はじめてのこころ(10000hitフリリク)

※Psychedelic Days設定な臨静+サイ津+子静


静雄が遊びに来るたび、子静の心は華やぐ。
津軽と似ているけれど、津軽とは違う。そんな静雄が子静は大好きだ。

「シズちゃんシズちゃん!」
「なんだ?」

呼べば応えてくれる。それが子静は嬉しい。
静雄が臨也の恋人であると子静はよく知っている。
それでも、自分が読んだときに振り向く静雄だけは、子静だけの静雄だ。

「らぶ!」
「は?」
「シズちゃん、らぶ!こしず、シズちゃんすき!あいしてる!」

精いっぱいの想いを伝える。それ以外、子静は言葉を知らなかった。
静雄は一瞬目を丸くすると、すぐに優しく微笑んだ。

「ありがとな」
「シズちゃんは?」
「ああ、俺もお前のこと好きだぜ」

優しく静雄が笑う。子静は嬉しくなった。
好きという言葉に、二つの意味があることを子静は知っている。
今の静雄が言う好きは、静雄が臨也に向ける好きとは違うことも、知っている。
それでも、嬉しいことに変わりない。子静は静雄が大好きなのだから。

「シズちゃん、もっとあそびたい!」
「あー、そうだなぁ……ここにはあんま来たくねぇんだけどな」
「どうして?」

こてん、と子静が首を傾げると、静雄は困ったように笑う。

「あいつが作ったとは思えねぇな……」

その言葉の意味が、子静には分からない。
困ったような静雄の顔を見つめていると、臨也が静雄を呼んだ。
静雄の意識が、子静から離れる。

「シズちゃん、ちょっとこっち」
「んだよ、うぜぇ」
「あのさぁ、誰のために作ってると思ってるの?味見くらいしなよ」
「おー」

パソコンから静雄が離れようとする。
子静はそれを止める腕も体もない。

「シズちゃん!」

慌てて呼んだ声は、臨也の方にも聞こえたらしかった。
振り向く静雄の向こう、こちらへやってくる臨也が見える。

「どうかしたか?」
「シズちゃ……シズちゃん……」

悲しくないはずなのに、子静の眼から涙が溢れた。
静雄のことも大好きで、臨也のことも大好きだ。
そんな二人が恋人同士であると子静はよく知っている。
それなのに、涙が出る。

「な、泣くな!おいノミ蟲!どうすりゃいいんだよ!」
「そう言われてもなぁ……子静、どうしたの?」
「あ、うぇ……」
「うーん、、まいったな……サイケ、いるよね?」

泣いて応えられない子静を見て、臨也はサイケを呼ぶ。
ひょこ、と臨也が作った仕事用のフォルダから顔を出すと、サイケは驚いて子静の方へと駆け寄った。

「どうしたの?」
「さいけぇ……」

ぐしぐしと泣いたまま、子静がサイケに抱きつく。
画面内にいる子静を、臨也も静雄も抱き締めることはできないのだ。

「ちょっと子静を頼むね」

臨也はサイケにそう言うと、サイケは頷いた。
その間、静雄は心配そうに子静を見ていた。

「悪い、子静。なんか悪いこと言ったか?」
「んーん、ちがう……ふ、ふぇ……」
「無理に泣きやまなくていいぞ。そういうときは泣け」

静雄がそう言うと、子静は小さく頷いて泣いた。サイケの腕に抱かれながら、静雄の言葉に励まされて。
そうしている間に、子静は泣き疲れてそのまま眠ってしまった。

「悪いな、サイケ」
「ううん、大丈夫だよ。でもめずらしいね。子静がこんなに泣くなんて」
「何かしちまったか?」

尋ねる静雄に、サイケは困った顔で笑う。
サイケには、子静が泣いた理由が何となくではあるけれど、見当がついている。
しかし、それをサイケから静雄に伝えるのは、フェアではない。

「大丈夫だよ、シズちゃんが悪いわけじゃないから」
「そうか?いや、でもな……」
「じゃあ子静のために子静が起きるまでいてくれる?」
「あ、ああ」

サイケの手が子静の頭を撫でる。
幼い頃、静雄が求めた優しい手だ。

「頼むわ」
「うん、じゃあまたあとでね」

子静を抱いたまま、サイケはフォルダに戻る。
それを見送ってから、静雄は小さく息を吐いた。
理由は分からないけれど、泣かせてしまったのは事実。
子静が目を覚ましたら、ちゃんと謝ろうと、静雄はそう思った。


****


「シズちゃん!」

元気な声に呼ばれ、静雄はパソコンを覗き込む。
そこには先程泣いていた子静が、にっこりと笑みを浮かべていた。

「もう、平気か?」
「だいじょうぶ!」
「そっか。なんか、悪かったな」
「んーん!」

ふるふると首を振ると、子静は不安そうに静雄を見上げた。
子供らしい、その態度に静雄は口元を緩める。

「どうした?」
「シズちゃん、なきむし、きらい?」
「嫌いじゃねぇよ。ただ、まあ……男が簡単に泣くな、ってのは思うな」

静雄がそう言うと、子静はうん、と頷いた。
プログラムでありながら、子静は本当の人間のようだ。
静雄は子供でもできたような、そんな気分になる。臨也が子静たちを可愛がる理由が分かったような気がした。

「おっきくなったら、まけない!」
「あ?」
「だから、まってて、ね!」

よく分からないけれど、子静の言葉に静雄は頷いた。
結局泣き出した理由は分からなかったけれど、途端に嬉しそうに笑う顔を見て、それでいいか、と静雄は微笑んだ。


おわり


10000hitフリリク企画にて、ユニ様よりリクエストいただいた、静雄に恋心を抱く子静、でした。
臨静←子静が個人的にドストライクでしたので、今後の連作でもこの設定を取り入れさせていただきます!
書き直し等がございましたら、遠慮なくおっしゃって下さい。
企画に参加いただき、本当にありがとうございます。


'10.10.24 七草


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