∞ | ナノ



 研究授業のレポートに追われていたわたしは大学の図書室にいた。図書室には机にうつ伏せになって寝ている人や静かに本を読んで過ごしている人などでいっぱいで席がほとんど空いてなかったがやっと見つけた日差しのさす窓側の席を見つけガガガと床を傷つけるように椅子を引いた。その椅子に座って授業で配られたプリントやレポート用紙などを広げればやる気もテンションも駄々下がりで気まぐれに窓の外を見てみれば最近見なかった顔が木陰の下でなにかと通信しているみたいにぼうっと空を見ていた。
こっちに気づかないかなあとじっと彼を見つめていたら彼はわたしのテレパシーを感じたのかふとこっちに視線を寄越し、張り付けたような笑みでひらひらと手を振ってきたののでわたしも彼と同じような笑みで手を振り替えした。











 Nとわたしが出会ったのはこの大学の入学式の時だった。春にも関わらず寒かった入学式にわたしはコートもなく肩を抱くように出席をした。入学式が行われる前に温かい飲み物を買おうと体育館の裏の自販機の前にいたのがNだった。彼は入学式なのにスーツではなく普通の私服でわたしの前に立っていた。手を子擦り合わせ顔色も悪いだろうわたしは入学式に出席しない先輩かと思い小さくぺこりと頭を下げたら向こうも少し笑みを浮かべてぺこりとお辞儀をした。悴んだ指でバックの中に入っている財布の中からお金を取ろうとすれば、彼はわたしの手にミルクティーを包ませて、指先の冷たさをほぐすように手を握ったままわたしをその優しい瞳の中に入れた。
「お互い入学おめでとうっていうことで」
と彼は言ってわたしの横をぬるりと通りすぎると手をポケットの中に突っ込んで体育館とは逆の教室棟の方に一人で向かっていった。それから少し彼のことが気になってしょうがなかったがサークルや授業など充実したキャンパスライフを送っているうちに入学式の時にあった彼のことをすっかり忘れてしまっていた。そんなある日わたしは授業が終わった後合コンがあるとかで珍しくピンヒールを履いて大学に向かっていたら案の定慣れないせいで変な風に足を挫いてしまった。痛すぎていたすぎてしょうがなかったけどギリギリまで欠席したこの授業に出ないと単位が取れなくなってしまうということでわたしは足を引きずって大学までの道を歩いていた。周りからの視線が恥ずかしいし痛いしで涙が滲んで視界がぼやけたらあの入学式にあった黄緑色の彼がわたしの前に立っていた。
「挫いちゃったの?」
「あ、‥はい」
大丈夫と尋ねた彼は変わっていなかった。わたしはまたあの時のようにぺこりとお辞儀をし横を通りすぎようとしたら右手を捕まれた。振り向いたら彼はおんぶしてあげると言って背中をわたしに向けるようにしゃがんだ。大丈夫ですと断っても授業に間に合わないよと言われて時計を見れば確かにこのまま足を引きずって学校に行ったんじゃ間に合わない。しぶしぶ失礼します‥と彼の背中に体重を預ければふわりと浮く浮遊感といつもより広い視野に少しの間感動してしまった。ありがとうございますってお礼を言えば困った時はお互い様だと笑ってくれた。無事授業に間に合って彼は席にわたしを座らせわたしの生徒手帳を借りて代わりに出席まで取り、戻ってきた彼はわたしの隣に座った。

「シャーペン貸して、絵しりとりでもしよう」


授業の静けさの中こそこそと彼と喋るのは楽しかった。そういえば彼がこの授業に出席してるの見たことないなあと考えたり絵しりとりなんかをやっていたら退屈な授業もさっさと終わり、彼はわたしをまたおんぶして保健室まで運び軽く治療をしてくれた。歩くのも大分楽になったが放課後の合コンは断ろう。

「あの、治療からなにまでありがとうございました」
「いや、この後授業あるの?」
「いえ、特には‥」
「じゃあ一緒に帰ろう」

そのままわたしたちは一緒に喋りながら帰った。彼については名前がN(本名ではないと思う)ということとうちの大学で同い年ということしか聞けず、学科も住んでる場所も知らないままわたしの話ばかり彼にしてしまって恥ずかしくて少し後悔していると、彼はわたしの感情を汲み取るように君の話を聞いてると面白いといってくれた。



 その後もわたしが困っていればテレパシーとかそんなのがあり得るのかと疑ってしまうほど必ず近くにはNがいた。それ以外は授業やキャンパス内でも一緒になったことがない。気まぐれな猫を通りすぎて幽霊みたいにふわりと限定した時のみわたしの前に現れる。









「なにを考えているんだい」
「Nは幽霊みたいだなあって思ってたとこ」


 わたしがそう言えばNはくつくつと喉を鳴らすように静かに笑う。こんなところは気まぐれな猫だ。


「もしかして困ってる?」
「あーうん。必修授業の研究レポートでね」
「一緒にやろう。少しは手伝えるかも」


と言ってわたしの隣にNは腰を下ろす。Nはいつも大抵手ぶらだ。時々モンスターボールを持っているみたいだけど大体毎日違うボールを持っている。バトル専門の学科だとしても筆記用具ぐらい必要だろう。Nは机の上に散らばった研究ノートやらプリントをしなやかな指で拾って目を通し、少し眉間にシワを寄せた。この課題を初めて見るようだったから多分理工学部ではないのだろう。Nが資料に目を通している間わたしは彼に釘つけになっているとふと目が合ってNの口が開いた。


「ナマエはなんでこの学科に入学したんだい」
「ポケモンの研究とかしたいから、かな」
「ふーん」
「ポケモンってかわいいしね」


って言えばNは不思議だ不思議だって言ってわたしの頭を優しく撫でた。Nのポケモンが好きっていう気持ちが伝わって来るようだ。


「ポケモンと人間っていう絵本読んだことある?」
「あ、聞いたことある。小さい頃に読んだことあるかも」
「あの絵本ボク好きなんだ」
「確かに、随分と懐かしいけどいい話だったな」
「このレポートあの絵本が参考になるんじゃないかな?」
「えー実験と関係ないのに?」
「実験で思ったことと絵本を読んで思ったことを書けばレポート三枚なんてあっという間だと思うけど」


 と言ってNは椅子の背もたれに寄っ掛かり壁に貼ってある図書室でポケモンの解放禁止!というポスターを見て小さすぎて気づかないようなため息を確かに吐いたのでわたしは再びプリントに目を通しながら少しびっくりする。Nがわたしの前で人間らしい仕草・行動をするのは初めてだった。ちらりと横目でNを見れば彼はまだポスターを見ながら悲しい目をしている。

「ナマエ」
「あ!えっ」
「レポートは終わりそうかい」
「ああうん‥なんとか、。」
「それはよかった」



少しやったら一緒に手を繋いで帰ろう。とNはまたいつもの笑顔をわたしに向けたので今さっきの見たことのない表情について問うことができなかった。わたしはこのレポートを少しやったらNと一緒に手を繋いで帰る。   そう考えながらわたしはノートやプリントの文字にわざと溺れる。



アルカリ性でアルカリ性


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