些細なことをきっかけに生まれるらしい
出会い頭に臨也と静雄がばったり出くわす、なんてそうそうあることではない。
実際にそれが起こり、お互いに目を見合わせた。
いつもなら、どちらか一方が相手を先に見つけるのだが、今日は全く計算外だ。
途端に額に青筋を浮かばせる静雄を見て、臨也はやれやれと肩を竦めた。
「池袋に来て早々、シズちゃんに会っちゃうなんて運がないなぁ」
「来んなっつってんだろ!いーざーやぁ」
「またそれ?聞き飽きたよ」
へらりと笑うと、臨也はじっと静雄を見た。
「シズちゃんさぁ、そんなふうに俺のことばっかり追い掛け回して、そんなに俺のことが好きなの?困ったなぁ」
「ばっ……馬鹿言ってんな!」
その瞬間、目を疑った。
目の前にいるのは平和島静雄だ。
池袋最強だとか、自動喧嘩人形だとか言われている静雄だ。
その原因の一端を担う臨也は知らないはずがない。
「シズ、ちゃん……?」
「クソっ……死ねっ!」
「え、いや、あの……」
静雄は顔を真っ赤に染めている。思わず、臨也は言葉を失う。
だって、静雄なのだ。
それなのに、
「か、可愛い……?」
「馬鹿にすんじゃねぇ!殺す!絶対殺す!」
自然とその言葉が口から出ていた。
初めてだ。男を可愛いだなんて思うのは。
振り回された標識を避けながら、臨也は自分の顔が熱くなっていくのを感じた。
「うそ、でしょ?ねぇ……」
そのまま路地裏へと逃げ込む。
どうかしている、と臨也は思った。
まさか、静雄に恋をするだなんて。
恋ってやつは――些細なことをきっかけに生まれるらしい。
つづく
お題元:(C)確かに恋だった
'10.08.25〜09.11 七草
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