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クリスマスを過ぎてお正月も過ぎて後期の授業も終われば長い長い春休みに入った。来年からは4年生になって卒論に本格的に取り組まないといけないし、もうそろそろ就職先を決めないとニートのフラグが立つ。わたしの友達は無事に彼氏と共にプラズマ団とやらに入団したらしく、毎日キラキラしてて羨ましい。くそう。就職が決まったと言えばノボリがお先にバトルサブウェイでの就職が決まった。


「めんどくさい 就職 めんどくさいよ」


就職決まってない組が集まる講習会の席でぼそりとクダリが呟いた。スクリーンの前で卒業生が就活の経験談を手振り身ぶりで話していて、一部の人を除いてはみんなそれを見て自分の就職先が決まらないことに苛立っているように見えた。わたしの隣で座っているクダリも例外ではない。彼の場合は双子の相方ノボリが先に決めてしまったからであろうか。








「あんな講習聞いたって就職先が決まる訳じゃないのに」
「まあそうだけど‥」


ムスーっしているクダリの後を着いていけば鯉がいる池の近くの喫煙所にたどり着いた。
クダリは胸のポケットに入っている煙草の箱を取り出して細長いスラッてした指で煙草を一本つまんだ。クダリはあの日のクリスマスが終わった辺りからいきなり煙草を吸い始めた。
しかしノボリの吸う煙草より大分メンソールの度数が低いし、女の人が吸うような甘ったるいお菓子のにおいのやつである。


「クダリくさい‥」


甘ったるいにおいは喉にスーッと通りすぎる前に変に鼻に付いた。むせ変えるようなにおいは行ったことがないキャバクラのにおいによく似ていた。クダリは寂しいのだろうか、ノボリに先を越されてしまって辛いのだろうか。双子だから小さいときから比べてこられたとか。考えたら息が詰まって苦しくなった。ノボリはクダリだけではなく普通の人間より賢くて何事も要領よくこなしていた。
クダリはわたしの言葉を聞き入れたが、ノボリのように口角を下げて眉間にシワを寄せてしぶしぶというよな様子で煙草の火を消した。


「ナマエってノボリばっか贔屓するよね」
「えーしてなくない?」


クダリはわたしの座っているベンチにドカリと座った。


「してるよ。だってクリスマスの時だってノボリとデートしてたんでしょ」
「違うよ、わたしが暇だったからノボリがわざわざ誘ってくれたんだ。クダリだって彼女とデートしてたから」
「あの子ボクの彼女じゃない。でもボクたちがいなかったら家でヤるつもりだったでしょ」
「なわけないじゃんだってノボリだよ」
「ノボリだってボクと同じ男だ」


ケラケラと笑うクダリはやっぱり寂しそうな表情をしていた。真っ白の服を来たクダリが真っ白い煙を肺に巡らせ、吐くなんて似合わない。嫌いなタバコだってスースーした度数が高いやつは吸えないくせに無理をしているのがバレバレだ。
講習会で学校には人がほとんどいなかったせいかクダリとの沈黙が嫌でも肌に刺さった。クダリはライターをカチカチといじりながら空を見上げていた。青い青い空は死にたくなるほどキレイで春の気温にそよそよと吹かれればこんなきれいな時間に老後は死のうと思った。


「クダリはジムリーダーとかやらないの?」
「えー地下鉄のがボクって感じ」
「えーそうかな」
「そうだよ」
「えー‥えー」
「えーナマエとはもう絶交だ」


クダリはにこりといつもと変わらない表情をわたしに向けながら そこらへん散歩してくるわ のようなノリでツルンととても寂しいことを言った。

クダリを初めて知ったのは食堂だった。いつ何時もニコニコしている彼はたくさんの人を引き寄せ、その真ん中でよく人を笑わせていた。わたしとはかけ離れたコミュニケーション能力に圧倒されながらそんな彼をわたしは遠くからとても羨ましく見ていた。そんなわたしと彼がたまたま一緒のサークルに入って、たまたま新歓で隣の席になった時はビックリしてとりあえずビールをイッキした。食堂のブラックホールをしているクダリが隣だからなのかわたしは酒が入ってるにも関わらず吃りながらも彼との会話を結構長々と続けていた。その次の日学校で一番でかい木の下で餌をつつくマメパトを見ていたクダリそっくりの双子の相方のノボリのケツを叩いた後はマジで恥ずかしかった。さすがに初対面じゃ見分けつかないのは事実だがベンチにつきそうなくらい頭を下げて謝った。




「ボクたち付き合ったら絶対楽しいと思うよ」
「ニートまじ勘弁」
「ヒドイ」



これはクダリとわたしが付き合う二ヶ月前の話であり、クダリがバトルサブウェイに就職が決まう二ヶ月前の話でもある。




煙突の中はキラキラ宝箱


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