その男、酔っ払いにつき(10000hitフリリク)

今日は性急な仕事もなく、夕方には仕事を終えられた。キレること3件。取り立てはスムーズにはいかなかったのではあるが。
いつもならそのまま帰るのだが、トムの誘いで飲みに行くことにした。
基本的に酒を好まない静雄だが、誘われれば付き合う。
そうして居酒屋へと足を運んだのだった。
席に案内されてすぐ、静雄は臨也の存在に気付いた。
どうやら、一人で飲んでいたらしい。

「シズちゃんってさぁ……本っ当にムカつくよね」

静雄が気付くより早く、臨也は静雄たちに気付いていたらしい。
赤い目と視線が交わった。
顔が赤い。喋り方がいつもより鈍い。
いつから、どれくらい飲んだか知らないが、臨也は完璧に酔っ払っている。
ふらふらと立ち上がると、臨也は静雄の腕を掴んだ。

「シズちゃんの、ばぁーか」
「あ゙ぁ?」

周りの人間は二人に気付いていない。
賑やかな店内では、誰も静雄たちのテーブルを見ていないからだろう。
静雄は内心舌打ちをした。
トムがいる手前もあるし、何より店内で暴れてしまえば被害は大きい。静雄はキレないよう、自分と戦っていた。

「絡んでくんな、うぜぇ!」
「浮気、よくないよね」
「は?」
「実によくない!」

顔が近い。静雄は思わず身を引いた。
椅子に座っているから、思うようには動けないが。

「俺はこぉーんなにシズちゃんのことらいすきなのにさ、シズちゃんはいっつもこの人といるじゃない」

ビシ、と臨也がトムを指差す。
静雄がその手を叩き落としてからトムの方を見ると、トムは困ったように笑って肩を竦めた。

「いひゃいよ、馬鹿シズちゃん!」
「うるせぇ!一人で酔っ払ってりゃいいだろ、寄ってくんな」
「なんれシズちゃんはわかってくれないかなぁ……」

くてん、と臨也が静雄の肩に顔を埋める。本当に酔っ払いは何をするか分からない。
すりすりと頬を寄せてくる臨也に、静雄は怒りを忘れてしまった。
まるで、猫か何かのようだ。

「……好きなのにさ」
「は?」

ぽつりとそう残すと、臨也はそのまま眠ってしまった。ずるずると力の抜けた体は、静雄の膝に抱きつく形で止まる。
何がどうしてこうなった。
ぐてんぐてんに酔っ払っている臨也を見下ろし、静雄は硬直したまま動けなかった。

「あー……なんだ、その……そいつんち知ってんだろ?送ってやったらどうだ?」
「こんなノミ蟲表に捨てときゃいいんすよ」
「そのままじゃ動けないだろ?」

トムが臨也を指差す。
確かに、このままでは静雄は身動きが取れない。

「何なんっすかね、これ」
「さあなぁ……」

静雄には臨也の行動が今一つ分からない。
確か、静雄の記憶が確かなのであれば、臨也はあまり酒を好んで飲まない。
静雄が飲まない、と言ったときに、確か新羅がそんなようなことを言っていた。

「シズちゃん……」

しがみついたまま、眠ってしまった臨也はいつもよりずっと幼く見える。
静雄は呆れたようにため息を吐いた。何が悲しくて、嫌いで仕方ない相手にしがみつかれなければならないのか。
静雄は立ち上がり、臨也の腕を掴むと無理矢理引きはがして立たせる。
しかし、臨也はすぐにくたりと静雄にもたれかかった。どうやら、起きないらしい。

「おい、ノミ蟲」

声を掛けても目は開けない。すりすりと首元にすり寄ってくる始末だ。
まるで、猫だ。静雄はまたため息を吐いた。

「すんません、トムさん」
「いや、いいって。それよりそいつ、ちゃんと送ってやれよ?」
「そんな義理はないんすけどね」

静雄は臨也を肩に担ぐと、トムに頭を下げて店を出た。



*****



臨也の家は知っている。わざわざそこまで運ぶと、静雄は勝手に臨也のポケットから鍵を抜いた。

「ん、んん……シズちゃん……?」
「やっと起きたか……」

そうしてようやく起きたらしい。いつもより甘えたような声で臨也が静雄を呼ぶ。
気色悪い、と静雄は思うものの、嫌悪感はそこまで感じていなかった。

「ったく、何なんだよ、手前」
「何って……何なんだろうね」
「あ゙ぁ?」
「俺にだってよく分からないよ。あーあ、酒なんて飲むものじゃないね」

静雄が手を離すと、臨也はぐっと伸びをする。もう酒は抜けたのだろう。
ため息を吐くと、静雄はまっすぐ臨也を睨みつけた。

「ああ、でもねシズちゃん、嘘は言ってないよ」
「は?」
「全部本心だから」

にこりと笑うと、臨也は静雄の手を掴む。意図が分からない。
静雄がまだ睨み続けていると、不意に臨也の顔が近くなる。

「好きなんだよね、シズちゃんのこと」

そう言うと、臨也の唇が静雄の口に触れる。一瞬だった。
すぐに離れると、臨也は慣れた手つきで鍵を開ける。

「泊まってく?」

にこりと笑う臨也に、静雄は舌打ちをすると臨也を抜いて部屋に入った。

「飯食い損ねた。手前のせいだからな」
「そうこなくっちゃね」

臨也が機嫌良さそうに笑う。まだ酒が残っているのか、と疑いたくなる。
しかし静雄は、それはどうでもいいことだ。

「飯、さっさと作れよ」
「りょーかーい!」

臨也が楽しそうに笑うものだから、静雄はつられて口元を緩めた。


おわり


10000hitフリリクにてCHIAKI様よりリクエストいただいた、酔っ払い臨也でした。
酔っているのをいいことに好き放題やらせてみました!
よっぱらいざやいいですね…楽しいです!!
書き直しも受け付けておりますので、何かご要望ありましたらおっしゃって下さい。
企画にご参加いただいて、本当にありがとうございます。


'10.10.23 七草


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