襟を正してみたって世界はかわらずくだらないままごとを繰り返して動き続けているよ | ナノ




今日は暇だったから新宿でも行って洋服でも買おうかな。とただなんとなく電車に乗っていた。やっぱり時間帯も時間帯で電車は人でいっぱいで、しかもその8割以上の人がスマートフォンなんかを持って今ここではない誰かと繋がっていた。同じ空間にいるにも関わらずそれぞれが自分個室に閉じこもっているようで怖いこわい。
わたしの目の前に座っている男の子もそうであった。リュックを膝の上に乗せ、ケースにも入れてない丸裸のスマートフォンをスイスイ使いこなしている。銀色の髪に緑色の瞳、座高が隣に座っている日本人より明らかに頭一個分くらい飛び出していて、肌は陶器のようにきれいでその容姿からついつい彼を観察してしまった。ロシア人っぽいなあ〜。外人さんなだけにもしかしたら蛍くんよりも大きいかも、旅行中かな?それにしてはこの満員電車の雰囲気にうまく溶け込めている気もするし、と考えていたら「次は渋谷ぁ〜渋谷でぇ〜ございます、」と乗り換えの車内アナウンスが流れ、次第に電車は減速の変化を見せた。掴んでいた鉄の棒を中心に揺られながら、電車からは渋谷に降りようとたくさんのお客さんが降りて行く。わたしの目の前に座っていた外人さんも席を立ってスマートフォンをいじりながらドアをうまく躱し、人混みに紛れていくが身長のせいであの中でも一際彼は目立っていた。新宿まであと少しだけど座わろうと思い彼が座っていた席の足元を見れば彼が先ほどまで抱えていたでリュックが横たわっていた。まさか立ち上がる時に膝から落としたのであろうか、スマートフォンをいじっていたからといって不注意にもほどがある。ちょうどわたしがそのリュックを手にした時電車が出発するベルが鳴り、ともに駆け込み乗車はやめろというアナウンスが流れる。が、逆にわたしはそのリュックを持ったまま駆け込み下車をした!
間一髪ドアに挟まるという不様な場面はまぬがれ、わたしはさっきの外人さんを探しに階段を駆け下りた。今さっき降りたばかりだしそんな遠くには行ってはないと思うんだけど…と辺りをキョロキョロしながら改札を出れば、スクランブル交差点付近でで頭一個分の銀色の頭を見つけたので、見逃さないように人を縫いながら彼に近づき服を引っ張った。

「え。あっ!えーっと、ノーロシアらんぐえいじ?」

ジェスチャーでリュックを指で差しながらとりあえずロシア語が喋れないことを伝えたかった。てかこれ明らかに英語できない日本人だと思われたよね、日本人代表として恥ずかしい。声の掛け方に後悔していると、白人の青年は一瞬不思議そうな顔をしたがリュックを見た途端、あー!といいながらわたしのことを指差した。

「あっそれ俺のだ!あと俺日本語しかしゃべれない」
「あっ!そうなんだ!よかった!これはい、」

彼はありがとう。と無事にリュックを手にするとチャックを開けて中身を軽く確認して、また再びわたしに顔をむけてありがとうなと目を細くして笑った。その顔が姿格好にそぐわないくらい可愛らしく、つられてわたしも口元が緩む。蛍くんも色素薄くてきれいだけど、リエーフくんは光に当たったら消えてなくなってしまいそうだ。

「さっき俺の前で立ってたよな?名前は?俺 灰羽リエーフ」
「り、りえーふ…!聞いたことない響き…!わたし名字名前」
「名前はもしかしてこのリュック届けるために下車してくれた?」
「あーうん、でも特に用事がなくてショッピングしようと思ってたところだから渋谷でも平気だよ」

そしたらリエーフくんがご飯ごちそうしてあげる。とあんまり気軽に言い出したのでまあタダならいいか、なんて思ってお腹も少し空いていたし遠慮なく彼の後に着いていってしまった。
俺ちょっと先にいい感じのカフェ知ってるんだ。言った彼は大きいにも関わらずうまく人混みをよけて、わたしの先を行ってしまう。だから彼がわたしを認識できなくなる前に「ちょっ、リエーフくん!まって!早い!」と言えば、リエーフでいい!と呼び名を訂正されたので、いやその話じゃない、おかしいだろって心のなかでつっこんだけどとにかくわたしは人混みをかき分けながら彼に着いていくのが精一杯だった。

ついた。とリエーフが言った時にはわたしはもう気疲れしてしまっていたが、どう?いい感じじゃない?とリエーフに同意を求めたら、すごくいいと思うよ。と親指を立てて彼に見せた。
確かにカフェはいい雰囲気でとてもわたし好みだった。お店の中のインテリアやメニューなど一つひとつがなんかもう全部オシャレで、席に座っている人ですら芸能人とかせめてサロモとかやってますよね。っていう人ばかりで少し居心地がわるい。メニューの内容もイマイチ理解できなかったので適当にホットコーヒーを、リエーフはほうじ茶ラテを注文した。ご飯も頼みたかったら頼んでいいんだよ。と言われたがお断りさせていただいた。最初はケーキとか奢ってもらっちゃうかな〜邪な考えもあったが、実際さっき会ったばかりのリエーフの目の前でものを食べるという行為が恥ずかしいと思った。もしわたしがここで今あそこのショーケースに入っている美味しそうな苺のタルトを頼んだとして、わたしは絶対きれいにタルトを食べることができないだろう。それならお家に帰って蛍くんを目の前にして悪態をつかれながらも、白米の真ん中に空洞を開けた後卵を割り麺つゆ垂らしてグチャグチャにして食べるご飯が美味しいかなあ。って
見た目も中身も庶民なわたしの気持ちは多分リエーフにはわからないだろう。イケメンはずるい。飲み物がどちらも届きリエーフは早速抹茶ラテ口をつけ、あちっ!ってやけどをした姿でさえきれいで美しい。

そんなこんなでグダグダ語ったものの、わたしの雰囲気がココに合っていないとは別に注文したコーヒーは今まで飲んだコーヒーの中で一番美味しかった。このお店に連れて来てくれたリエーフに感謝!このコーヒー蛍くんにも飲ませてあげたい。と思って店員さんに頼もうとしたが一歩踏み出すことができない、やっぱりやーめた。

「すみません、あ。やっぱり」

聞き慣れた低音に呼ばれて、振り返ればそこには背の高く、黒い縁のメガネの、首にヘッドフォンを下げた美青年がいた。まあ、蛍くんである。灰羽も名前もなにしてるの?知り合い?と尋ねる蛍くんは肩にトートバックを持っている。学校の帰りっぽい。

「さっき知り合ってリエーフに奢ってもらってるところ」
「そう名前が俺のリュック届けてくれたから」

ふーん。と興味なさそうに蛍くんはわたしたちを見下ろした。三人でもう少しゆっくり話したかった気もするけど店が混んできたし今回はここで解散ということになった。リエーフはまたね!と言ってわたしたちの向かう方向とは違う方向に爽快に行ってしまった。リエーフの歩くスピードは早いためか、すっかり見えなくなってしまった後わたしたちも家に帰るため少し店を回りながら帰路についた。蛍くんはわたしの着いて来れるようなスピードでゆっくりと歩いてくれているらしく、わたしは蛍くんを渋谷の人混みから見失わずにすんだ。人が多くてめんどくさいとメガネを押し上げながら苛立ちを感じさせる声で話し出したので、あまり刺激しないように無難にそうだね。と返した。

「で名前と灰羽本当にさっき知り合ったの?」
「うん、本当にわたしがリエーフのバック拾ってあげたの、蛍くんも知り合いだったの?」

と尋ねればうざそうに高校の時にちょっとと呟いた。ので、ていうことはバレーボール関係かな?身長も二人とも大きいしなるほど納得。

「じゃあ今度は三人であそこもう一回行こうよ」
「なんで僕がいるのさ、関係ないんですけど」
「だって蛍くんいた方が話の輪が広がるし、わたしも安心するよ」

無理。と眉間にシワを寄せながらこちらに視線を向けた。基本蛍くんは否定から入る人だから正直今返ってくる返事はあてにしていない。またリエーフに高校の時の蛍くんの話とか聞きたいし(翔陽じゃ語彙力不足)今度こそコーヒーの粉買いたいなあ。そういえばいつの間にか一緒に歩いていたがなんであそこに彼がいたのだろうか。

「勝手に一緒に家帰るつもりだったけど大丈夫?」
「平気」

聞いたら怒るかな?わざわざ渋谷に彼がくるのが珍しいなあ。更けていれば、ぼそりと。ケーキとコーヒーを買ってた。とトートの中から現れた箱と袋を見せてくれる。

「ネットで見たとか?」
「いや、ちょっと教えてもらった…高校の人…」

蛍くんってやっぱり高校の時の人脈広いなあ。と思いながら先ほど食べ損ねてしまったカフェのケーキに期待を膨らませていた。蛍くんが買って来たしショートケーキと、やっぱりあのショーケースでは苺のタルトが魅力的だったし、でもその隣にあったベイクドチーズケーキも捨てがたい。なんて考える。

あ、てかリエーフの連絡先教えてもらうの忘れた。蛍くん知ってるかなん?知らなそう…後でこっそり大学で翔陽が教えてくれないだろうかと企てていたのはわたしの心の中だけの秘密。

20130403
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