遊庵誕生日
2011/05/07 14:45

「ケイコクー。どこだー。」

五月晴れの空の下、壬生の城下町を歩き回る男がいた。

「ったく…今日はみんなで柏餅作るから出掛けるなよって、昨日あれほど言ったってのにあのボケは……オレが庵奈におこられるだろーが。」

はぁ、とため息を吐き、ブツブツと文句を言いながら歩いていく。

「あれ、遊庵様。どうされたのですか?」
「ん?おぉ、辰伶に太白じゃねーか。」
「お久しぶりです。珍しいですね。こんなところまでいらっしゃるなんて。」

そう言ったのは、白い長髪のほう。
先ほど、辰伶と呼ばれた男だ。

「いやぁー、ケイコクのヤローを探してるんだけどよぉ。今日は用事あるから出掛けんなっつったのにまぁたフラフラしやがってあいつは。」
「ケイコクですか…今日は見かけておりません。……お役に立てず申し訳ありません。」

そう言う辰伶に、いーってことよ。と返し、もう一人の男を見やる。
考え込んでいたようだが、遊庵が問う前に視線に気付き、話し出す。

「ケイコクならば、今朝方歳世を探していたようですので、もしかしたら塔内にいるかもしれません。歳子か歳世と一緒かもしれませんね。」
「おぉ、さんきゅー。」
「いえ、早く見つかるとよいのですが…」

ケイコクが消えた時はいつも外にいるため、塔の中は盲点だった。
遊庵は太白達に礼を言い、紅の塔へと歩を進める。


塔に入ると中はひんやりと涼しく、外の暑さを実感する。

「ふぃ〜。暑かったぜ。ったく、ケイコクはどこに居やがるんだ……。」

とりあえず、一階からまわろうと、向きを変えた時だった。

「―コク!何を―と――るのだ!?」
「え、なに―――けど―」
「―さ――と?おま―当に―――りか?」
「――夫だよ。」

微かに、声が聞こえた。

「あー……、いたわ。」

声のする方に向かって歩いていく。
だんだんはっきりと会話が聞き取れる距離まで来たときだった。

「あらぁ、遊庵様じゃないですかぁー。こんなトコでお会いするなんて珍しいこともあるんですねぇ。」

いつもは下にまでいらっしゃらないのにぃ〜。
そう言いながら女が近づいてきた。

「よぉ歳子。ケイコク見たか?」
「ケイコクなら歳世ちゃんと一緒にいますよぉ。」

遊庵が進もうとした方向を指差す。

「そうか、ありがとよー。」

奥へ向かおうとする遊庵。
その前に歳子が立ち、行く手を阻む。
よけて進もうとすれば歳子も同じ方向に移動する。
右に避ければ左に、左に避ければ右に移動するため、全然前に進めない。

「オイオイ歳子、なんのつもりだ?」

オレは早くケイコク連れ戻したいんだけどー。
その言葉に歳子はにっこりと笑って答える。

「例え遊庵様でも、乙女の恋路を邪魔するのは歳子ちゃんがゆるしませんvV」
「乙女の恋路…?」
「はい、ですので、ここから先には誰も通しませんv」
「……ケイコクと歳世ってそういう関係だったのか…」
「…………遊庵様って、ホントにぶちんですわねぇ…」
「あん?」
「何でもありませーん。」

仕方なく歳子に伝言を頼んだ後に我が家へと帰る。
これからシャワーを浴びて戻ったときに居たら伝えるとか言っていたから伝わらない可能性のほうが高いが……


その夜。

「あ!ケイコク帰ってきた!!」
「遅いよー!」
「おもち全部できちゃったしー。」
ケイコクが帰ってきたらしく、急に家の中が騒がしくなる。

「ん、ただいま。」

話題の中心にいる奴は、いたっていつもどおりに部屋にあがる。

「あ……ゆんゆん。」
「いよぉ、ケイコク。今日は外出るなっつったよな?」
「…………………言ったっけ?」
「言ったよ!!」
「ふ〜ん」

知らなかった、なんて言ってのけるケイコクの頬をつねる。

「ひゅんひゅん、ひひゃい。」
「うるせぇよ。ったく、なにしてたんだか……。」
「あ、ひょーら。」

クイクイ、と遊庵の服をひっぱり、ん、と部屋の奥をアゴでさす。

「あん?どーした?」

そう聞き手を離すと、ちょっと来て、と先ほど差した所につれていかれる。

「なんだよケイコク。」
「あのね、ゆんゆん。」
「どーした?」
「これ。」

はい、と渡される箱。
とりあえず受けとるが中身は全く見当もつかない。

「振らないでね。」

箱を揺すって中身を確認しようとしたのがバレたのか、先に止められる。

「一体なんなんだ?お前が物寄越すなんて。」
「え、ほら、ゆんゆん今日たんじょう日でしょ?」
「誕生日……?」

そういえば、そうだった。
久しく祝われていないせいですっかり忘れていたが。
というか、この年になると誕生日などただの平日になる。

「だからね、歳世に教えてもらって作った。」

開けていーよ、と言うので箱を開ければ、そこにはモンブランが1つ。
飾りのプレートには"たん生日おめでとう"の文字と白黒の熊。

「おめでと。」
「…………おぅ。ありがとな。」

くしゃりとケイコクの頭を撫でてやる。
微かに、微笑んでいるのが見えた。

H.B.D

「これはなに味だ?抹茶か?」(パクッ)
「ワサビ。」
「!!!!!!」
「おいしい?」
「ケイコクお前…ケーキにワサビは……」
「…おいしくなかった?」
「い、いや…おいしい、おいしい。ハハッ」
「そ、よかった。」



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