襟を正してみたって世界はかわらずくだらないままごとを繰り返して動き続けているよ | ナノ






講義を受けている途中、携帯をマナーモードにし忘れて堂々と受信音が教室内に響いた。講義を行っている先生や周りの生徒に冷ややかな目を向けられて、わたしはバッグの中を漁って急いで携帯をマナーモードに切り替える。マナーモードにしてなかったわたしも悪かったけどこれで出会い系サイトの迷惑メールごときだったら絶対アドレスを変えてやる。配られたレジュメに顔を埋めて、恥ずかしさを凌ぎながらも少し早く講義は終わった。改めて携帯を確認してみると、案の定迷惑メールも受信していたが、同時刻に蛍くんから連絡が入っていた。結局講義中わたしを辱めたのはどっちだったのか。とりあえず今回は蛍くんの顔に免じてアド変するのはやめといておこう。アドレス変更メール送るの面倒だしね。

-今日友達泊りにきてもいい?-

というメッセージだけだった。蛍くんが友達連れてくるの珍しいな。と思いながらいいよ。とだけ返事をすれば、すぐ既読のサインが付いてありがとう。という吹き出しのしたにクマが本を読んでいるスタンプがポンっと現れて、すぐにスクショした。蛍くんがスタンプを使うなんてすごく珍しい。しかも、感謝の気持ちが篭ってなく、無関心で無表情のクマはやけに蛍くんぽい。


夜ご飯どこで食べるんだろう、今日蛍くんのが遅いし用意しちゃっていいかな。うーん、やっぱ蛍くんの友達くるし、どうしようかなーと次の講義中は今日の献立を考えるためにレシピアプリをずっと開いていた。


今晩は、春キャベツを使ったロールキャベツにしよう。味付けは牛乳を使ったクリーミーなやつ。なんかおしゃれに見えるし、形が悪かったりしても白濁したソースが多少隠してくれるなどは考えていない。人を迎えるために部屋の掃除もした。蛍くんの同居人として恥はかきたくないため隅々まで雑巾拭きもした。

夜、いつもより少し遅めに帰ってきた蛍くんのただいまという声は、どこかいつもと違って聞こえた。なんとなくだけど、イキイキしてるというか、基本低エネルギーで活動している彼にしてはエネルギーを感じた。私はリビングのドアから顔を覗かせて、おかえりなさい。と靴を脱いでいる二つの背中に声をかける。「友達の山口」と蛍くんが隣にいる男の子を紹介すると隣の山口くんは「お邪魔します」と言ってペコリと頭を下げた。嫌味っぽくなく純粋そうな人だな。大学の友達かな?もしかして高校の友達とか?二人が親しそうに話している姿を見守っていたがまだ夕飯を作ってないことに気がつき急いでキッチンに戻った!


△▼


「ごめーん、ごはんできたよ」


夕飯を作り終わったのは9時過ぎになってしまった。蛍くんと山口くんにはテレビでも見て待っててもらった。キッチンに周りの後片付けは終わってないけど、お腹空いたし食器片付ける時でいいよね。あ、山口くんの割り箸出してないやと、食器棚から割り箸を探してる間に二人はテーブルに席についていた。わたし蛍くんの隣に座り、山口くんに割り箸を手渡す。

「いきなり来て夕飯までごめんね」
「いやいや対したもん作ってないから気にしないで!」
「いつもはもっと手抜きだけどね、鍋とか丼物とか」

いただきます。と言ってスープのカップを持ちあげる蛍くんをジロリと見ると、山口くんは物珍しそうな目でわたしたちを見ていた。

「まさかツッキーが本当に彼女と同棲しているとは…!」
「なにそれどういうこと、山口」
「中学とか高校の時から見れば考えられないなあって、思っただけだよ、ツッキー!」
「え、山口くん蛍くんの小学生の時とか知ってるの?!」

いいなあー!と呟けば、「名字さんツッキーから聞いたりしないの?」と首を傾げられる。
蛍くんは自分の過去とかあんまり話したがらなかった。聞けばちょっとは答えてくれるけど、聞きすぎると楽しくないし、話したくない。と機嫌悪くなっちゃうし、蛍くんもわたしのこと聞いてこないし、嫌な雰囲気になるからいつしか聞くことをやめてしまっていた。でも蛍くんの子供の時とかの写真は見てみたいし、どんな子と付き合ってきたのかとかやっぱり気になる。

「山口…余計なこと言うなよ」
「ツッキーの写真見る?」
「えっ、見たい」

蛍くんの隣から山口くんの隣に席を移動すると、蛍くんはあからさまに舌打ちをした。わたしたちが勝手に蛍くんの話しでわいわい話してる間にさっさと食事を済ませて、食器をキッチンまで運び、お風呂場に行ってしまった。わたしと山口くんも食事を終わらせた後、洗い物を済ませて、紅茶を入れて一緒にソファに座りながら、彼の携帯の画像フォルダを見せてもらった。

「流石にそんな小さい時はないんだけどね!高校の時のツッキーならあるよ!」
「わぁー、制服だあ、学ランだあー!」

やはり今より少しあどけなさが残る蛍くんと山口くんは写真に写っている。「蛍くんかわいい…!」と思わず呟くと山口くんは昔から素直じゃなかったよ!と楽しそうに笑った。その後もいっぱい蛍くんの高校の時の写真を見せてもらったけど、わたしの知らない蛍くんがたくさんいて少しさみしいなあ。って心臓のあたりがツゥーンと沁みて痛いような気がした。わたしも制服着て一緒に下校したり、一緒にお昼食べたりしたかったな。

「やっぱり蛍くんモテてた?」
「うん!すっげえモテてた!」

だよね。蛍くんってスタイルが良くて頭がよくて女子受けする顔してるし、中には絶対わたしよりもかわいい人もいたんだろうな。なんて考えていると少し自信がなくなってきた…
そのときちょうどお風呂から出てきた蛍くんがリビングに入ってきた。ポタポタとまだ乾かしていない髪の毛から水が滴ていて、まだ話してたの?と呆れたような溜息をこぼす。

「あっ!そうだね、山口くん先お風呂どうぞ!蛍くんバスタオルとかどこにあるか教えてあげて」
「え、いいの?」
「わかってる、山口こっち」

どうぞどうぞ!と山口くんを見送る。山口くんがお風呂入ってる間に布団用意しとかないと、急だったから干せなかったけど大丈夫かなあー。と布団を引きずり出すために押し入れに潜って布団ケースのチャックどこだー?と探していたらいきなりお尻を誰かに蹴られた。ちょっ!だれ?いや、蛍くん以外にいないんだけど!びっくりして頭を天井にぶつけてしまった。

「ちょっと…痛いよ!蛍くん!」
「パンツ見えてる」
「うそ!」

スカートを直して、お尻を隠す。蛍くんは嘘といい、首にタオルをかけたまま蛍くんは長い足を折りたたんでソファに腰掛けた。

「もー、ちゃんと拭かないと風邪引いちゃうわない?」
「短いからすぐ乾くし、そんな簡単に風邪なんか引くわけないでしょ」

まあ、確かにそんなんじゃすぐに風邪引くとは思ってないけど、他人のことになるとすごく気になってしまう。山口くんの布団取り出す前にジャージ着ようかな、さっきパンツ見えてなかったとはいえ、次は見えるかもしれないし、一緒に住んでいるとはいえ蛍くんにおしりを丸出しにしてるのも恥ずかしい。あ、でも蛍くんの髪の毛も乾かしてあげたい。もう春だといってもまだ夜は肌寒いし、湯冷めしちゃうかも…などと蛍くんの前から動かずに色々悩んでいると、暇ならドライヤー取ってと言われたので、はいはいとわたしは笑いながら急いで寝室からドライヤーを取ってきて近くのコンセントに繋ぎ、スイッチをスライドさせて蛍くんの髪の毛を乾かしはじめる。

「…乾かしてなんて言ってないんだけど」
「あ、熱い?」
「…別に」

ドライヤーの轟々と風の音でよく聞こえなかったけどこうやって大人しく髪の毛を乾かしてもらっている蛍くんは大型犬のようでかわいい。それに蛍くんのつむじを真上から見たことなんかなくて、物珍しさでおそるおそる人差し指で押してみると、見事に無言で払われた。

「終わったよ」
「…まあ一応お礼は言っとくよ」
「いえいえ〜」

やっぱり女のわたしなんかより数倍も乾くのが早いので名残惜しくももう終わってしまった。少し勿体無いなあ。と思いながらわたしはお風呂から出てきた山口くんと交代で風呂場に行った。あ、出たら山口くんの布団の準備しないと。

「…山口ニヤニヤしててきもい」
「いやー、ツッキー変わったなって!」
「………」
「あツッキー照れてる!」
「うざい、山口」
「ごめん!ツッキー!」


20130407

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