勝手に大きくなるのを止められないらしい
さて、どうしたことか。
最初に自覚をした瞬間から、臨也は静雄の顔が見れずにいた。
「よそ見するとは……余裕じゃねぇか!」
はっきり言って、ドキドキする胸の鼓動が治まらない。
みっともないかもしれないが、静雄と目を合わせたら、きっと臨也は頬が熱くなっていくのを止められないだろう。
いい年をして、ウブな乙女じゃあるまいし。そんな顔を晒すわけにはいかない。
「……何でシズちゃんはいつも通りなのさ」
「あ゙ぁ?」
臨也が不満そうにぽつりと漏らした言葉を、静雄は聞き取れなかったらしい。
臨也は観念したように両手を上げると、ため息を吐いた。
「悪いんだけど、今日はシズちゃんとやり合う気ないんだよね」
「手前になくてもこっちにはあんだよ!」
「じゃあ、しばらく池袋には来ない。これでいい?」
臨也の提案に、静雄は目を見開いた。よほど驚いたらしい。
臨也はそんな静雄に笑ってみせると、くるりと踵を返した。
ナイフを向けたいとは思えない。本当に、静雄とは殺し合う気分じゃなかったのだ。
「……どっか悪いのかよ?」
歩き出そうとしていた臨也に、静雄がぽつりと尋ねる。まるで静雄は臨也の心配でもしているかのようだ。
臨也は咄嗟に口元を手で隠した。
「気分じゃないって言ったでしょ?」
「まあ、そうだけど……」
納得していない様子の静雄は、じっと臨也を見ている。
その気配を感じながら、臨也は振り向くことができなかった。
どうかしている。静雄が心配してくれることが、嬉しくて堪らない、だなんて。
恋ってやつは――勝手に大きくなるのを止められないらしい。
つづく
お題元:(C)確かに恋だった
'10.09.27〜10.19 七草
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