終わりになんてしてやらない

なんてバカなんだろう。そう思ったけれど、新羅は何も言わずに臨也の言葉に頷いた。
静雄のことをどう思っているのか、そんなものは新羅から見れば明確で。けれどももしかしたら臨也自身が気付いていないのかもしれない。
誰にも言わないよ、と約束して、新羅は自宅へと戻る。最後に振り向いたとき、臨也は笑っていた。その理由が、新羅には分かるけれど解らなかった。

『どうかしたのか?』
「うん?ああ、いや。ちょっとね」

セルティが心配そうにPDAに文字を打ち込んでくる。
彼女には首から上がない。だから声も表情もないけれど、新羅には雰囲気で分かる。
愛しているのならば、どうして傷付けるのだろうか。新羅には解らない。
ただ、それが臨也の不器用さなのだと思うと、口をはさむ権利はないのだ。

「臨也のやつがね」
『また悪さをしているのか?まったく、しょうがないやつだな』
「いや、悪さとはちょっと違うかな。僕には真似できないよ、臨也のやることは」

愛している人を傷付けるだなんて、新羅には考えられない。愛しているからこそ、傍にいて守りたいと思う。
離したくないと思うのが新羅にとっての普通で、臨也は愛しているからこそ遠ざけたがっているようだった。

『臨也のような新羅は嫌だぞ』
「セルティ?」
『時々新羅は臨也よりも狡猾だからな。油断ならない』

何か勘違いがセルティの中で起こっているようだ。新羅は思わず笑みを浮かべた。

「真似できない、って言ったろ?大丈夫だよ、セルティ」

新羅がそう言うと、セルティは頷いて見せた。首から上がないから、肩の動きでしか確認できないけれど。
こうしたセルティの面に新羅は惹かれてやまない。だから彼女のためにならないと分かっていて、彼女を独占するような手だって何度か使っている。

「今度静雄を見掛けたら、うちに来るように言ってくれる?」
『用があるなら直接会いに行ったらいいじゃないか』
「ちょっと大事な用があってね」

臨也の手に乗るのはつまらない。新羅はそう思っている。
どこでその術を学んだのか分からないが、臨也は静雄に暗示を掛けたらしい。それが強固なものかどうか、確認するために臨也は静雄の前に姿を見せていると言っていた。
臨也が何をしたいのか分からない。静雄が何を望んでいるのか分からない。
ただ、放っておいて平気なほど、新羅だって薄情ではなかった。

「セルティにも内緒の用事なんだ。頼めるかい?」
『本人を前に内緒の用事を頼むか?普通。仕方ないな。会ったら伝えておくよ』
「ありがとう、セルティ」

セルティに言えば、きっと静雄のことをひどく心配する。そんなセルティももちろん愛しているけれど、ほんの少しだけ面白くないのも事実だ。
静雄とセルティが親友であることを理解していて、つまらない嫉妬をするつもりはないのだけれど。


*****


約束通り、セルティは静雄に伝えてくれたようだった。インターフォンに新羅が出ると、そこには静雄がいた。

「何か用があるんだって?セルティから聞いたぞ」

静雄は変わらない。何一つ。新羅が知っている平和島静雄そのままだ。
なるほど、と新羅は納得する。何度も臨也は確認して、その上でもう大丈夫だと判断したのだろう。
その行為自体、新羅には無意味なように感じてならなかった。

「ねえ静雄。何か忘れていることはないかい?」
「はぁ?」

臨也の思惑になんて乗ってやらない。新羅は内心そう言ってにこりと笑みを浮かべる。
何が最善かだなんて、新羅には分からない。きっと臨也にも、静雄にも分からないだろう。
けれども臨也のしたことは、はたして静雄のためなのだろうか。
二人の間に起きた出来事を新羅は知らない。だからその答えはきっと、静雄しか持っていないだろうと思った。

「何かを忘れてる。そう思ったことは?」
「何だよ、いきなり。なんか約束してたか?」
「僕じゃないよ」
「意味分かんねぇぞ」

静雄がもしも、臨也の思惑通りになるのなら、新羅はそれでいいと思う。臨也は臨也であるし、静雄も静雄であり、何も変わることなんてない。
二人が互いに干渉することがなくなるだけだ。たったそれだけのことだ。
ただ、新羅にはそれがひどくつまらない。
セルティだけがいればよかった頃とは違う。新羅にとって臨也も静雄も、大切な友人なのだ。

「ヒントをあげるよ、静雄」
「さっきからなんだよ?言いたいことがあるならはっきり言えよ。あいつみてぇでムカつく」
「……静雄、“あいつ”って誰だい?」

静雄の口から出た言葉を新羅は逃さなかった。これが鍵になるだろうと理解して、その上で突くように尋ねる。
静雄はこの手のやり取りが嫌いだ。だから新羅は、あえて臨也のような口ぶりで語りかけた。
嫌いでも好きでも、静雄にとって臨也は特別な位置にいる存在だ。暗示ごときで忘れてしまうほど、二人の因縁は浅くないと新羅は思っている。
逆にいえば、暗示くらいで忘れてほしくないとも思っているのだけれど。それは誰にも言わない。静雄にも、臨也にも。セルティにも。


つづく


新羅って万能だよね、と思って仕方がないのでこうなりました。
新羅病が悪化した結果がこれです。


11.10.26


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