愚か者の錯綜

何かがおかしい。そう新羅が気付いたのは、めずらしく池袋の街を歩いていたときだった。
この街は色々な人がいる。その中に新羅の愛しい人も、幼なじみも高校時代の友人も含まれる。
主に街を賑わせているのは、そんな新羅の知り合いたちなのだが、静かすぎる。

「さて、これはどういうことなんだろう」

思わず、声に出してしまった。
新羅の視線の先には、すれ違ったばかりの臨也と静雄がいる。おかしい。
臨也が静雄に絡まないのももちろんおかしいが、何よりも静雄の様子が変だ。
静雄は臨也が嫌いだ。学生時代の出来事も影響してか、姿を見れば嫌悪感を露わにし、理性なんてどこかへ押しやって臨也を殺そうとゴミ箱からはては自動販売機まで投げつける。
そんな静雄が、臨也に気付かないまま行ってしまうだなんて、これは普通ではない。

「やあ、臨也」

たまたまこちらへ歩いてきた臨也に、新羅はにこやかに笑い掛けた。
新羅は知っている。臨也が静雄に対し、並々ならぬ執着心を持っていることを。その上で静雄に近付き、最近では良い感じにまとまっていたことも。
もちろん、臨也は新羅が知っていることを知らないのだろうし、静雄はもちろんそうだ。

「めずらしいね、新羅」
「ちょっと用があってね」

ゆっくり臨也と話すことなんて、久しぶりだった。
新羅はいつも通りの笑みを浮かべたまま、臨也を見遣る。

「何かあったのかい?」

新羅には臨也の手助けをする義理も道理もないのだが、単刀直入に切り込む。
セルティを厄介事に巻き込む臨也だけれど、結局のところ新羅にとっては静雄と同じように大切な友人だ。放ってはおけない。

「特に何も。この街はいつきてもおもしろいね。暇潰しだよ、ただの」
「そう?僕にはそうは見えなかったけどね」
「……新羅のそういうところ、昔から苦手だよ」

にこりと新羅が笑うと、臨也は自嘲気味に笑った。
めずらしいな、と新羅が思うのも無理はないだろう。何しろ折原臨也という人間は、刺されそうになっても笑っているような人間だ。
静雄と対峙しているとき以外は、一切自分の感情を隠しているようにさえ見える。
決して分かりたいと思う新羅ではないが、分かってしまうくらいにはつきあってきている。

「君、静雄に何したんだい?」

新羅は鎌をかけてみた。臨也が引っ掛かってもそうでなくても構わないと思いながら。
ただ、反面、これは当たっているだろうとも思った。そうでなければ、静雄が臨也を前にして素通りなどあり得ないのだから。

「別に、何も」

臨也はまだ、笑っている。

「最初から、何もないんだよ」

本当は聞いてほしいのだろうかと思う新羅だが、選択する言葉を誤れば臨也は口を閉ざすだろう。
静雄に聞くことはできない。だから臨也から聞くことでしか、二人の間に起こった出来事は知り得ないだろう。
妙な冷静さを持って、新羅は臨也の肩の向こう、静雄が歩き去って行った方を見た。

「君がそれを言うのかい?臨也」

静雄も臨也も、新羅にとっては友人だ。数少ない、と言っても過言ではない。
二人が二人らしく殺し合いをするならば、新羅は黙ってそれを容認するし、どちらかが怪我をしようとも、笑ってその治療をする。
ただ、あまりにも臨也らしくない。折原臨也という男は、自らの手を汚さずに人を使って物事を動かすところがあるけれど、決して逃げたりしないのだから。

「静雄から逃げ出したの?君が?」
「……何を言ってるのか分からないな」
「おかしいね、臨也。君が唯一認識している静雄から逃げ出すなんて」

臨也が息を飲んだ。正解だったのだろう。

「何があったんだい?」

臨也の顔から笑みが消える。

「そんなの、人に言えることじゃないよ。他人に干渉するなんて珍しいね、新羅」
「そうだね。セルティ以外はどうでもいいと思ってるよ、僕は」
「なら放っておいてくれない?新羅の大事な運び屋には関係ないんだからさ」
「だけどね、臨也。君たちの様子がおかしいことが気になるくらいには、友人だと思ってるよ」

青臭い言葉だったかな、と新羅は思うけれど、これくらいでなければ少々歪んだ感性を持っている臨也には通じないだろう。
射抜くように臨也の目を見れば、光の加減で赤く見える臨也の目が、かすかに揺らいだような気がした。

「なら新羅、協力してくれる?」
「……何を?」
「シズちゃんから、俺を消すことに」

臨也の口元に再び笑みが戻った。もう、臨也の考えていることを推測するのは無意味だろう。
新羅は内心、ため息を吐いた。


つづく


新羅視点な感じで進んでいこうと思います。
新羅大好きです。


11.10.21


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