ハロウィン
2012/11/02 23:01

 ふと窓の外を見ると真っ暗になっていた。おかしい、先程までまだ昼前であったはずなのに。
 学生である私はいつもと同じように学友とともに退屈な講義を受けていたはずなのだ。昨夜遅かったせいもあり、少々微睡んではいた気がするがだとしても時間が経ちすぎている。何より、私が今立っているこの場所は常日頃私が講義を受けている教室とは似ても似つかぬ所であった。レンガ造りの暖炉にひどく高い天井、床には高級感あふれる毛の長い絨毯。明かりは柔らかな煌きを持つシャンデリアからのもののみ。そのどれもが埃をかぶっており、ほの暗い雰囲気を出していた。

―――――ギィッ…―――――

 正面から音が聞こえる。目線をそちらに向けると、木製の扉がゆっくりと開いている。体の全神経をそちらに集中させれば微かに子どもの笑い声が聞こえてきた。
 こんな時間に―私の感覚ではまだ昼前なのだが、外の様子を見るにはもう真夜中なのであろう―子供の声とは。不審に思いながらも、好奇心が勝りそろ、そろりと足がそちらへ進んでいく。私が扉に近づくそのあいだにもゆっくりと隙間は大きく開いていく。
 ギッ…ギギィ…と、人一人が通れる程度の隙間が出来ただろうか。私と扉との距離は手を伸ばせば通れるくらいまで縮んでいた。
 ごくり、と唾を飲み、ノブに手をかけ、扉を開く。目の前には荒れた大地と枯れ木、そこに飛び交う鳥が数羽。もちろん子供の姿などなく、先ほどの声は鳥の鳴き声だった。そんな光景を期待していた。しかし現実は甘くないというのか、事実は小説より奇なりというのか。まぁそもそもこれが夢ではないという確証もないのだが、夢にしろ現実にしろ私の期待は大きく裏切られたようだ。
 荒れた大地、枯れ木、数羽の鳥たち。ここまでは良い、予想通りだ。だがしかし、問題は次だ。目の前に、カボチャ頭のナニカが浮かんでいる。マントをなびかせ、ふぅわりふわりと佇んでいるのだ。目と口の形にくり抜かれた穴があり、全長は約60cmほど。
 ポカン、と口をだらしなく開ける私の眼前に近づいてくるとソレはボゥと頭を淡く光らせながら何やら話しかけてきた。
「トリック?」
 コイツは口を動かさずに話せるのか。そもそもカボチャだから動かすことはできないのか。どうやら突拍子もない事がおきすぎて、私のフツウの感覚も麻痺しているようだがまぁそれは些細なことだろう。
「トリック?」
 とりあえず今はコイツが何を言いたがっているのかを理解するのが先であろう。ぼんやりとそんなことを考えていた。
「オア、トリート?」
 とりっく、おあ、とりーと。トリックオアトリート。そうか、そういえば今日は10月31日だったか。ここ最近街中がそのムードでいっぱいだったことを思い出す。
 確か、このように言われたときはお菓子をあげればよかったのだろうか。そうしないといたずらされるとか、どうとか。
 ポケットになにかないか、と探ってみれば、朝1に友人からもらったキャンディが出てきた。今朝もらったものが出てくるということはやはり夢ではないのか、それとも夢だから何でもありなのか。まぁ、とにかくコイツにこの飴をあげることとしよう。
 手に取り差し出せば、マントがふわりと手のひらを覆う。ゆっくりとカボチャが離れていくとキャンディは消え、代わりにオレンジのカードが置かれていた。ケタケタと笑い声を響かせながらカボチャが上空へと登っていく。
「ハッピーハロウィン。」
 カードに書かれた文字を呟いたところで私の意識は途切れた。

――――――――――   ――――――――――  ――――――――――

 終業のベルが聞こえる。どうやら完全に寝てしまっていたようだ。何やら変な出来事に巻き込まれた気もするが、おそらく夢を見ていたのだろう。
「やぁやぁ。」
 友人が話しかけてくる。
「どうやらぐっすりとお休みのようだったね。いい夢でも見れたかい?」
「いや、変な夢は見たけどな。それよりも済まないが今の講義のノートを貸してはくれないか?」
「ああ、いいとも。ところで、貸す代わりにその変な夢の話を聞かせてもらいたいのだが。」
 こいつとは入学以来仲良くさせてもらっているのだが、オカルトやそれに関係するものに興味があるらしく、最近は多くの人の夢の話を聞いて回っているらしい。
「相変わらずだな、まぁいいさ。今日は講義が終わったら暇なんだ。その時にでもどうかな。」
「いいねぇ、そうだ。どうだい?今日はハロウィンだ、僕の家でパーティーついでに聞かせてはくれないだろうか。お菓子なら山ほどあるよ。」
「ああ、君が大丈夫ならそうさせてもらおうかな。そのほうがゆっくりとはなせそうだしね。とても不思議で、奇妙な夢だったんだよ。」
 そう言いながら移動の準備を行う。カサリと何かが袖口から落ちた。見ると、オレンジ色のカボチャのカード。
 これはこれは。急いで片付けを済ませて、カードをポケットにしまうと急いで友人のもとへと駆ける。
「どうしたんだいニヤニヤして、君らしくないな。」
 どうやら知らぬ間に口角が上がっていたらしい。気にするな、と言い歩き続ける。今夜は話題が尽きなそうだ。友人のとんでも論がどのように展開されるのだろうか、楽しみである。時間の許す限り語ろうではないか。






ハッピーハロウィン!


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