと、触らせてやると、頬を緩め、嬉しそうに何度も何度も「ハル〜!!」と猫である俺の名前を呼んだ。


飯を食うためだけに来ていた羽波の家だったが、いつの間にか飯なんてどうでもよく、俺は羽波に会いたくて家に行っていた。
俺はいつの間にか羽波を好きになっていた。






「…ん〜っ!!!」
身体を伸ばすと少し身体がポキポキと鳴った。
随分懐かしい夢を見た。
確かあれは俺が高校生の時、何故が猫になった期間の夢。
あの時羽波のこと知り、俺は初めて恋をした。

ベッドから起き上がりリビングへと行くと、いい香りがした。

「あっ、おはよう。春樹くん」
「おはよう羽波」
「よく眠れた?」
「おう。羽波、今日仕事は?」
「無いよ。」
「マジで?俺も休み。じゃあさ、久しぶりにデートでもしない?」
嬉しそうに頷く羽波に俺まで笑顔になる。
朝ご飯を作る羽波を後ろから抱き付き、幸せを噛み締めていると、チリンと鈴の音がした。

「ハルもおはよう」
「2人でイチャイチャしてるとこ邪魔すんなよな、ハル」
「にゃーん」
足元にやってきたハルに構い出した羽波に俺はムッとした。
数週間前にペットショップで買ってきたハルは羽波曰く、黒くて凛々しく毛並みが柔らかくてあれは一目惚れだった。と述べ、これでもかというほどハルを可愛がっている。
面白くないが、楽しそうにハルと接する羽波を見るのは嫌いじゃない。
だけどそいつより俺を構えよ!とハルしか見てない顔をこちらに向けさせ、羽波の唇を奪った。

『どんなに羽波に可愛がられてようが、猫のお前じゃ羽波にエロいことなんて1つも出来ねぇから。ざまぁみろ』






補足
今回やっと春樹くんの性格の悪さを前面に出せました。
猫になってる間は、相手は猫語にしか聞こえないからと、相当酷いことを羽波くんに言ってたと思います。
だけど羽波くんを好きになり、昔よりは春樹くんは更生されました。
だけどやはり今でも大きな猫を被っている。

今は羽波くんと同棲し、お互い社会人。余裕も出てきたので、念願の猫を飼うことに。

これからは猫に嫉妬しながらも、楽しく2人と1匹で生活を送ると思います。


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bkm
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