襟を正してみたって世界はかわらずくだらないままごとを繰り返して動き続けているよ | ナノ


「一生のお願いっ!」

友達が下げた頭の上でぱたんと手を合わせた。大学の食堂で賑わう中、なにがあったとわたしたちの方を見て通りすがる人が振り返る。

「ちょっと変なことしないでよ!目立つじゃん!」
「お願いっ!名前が合コンに参加してくれればいいの!座ってるだけで飲み放題だよ?ほら、名前お酒好きじゃん?今回のお店すごいよ〜いろんなお酒取り揃えてるんだって!しかも相手は○○大だよ?やばくない!?」
「だからわたし彼氏いるし…」
「黙ってればばれないって!合コンというなの食事会よっ!」

そう!食事会!と開き直ったように顔を上げた。でもこの子にこの間のテスト勉強手伝ってもらったしな…しかもタダで美味しいお酒が飲めるのはでかい。でも蛍くんが…ううん。と悩んでいると友達は次講義ある!じゃ!夜迎えにいくねっ!といいながら食堂を去ってしまった。ええ、どうしよう。

案の定夜は友達に見つかる前に駐輪場まで鞄で顔を隠しながら帰ろうと思ったら、いつもより綺麗な格好をした友達に捕まってしまい、合コン会場に連行されてしまった。てかよりにもよって今日の私服はちょーカジュアルで合コンで絶対浮くだろ!ってレベルである。友達に化粧を直してもらって少しケバくなったけどやっぱりイマイチ調子が乗らない。とりあえず蛍くんに連絡しようと携帯をつける。蛍くんには、急に友達とご飯食べて帰ります。ごめんなさい。とラインを送ったが、既読になったのにも関わらず返事は返って来なかった。







友達を助ける気持ちで合コン会場に向かったものの合コンなんて久しぶりすぎてやっぱり緊張する〜!って、思ったけどまだ席に相手の男の人たちはいなくてひとまず安心。正直合コン参加メンバーの女の子たちは友達以外知らないし、ギラギラした目でわたしを見てくるのであんまり喋らなかった。席は男女交互に座るらしいけど、わたしは友達の気遣いで1番奥に座らせてもらう。着いたお店は確かにすっごくお酒の種類が多くて男の人なんか気にせず一人で飲もう!と意気込んで飲み放題のメニューを独り占めしていると、なんだか店内がざわざわとしてきた。

「お待たせ〜ごめんね?待たせちゃったかな?」
「大丈夫ですよぉ!空いてる席適当に座っちゃってください!」
「いやー、急に参加する予定のやつが来んのおっそくてさー!じゃー俺奥から詰めるよ?」

女組の幹事の人と男組の幹事の人が会話しているとゾロゾロと男の人たちが入ってきてギョッとした。蛍くん以外の男の人しかも初対面な人はコミュ障のわたしにはやっぱレベルが高かった。飲み放題のメニューで少し顔を隠していると男組の幹事の人がよろしくねっ!と隣に腰を下ろしたので、こちらこそ…と店内のざわめきで聞こえるか聞こえないか曖昧な返事を返す。
わたしには彼氏いるしあんまり目立たないようにしてよう。意味もなく時間潰しにナプキンの入っている箱の広告を読んだ。

「よし、飲み物を届いたところで自己紹介やるか!じゃあ君からいいかな?」

乾杯した後、軽く隣の幹事くんがふっとわたしの肩に手を置いた。ふぁっ!?わたし!?まあ、一番端っこだし別にいいけど!空調の効いた室内に顔が真っ赤になってるような気もするけど、とりあえずぱっぱと終わらせた方がいいよね。わたしは初めて席全体を見渡すようにぐわっ!と立ち上がって、あることに気がついて途端に今までにかいたことのないような汗がぶわっ!とふきだした。

蛍 く ん が い る 。

けーくんがいる。今回の参加者が全員で10人だったんだけど、そのわたしと対抗線上の席に貼っつけたような笑顔を浮かべてるけーくんが見える。立ち上がってあわあわしているわたしに幹事くんが大丈夫?とけーくんとは真逆の爽やかな笑みを浮かべてくれる。あ あ あ

「あ、△△大の、名字で、す。よろしくお願いします」

とりあえず無難に挨拶を済ませ、ぺこりとお辞儀すると、どっからか好きなタイプ聞きたーい!と声が聞こえる。顔を上げるとみんなの目がこっちを向いていて、もちろんけーくんの方なんか見ないように、わたしはこう言った。

「あ、わたしより頭がいい人が好きです」

そう言うと会場がドッと笑った。わたしは別にウケ狙いで言ったわけではないので全然面白くなく、とりあえず蛍くんのこと見ないようにあわあわしていたら「うちで一番頭いいのは月島だなっ!」って幹事くんが言った。そうすると「別にそんなことないですよ」とけーくんは周りの女の子に合わせてくすくす笑っていたのに一瞬わたしに寄越した目にわたしは黙って席に着いた。

「○○大の月島蛍です。あ、好きなタイプは家庭的な人かな」

家庭的なタイプ
って、わたしとは真逆かよ。
あとあの笑顔!わたしには向けたことない爽やかな笑顔!大体わたしが合コンに参加しようがこんなちんちくりん誰も相手にしないから蛍くんは別にいいだろうけど、蛍くんはかっこいいし、スタイルいいし、名門大学だし彼女としては気持ち良くない。
場はだんだんお酒の力で和やかと言うか合コンらしい雰囲気になってきた。蛍くんがすごく気になるけど何せすごく遠くて様子が伺えない。でもニコニコしながら前と隣の女の子と会話してるのが見えてちょっと拗ねた。ヤケクソで周りの女の子たちがカシオレぇとか頼んでるのに一人で日本酒とか飲んでいると、隣の幹事くんがかわいそうなやつだと思ったのかわたしに話しかけてくれた。

「名前ちゃんのネイルすごくかわいいね!」
「えっ!そうですか、嬉しいなー」
「もしかして自分でやってるとか?」
「あ、そうですよ!お金もないんで、意外と簡単で…」
「でも右手のネイルとかやるの難しくない?すごく綺麗だけど」

そう言われるとギクリとした。確かにネイルの下地とかは自分でやっているが、右手のネイルは蛍くんにやってもらうことが多かった。今回はモスグリーンに星ストーンを乗せた爪とストライプの爪、特に右のストライプは自分でやるとプルプルしてしまう為、蛍くんにやってもらったものである。蛍くんはちょっと不器用さんで、ネイルやってって頼むとすぐ嫌味言ってくるけど毎回わたしの手を優しく持って、眉間にしわ寄せながら丁寧にやってくれる。彼氏にやってもらってますぅ。とか言うのも失礼だと思ったので「あはは、ビール継ましょうか?」とピッチャーを持って幹事くんに勧めた。

「てか日本酒好きなの?駅の近くの居酒屋知ってる?すっごく夜遅くまでやってるんだけどさあ!めっちゃ日本酒の種類多いの!マジで!ここの倍はある!」
「本当に?ここも多いのにすごい!」
「あっはは、名前ちゃん面白いねっ!本当に日本酒好きなんだ!このあともしよかったらどう?」

幹事くんは見た目の爽やかさで言ったら多分蛍くんのが爽やかでかっこいいけど、幹事くんは見た目もそこそこ爽やかで中身は蛍くんと比べ物にならないくらい爽やかでいい人である。そんな爽やかいい人の幹事くんのお誘いを断るに断れないので、適当にいいですねー!って返して会話を切らすためにお手洗い行ってきます!とか言い、バックを持って席を外れた。立ってから余計にお酒が回ったのか、お手洗い行く途中にけーくんの顔が見たけど、こちらを見向きもしないで白いワンピースを着たふわふわ系の女の子と楽しそうにお喋りをしていた。女の子は蛍くんの足に手を乗せていて、なんか顔を近いような気もするし…わたしにあんな笑顔向けたことないし、女の子扱いだってされない。なんだよ、ふん
トイレの鏡に映っているわたしはラメやらでキラキラしてるのにも関わらずなんかくたびれて疲れていた。なんで蛍くんこんなとこ来たんだろう。蛍くんなら断ろうと思えば絶対断れるのに…もしかして本当に女探しとか?一晩寝る相手が欲しいだとか?わたしとですらセックスあんまりしないくせに、やっぱ巨乳目当てか?悶々と考えても考えても嫌なことしか考えられない。長くトイレにいすぎて吐いてたり、大の方とか思われるのが嫌だったのでさっさとトイレで用を済ませて席に向かったら、わたしがさっき座っていたところに友達が座っていて、わたしの席は一番外側だよって教えられた。隣は蛍くんである。

蛍くんはカルーアミルクを飲んでいた。まあ、ビールとか日本酒とかあんまり好きじゃないもんな。わたしは席に着くと黙って残った日本酒をくいっと飲み干して、店員さんに新しい日本酒を注文した。その間蛍くんは特に話しかけてくることもなくちびちびとカルーアミルクを飲んでいた。注文し終わってしまって手持ち無沙汰になってしまったわたしはまだ残っている枝豆を皿に一粒ずつ落とす。

「本当に馬鹿なの?てかケバっ」
「馬鹿なのは蛍くんの方だよ。わたしは友達が困ってたからただ来ただけで、下心なんてなかったもん…蛍くんは下心ありありの合コン参戦じゃ…」
「はぁ?」

やばい。と思ったら案の定足を踏まれた。履いていた白いクラシックシューズはお揃いである蛍くんの黒いクラシックシューズに踏まれて足跡がついた。あんな蛍くんのはぁ?は久しぶりである。カルーアミルクの入ったジョッキをテーブルに置いた。トートバックの中をガサゴソして見つけた財布の中から一万円をそのジョッキの下に挟んで、わたしの手を痛いほどギュッと握った。わたしの指の骨がポキリと音を鳴らす。

「ごめん、僕この子と一緒に出るから」

は…わたしは引きずられるがまま店内を出た。後ろの方でえーっ!てさっき蛍くんの足に手を乗せた女の子が言ってるのが聞こえたけど、正直ざまあみろって思ている自分の心の狭さに虚しくなる。外の風は春になったばかりだけど冷たくて、でも火照った顔にはとても気持ち良く感じた。

「で、誰が下心ありありだってえ?」

首だけこっち向いて、眉間のシワが半端なく寄っている。手はまだ血が止まるほど握られているけど、わたしもこの時お酒が入って気が大きくなっていたのか、自分のありったけの握力で手を握り返してこう言った。

「さっきも言ったけどわたしは友達が困ってたから人数合わせの為に行っただけだけど蛍くんは明らかに女の子目当てでしょ…わたしが貧乳だからせめてセフレでも作ろうと思ったんでしょ!」
「は?ちょっと自分勝手すぎるのもいい加減にしろよ!言っとくけど僕は名前が来るって知ってたから今回行っただけだからね」
「うっ…うっそだー!」
「本当だよ。前々から誘われてたのは認めるけど、名前から連絡もらって、友達に代わりの子こんな子くるらしいけど来ないかって写真見せられて言われて、名前だったから、どんな神経して合コン行こうとしてるのか見てやろうと思って」
「うっ…ごめんなさい」
「別に僕も名前を束縛しようとしてるわけじゃないよ。でも食事じゃなくて合コンなら合コンって言ってほしい。」
「わ、わかったけど…それはお前が他の男に相手にされるわけないってこと…」

なんかそれはそれで悲しいというか、女として惨めだし、蛍くんの彼女としても惨めで、ちょっと涙が滲んだ。繁華街のざわめきが遠くに聞こえ、握られていた手に一気に血流が巡る。そしたら蛍くんの大きな手が鬱向いてた顔を掴んで親指がラメを親指で落とすように擦られる。

「いたっ!ちょっと!こすったり爪とか立てないで!」
「何時もより気合入れてて化粧濃いし、名前の方こそ僕に愛想尽かしたのかと思った」
「….……ごめんなさい」
「本当だよね。その化粧似合ってないし、しかも名前のせいで僕ろくにご飯も食べてない」
「それは蛍くんの隣にいた白いワンピースの子のせいだよ!わたし関係ないよ!」
「いや、家帰ったら名前がご飯作ってよね」
「えー、もう外で食べない?めんどくさいよ」
「僕はうちでゆっくりテレビ見ながら食べたいの」
「インドアオタク」
「ビッチ」
「ビッチじゃないし」

20130401
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