∞ | ナノ




「プラズマ団?」


久々にバイトの給料が入って友達て最近大学の近くにできたおしゃれなカフェでランチをしているときだった。
前菜のサラダをウサギみたいにちまちま食べながらわたしたちは就職の話をしていた。3年生になってからは口を開けば就職の話ばかりだがしょうがない。流れに乗り遅れてニートなんかになってしまったら笑い事じゃない。親にも怒られるし、世間様の目も冷ややかなものを向けられる。今日も例外じゃなくてしっかりと就職についての話題から始まった。


「なにそれ‥新しい宗教団体かなんか?給料貰えるの?」
「いや、わたしもよくわからないんだけど彼氏が卒業したらそこにするから」
「なんの仕事?」


うーん、わからないと彼女はどうでもいいとでも言うようにさっき届いたパスタをフォークで上手にくるりした。

「てか彼氏いたんだ」
「うん結構最近」


どんな人って聞いたら、黄緑の頭なんていうからすぐにNの事が頭に浮かんだ。Nって学校に来てるんだと納得したらバックの中から携帯が低く唸った。青く点滅する携帯を開きながらやっぱりNって研究学部なのかな、と考える。メールの相手はノボリだった。とても珍しい。パスタを食べ終わってデザートを食べてから友達とバイバイしてノボリのメールを見ながらわたしは目的地への雪道をサクサク歩いた。










世界はすごく光っていた。赤黄青ピンク、緑。公園のイルミネーションマジでやばい。ベンチも女と男が隣り合って座っていてどこも空いていない。息は真っ白く口から吐き出されてはふわりと夜に溶けてなくなってしまうし、鼻の奥が凍るほど痛い。ツーっと垂れてくる鼻水を啜れば鼻に突き刺す痛みが増して少し涙が滲んだ。キョロキョロ公園を見渡せばちょっとイルミネーションから離れた人気がないベンチでノボリは街灯の光を見つめながらタバコを吸っていた。彼の口から吐き出される白い煙は彼の肺を巡って浮かび上がったものだ。吐息でも煙草の煙でもどちらにしてもきれいである。


「なぜそんな遠いところにいるんですか?」
「ノボリの肺って真っ黒かなと思って」


ノボリはわたしの言葉にきょとんとして、タバコを吸い殻に押しつけ、ごほんと一つ咳き込んでから口元を隠しわたしの元へやって来て指を頬に滑らせた。ノボリの指先はまるで氷のように冷たく、わたしの火照った頬っぺたがノボリの指を溶かしてしまうんじゃないかって心配になって確かめるように頬を滑らせてるノボリの手と重ねればなんだか心地よくてもっと頬に押しつけた。


「冷たくて気持ちい」
「そうですか‥わたしは火傷をしているように指先がチリチリしております」
「待たせてごめんなさい」


いえ、とノボリはいつものような短い返事をしわたしの指と自分の指を絡ませて、きゅっと雪を踏みにじるような音を鳴らしながら公園のキラキラした道を歩いた。去年のクリスマスはどうして過ごしていただろうかと思い起こせば冬休み明けの大量のレポートに追われ、パソコンのコンセントやら延長コードに絡まり掃除の行き届いていないあの埃っぽい自分の部屋にいた。その中でもクリスマスらしいものと言えばコンビニで買ってきた安っちい2こセットのケーキとライブキャスターの画面に流れるニュースの内容がクリスマスのことばっかだった事。そしてちょうど実家から届いたオレンのみを買ってきたケーキと共に事務的に口に運んだのは近い過去だった気がする。


「クダリは」
「クダリは今頃彼女とクリスマスを楽しんでいるのでしょう」


そっか、ノボリはぼっちか。と言えばノボリはわたしは意図的に作らないと言ってその理由や訳をこと細やかに話していた。クダリがいないのはすごく残念だ。もう大学生だしいつも毎日双子セットっていうわけではないのか、双子セットなんて小学生の時までだろうか。ノボリの氷の手がだんだん溶けてくるのと比例してわたしの手の体温はみるみる奪われた。爪と指の間に指すような冷たい風が指先の神経を麻痺させる。その痛い指先を改めるようにノボリの手を強く握り直せばノボリも返事をするようにわたしの握力に答えた。


「どこ就職するか決めた?」
「ええ、まあ一応わたしたちはバトルサブウェイの駅員を」


空を見上げれば眼球に落ちてきそうなきらきらふわふわした雪が止むことなく降っている。ノボリにそのまま身を任せて迷子の子供のように引きずられた先はノボリの家だった。バトルサブウェイかあ。バトルが好きでない限り頭がおかしくなってしまう職業だがこの双子は問題ないだろう。あのカチッとした緑色の駅員さんの制服姿の二人を想像すれば余裕で問題なかった。美形は羨ましいな。
ノボリは財布の中からキーホルダーも付いてないシンプルな鍵を取りだし、冷たそうな鍵穴にそれを指して回した。


「手を洗っててくださいまし、わたしは」


ノボリがドアノブを引けば部屋の中でガタンと一つ物音が鳴ってびっくりして思わず息を飲んだ。ノボリも口をぽかんと開けて首をかしげていた。気構えながら3秒ほど行きのつまるような生ぬるい沈黙にいると、パジャマのようなジーパンに白いよれよれのTシャツを来たクダリがリビングを隔てるドアからびっくりした顔で歩いてきた。


「クダリ!」
「えー!えー!なんでノボリ ナマエ いるの!?」
「そんなことより、身嗜みを調えなさい!女性の前ですよ!」


と、ノボリはわたしの方にちらりと視線を向けて再びクダリの方に戻した。ジーパンの丈をずるずる引きずって腰に履かれているパンツや玄関に置かれている双子のものではないような可愛らしいパンプスがころりと転がっていることからも何かいろいろ部屋の中で何が起こっているか伺えたが、特に口には出さず ふっと笑って意味もなくライブキャスターの画面を覗いた。


「ずるーい!ナマエ暇ならボクナマエと一緒にクリスマス過ごしたかったあっ!」


パンツを上げながら紙をクチャクチャにかき混ぜ、駄々をこねる子供のようなトーンでクダリは言った。ノボリはあきれたようにため息を吐いて、首に巻いていたマフラーを取った。

「待って、待って!これから一緒にご飯食べにいこ!」
「クダリ。あなたには彼女がいるでしょうが」
「今送っていくから!じゃあ観覧車前集合ね」


雰囲気がいいから!と言ってクダリは部屋の奥へと入っていく。わたしとノボリの横を通りすぎる彼女は真っ赤になった顔をマフラーに埋めながら双子のマンションを出ていった。観覧車前に集合するまで時間があるが、クダリと彼女が出ていったものの部屋に入る勇気もなく玄関で待たせてもらった。ノボリは洗濯をしてきます。とソッコーで部屋に入っていき、リビングから丸まったシーツを持ってきて洗濯機の中にぶっ混んだ。


観覧車の前なんて混んでいて見つけにくいだろうに、と考えながらノボリが差し出してくれたココアを受け取った。




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