真実と幻想

サイケはずっと考えていた。隣にデリックがいる、その意味を。
当たり前のように傍にいた。生まれたときからずっと、サイケは片時もデリックから離れたことがない。
愛しているのだと、最初に気付いたのはデリックが“折原臨也”の写真を興味深そうに眺めていたときだ。
気に入らない、と思った。臨也はサイケにとって、オリジナルである。

「折原臨也ってどんなやつなんだろうな」

逃げ出す直前、デリックがぽつりと呟いた。その一言がサイケの耳から離れない。
どうしてデリックが折原臨也を気にするの、と言いたくなったけれど、その一言は飲み込んだ。かっこ悪い。
逆にサイケが平和島静雄さんはどんな人なんだろうね、と言えば、デリックは首を傾げて黙り込んだ。
ヤキモチを妬いてくれたら嬉しかったのに、と思ってサイケはため息を着く。
新宿に着いた。もうすぐ折原臨也の家がある。

「道、分かるのか?」

迷いなく歩くサイケに、デリックが不思議そうに問う。サイケはにこりと笑うと、分かるよ、とだけ言った。
サイケが笑うたび、デリックが複雑そうな顔をすることくらい、知っていた。デリックは表情が乏しいけれど、それくらい分かるほどには傍にいる。

「どんな人なんだろうね」
「は?」
「折原臨也さんは、やっぱり俺と似てるのかな」

似ているだろう。姿形は同じはずだ。
問題は中身だった。臨也のことを情報程度には知っている。けれども、実際の折原臨也をサイケは知らない。

「……似てるんじゃないか?」

素っ気なく言うデリックが、サイケは無性に愛しくなった。
デリックはサイケのものだ。臨也には渡さない。サイケはそう思っている。
臨也だけではない。他の誰にも渡したくない。
デリックだけがサイケの存在を肯定してくれる。サイケだけがデリックの存在を肯定できる。
デリックを傷つけるのも、癒すのも、愛するのも、全部自分だけでいい。他の誰もいらない。

「どうした?」
「ん?」
「妙な顔してた。何を企んでる?」

デリックは侮れない。サイケは内心ため息を吐くと、小さく笑った。

「さあ、何だろうね?」

チッ、とデリックが舌打ちをする。こういったやりとりをデリックが嫌うことくらい、サイケは理解している。だからこそ、そうするのだ。
愛してる。誰よりも。けれどもその愛が本物なのか、サイケは知らない。きっとデリックも知らない。
サイケはデリックがもっとも嫌う笑みを浮かべると、その手を取って歩き出した。


つづく


'10.12.04


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