分からない、解りたい

サイケのことは好きだ。でも嫌いだ。
手を引かれながら目の前を歩く背中を見て、デリックは舌打ちをした。
折原臨也のことなんて、正直なところ、デリックはどうでもよかった。サイケのオリジナルだから、気にならないわけではない。しかし、どうでもいいと思っている。
どうしてサイケはこんなに気にするのだろう。デリックには分からない。

「ねえ、デリック」
「……なんだよ?」

何かを企んでいることは分かる。でも、何を考えているのか分からない。
分かりたいと思うデリックの気持ちを、サイケはいつも裏切るのだ。まるで、分かってほしくないかのように。
デリックはサイケのことが好きだ。でもそれは、サイケしかいなかったからかもしれない、とサイケは思っている。
そんなの、関係ないとデリックは思っているのに。

「平和島静雄さんは、やっぱりデリックと同じ声をしているのかな」
「……同じなんじゃねぇの?」

平和島静雄のことをサイケが気にすると、デリックは気に入らない、と単純に思う。何が気に入らないのか、うまく説明はできないけれど、とにかく気に入らない。
どうしてサイケは折原臨也、平和島静雄のことばかり気にするのか、デリックには分からなかった。

「目も同じかな。楽しみだね、デリック」

に、とサイケが笑う。この笑顔は嫌いだ。デリックが嫌っていることを、サイケは知っているのだろう。
嫌な奴だ、と思うけれど、離れたいとは思わない。デリックには、サイケと離れたときの自分が想像できない。
ぎゅ、と手を握り返してみる。楽しみなんかじゃない。全然。

「デリック?」

驚いた目でサイケがデリックを見る。ちょっとだけ、気分がよくなった。

「……早く行こうぜ」
「うん、そうだね」

握り返された手が熱い。サイケの体温を感じると、デリックは少し心が落ち着く。それから、どうしようもなく落ち着かない気持ちになる。
サイケにだけだと思う。こんな気持ちになるのは。多分、そうなんだとデリックは思う。

「折原臨也、か……」

臨也に対しても同じ気持ちになるのだろうか、とデリックは考えた。思わず口から出た言葉に、サイケの手がピクリと反応する。
ぎゅう、と痛いくらい手を握られて、デリックは眉を顰めた。

「早く会いたいの?」
「……興味はある」
「そう。なら早く行こう」

サイケの機嫌が悪くなった、と気付いたけれど、その理由がデリックには分からない。聞くのも躊躇われて、いつもそのままにしてしまう。
サイケは何を望んでいるんだろう。デリックには分からない。
繋いだ手に力を込める。決してサイケが痛くないように。

「デリックは、さ」
「なんだ?」
「やっぱりいいや。何でもない」

本当は良くないくせに。そう思いながら、デリックはあえて追求しない。どうせサイケは答えてくれないだろうから。



*****



「ふーん……」

新宿のとあるマンション。パソコンのモニターに向かう男は楽しそうに笑う。
艶やかな黒髪に、赤みを帯びた怜悧な瞳。折原臨也は物珍しい情報に小さく喉を鳴らして笑った。
新宿駅付近で、“折原臨也”と“平和島静雄”が手を繋いで歩いていた、という情報だ。
もちろん、臨也はそんなことをしていないし、静雄が池袋で働いているという動きも掴んでいる。
ならば、この“折原臨也”と“平和島静雄”は誰なのだろう。

「……面白くなりそうだね。ねえ、シズちゃん」

片手に持った携帯には、静雄の電話番号が表示されている。ピ、とボタンを押して静雄にかけた。
静雄の携帯には臨也の電話番号なんて登録されていない。コールを繰り返し、留守電になると臨也はまた小さく笑った。

「シズちゃん、面白いことが始まりそうだよ。君が関わってるとは思わないけど、後でうちにおいで」

それだけ言うと、臨也は電話を切る。
何か面白いことが始まるような、そんな予感がした。


つづく


'10.12.20


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