守りたいもの(10000hitフリリク)
※Psychedelic Days設定な臨静+サイ津+子静
「シズちゃん、こない……」
ぽつん、と子静が呟く。手はぎゅっと握られていて、淋しさを我慢しているようだった。
サイケはそんな子静を見つめて、困ったように笑う。
静雄が顔を見せなくなって、もう3週間も経つ。
子静だけでなく、サイケも津軽も淋しく思っていた。
「またマスターと喧嘩、なのか?」
「さあ?でもマスターは荒れてる様子なかったよね」
「ああ。いつも通りだった」
うーん、とサイケが考え込むと、津軽は子静の方へと行き、ぽんぽん、と頭を撫でた。
「津軽……」
淋しそうな目で子静が津軽を見上げる。
津軽は首を振ると、子静の頭を撫でた。
「シズちゃん、そのうちくるから」
「いつくるの?」
「……そのうち、だ」
津軽はフォローしようして出来ていない。
子静はますます泣きそうな顔になり、ぎゅう、と津軽の着物を握り込んだ。
「シズちゃん……」
まるで親を待っているかのようだ。
健気な子静の姿と、淋しく思いながらも慰めようとする津軽を見て、サイケはうん、と頷いた。
外に出られないサイケには、静雄を連れてくるなんてできないけれど、それでも何かしてあげたかった。
「マスター!」
二人のいるフォルダを出ると、サイケは別のパソコンに向かう臨也に声を掛けた。
「どうしたの?」
「シズちゃんが来ないって津軽と子静が淋しそうにしてるんだ」
「ああ、シズちゃんね……」
「……また喧嘩したの?」
臨也の表情が変わり、サイケはピン、ときた。また喧嘩をしたらしい。
臨也と静雄は愛し合っているくせに、よく喧嘩をする。
理由はサイケには分からないけれど、静雄が怒り、臨也が宥める、というのが常の流れだ。
しかし、今回はちょっと違うらしい。
「怒ってるよね?今度は何があったの?」
臨也が怒りを見せるのは、そう多くない。
静雄に対して怒っているのだとしたら、サイケの知る限りでは、めずらしい部類に入る。
このまま喧嘩別れなんてことにはならないだろうけど、臨也の様子が些かおかしい。
「サイケはシズちゃんのこと検索できるんだよね?」
「え?うん?」
「ならしてみなよ。本当に、シズちゃんは馬鹿だよねぇ」
怒っているのか、今の臨也はよく分からない。
サイケは首を傾げると、検索のためにインターネットのアイコンを叩いた。
そこに触れると、たくさんの情報が流れ込んでくる。それをサイケは自分でまとめ、一番関連度の高い内容を頭に入れた。
「それで怒ってるの?」
「まあ、そんなところ。さすがに理解が早いね」
「そう作ったのはマスターだよ」
どうやら静雄は、めずらしく怪我をしたらしい。
とはいえ、驚異的な回復力の持ち主であるため、病院で入院、というようなことにはなっていないらしい。
今回の怪我は、臨也とは全く関係がない。
おそらく臨也は、それが気に入らなかったのだろう。
「独占欲が強い、っていうのかな。怪我した恋人を放っておくのもどうかと思うよ?」
サイケが言えば、臨也は複雑な顔をした。困っているような、怒っているような、拗ねているような。
「シズちゃんがね、怪我のことは俺に知らせるなって言ったらしいんだよ」
「え?」
「しかも、池袋に行っても避けられてるみたいだし、メールしても電話しても通じない」
正解は、拗ねている、だったらしい。サイケは思わず笑ってしまった。
臨也は時々、ひどく普通のことを見落とす。
誰よりも早く静雄の情報を手に入れられるくせに、その情報を有効活用しないことが多い。
「シズちゃんもマスターも、複雑だね」
「そうかな?」
「二人とも負けず嫌い、なのかな。素直になればいいのにね」
そろ、とフォルダから顔を見せる子静と津軽が見えた。
サイケはそちらににっこり笑うと、臨也の方を向き直った。
「マスター、シズちゃんへの伝言。子ウサギが二人淋しくて死んでしまいそうです、会いに来て下さいって送ってくれないかな?」
「なんかもう、すっかり保護者だね。参ったな、サイケには」
「そう作ったのはマスターだよ」
そう言って笑うと、サイケはフォルダの方へと戻って行った。
「シズちゃん、来る?」
「さあ……いつになるか分からないけど、来てくれると思うよ」
「そうか……よかった」
津軽も子静も安堵したような顔になる。
翌日、怪我をしたままの静雄がやってきて、また折原邸ではちょっとした騒ぎが起こるのだった。
おわり
10000hitフリリク企画にて、燕尾様よりリクエストいただいた、静雄に会えずしょげる津軽&子静と、何とかしようとするサイケ、でした。
もうすっかりサイケは保護者ポジションですね。書いていて楽しかったです!
書き直しも受け付けますので、どうぞおっしゃって下さい。
このたびは企画に参加いただき、本当にありがとうございます。
'10.10.23 七草
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