追いかけると逃げて行くらしい

もう白状してしまえ。臨也はそう開き直ったら早かった。
静雄が悪いのだ、というのが臨也の言い分である。
臨也にしてみれば、静雄は反則が多すぎる。
殺すと喚くくせに、ふとした瞬間に心配するような顔をする。

「告白するんだ?意外だね」

誰かに聞いてほしくて、臨也はその相手に新羅を選んだ。
話を聞いた新羅がそう言って笑うと、臨也は小さく笑った。

「そうでもしないと、危ないんだよね」
「危ない?」
「シズちゃんの場合さ、無意識だから困るんだ。言動に計算がない。なさすぎる」

決意を決めてからでなければ、この口は何を言うか分からない。
それだけでなく、何をするか分からないのだ。
高校生じゃあるまいし、臨也はそんなみっともない真似はごめんだった。

「シズちゃんが好きだ。もしかしたらさ、これって俺の初恋かもね。どうしたらいいのか分からなくなるくらい、シズちゃんが好きだよ。俺は人間を愛しているけど、シズちゃんのことは好きなんだ」
「なるほど、ね……そういうことらしいよ、静雄」

新羅の言葉に、臨也はぴたりと固まる。
今、新羅は何と言ったのか、頭の中で反芻する。

「シズ、ちゃん……?」

ガタン、と驚くくらい大きな音がしたあと、静雄がリビングを走り抜けた。
臨也はそれを見ながら、動き出せない。
静雄がいた。新羅のマンションに。おそらく、臨也が来るよりも前に。

「ハメたね、新羅……」
「早く追い掛けないと逃げられちゃうよ?」
「言われなくてもそうするよ」

とんでもない友人だ。
臨也は舌打ちをすると、携帯を取り出しながら静雄を追い掛けた。


恋ってやつは――追いかけると逃げて行くらしい。


つづく


お題元:(C)確かに恋だった


'10.10.19〜12.08 七草


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