始まりの合図

好きだと言えずに嘘を吐いて、嫌いと言ってしまう人たちがいる。
不器用で、曲がっていて。でも、まっすぐで。そんな人たちのために、二人は生まれた。

「おはよう、サイケデリック静雄」
「おはよう、サイケデリック臨也」

真っ白なコートにピンクのコードが繋がったヘッドフォン。サイケは表情を変えないままデリックを見つめる。
真っ白なスーツにピンクのコードが繋がったヘッドフォン。デリックも同じように表情を変えないままサイケを見つめる。
二人は対である存在だ。同時に生まれ、同時に自我を持った。

「それでうまく逃げ出せたけど、これからどうする?」
「さあな……」

興味なさそうに言うデリックに、サイケは肩を竦めた。
二人はクローン技術によって生み出された存在。戸籍はなく、親もない。正式な名前もなく、ただ、折原臨也と平和島静雄を元にした存在であることだけを知っている。
何のために生まれたのか、サイケもデリックも知らない。知らないまま、生まれ育った場所を逃げ出した。
どこへ行けばいいのか分からない。ただ、自由が欲しかった。

「ねえ、デリック。“折原臨也”に会いたくない?」
「は?」
「俺は“平和島静雄”さんに会いたい」

表情のない顔でサイケが笑う。きっとその表情は、デリックにしか分からないだろう。
デリックはまっすぐサイケを見返した。その目に迷いはない。
最初からデリックには選択肢なんかないのだ。サイケの手を取って逃げ出したあのときから、デリックにはサイケを信じてついていくしか道はない。
デリックには、最初からサイケしかいないのだ。サイケにも、最初からデリックしかいないように。

「会いに行こう。俺たちの元になった人たち。俺はきっと、“平和島静雄”さんに恋をするかもしれない」
「……俺は、“折原臨也”に恋をするかもしれない」
「そうだよ、デリック。僕たちは本当の恋を見つけるんだ」

サイケはデリックを愛している。だけどそれは、デリックしかいないからかもしれない。
デリックはサイケを愛している。だけどそれは、サイケしかいないからかもしれない。
それは本当の恋なのか、サイケもデリックも知らない。だから知りたいと思った。
サイケの指がデリックの頬に触れる。優しくて、暖かい。これだけは絶対的な真実で、デリックにとって、唯一知っている温もりだった。

「アイしてるよ、デリック。でも俺は、“平和島静雄”さんを好きになるかもしれない」
「本当にお前は、自分勝手だな」
「分かってる。でもね、デリック。君も“折原臨也”を好きになるかもしれない」
「そうかもな」

サイケはデリックと同じように生まれた。けれども、デリックが知っていること以上の何かを知っているような、そんな気がする。
そういうとき、デリックは少し淋しい、という気持ちになる。

「俺は愛が知りたいんだ。だけどデリックのことも手放す気はない」
「ついてこいってか……」
「そういうこと。楽しみだね、デリック」

サイケにわずかだけれど表情が生まれる。デリックは小さく舌打ちをすると、不服そうな目でそれを見ながら頷いた。


つづく


'10.11.18


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