素直な俺と嘘吐きな君(10000hitフリリク)

臨也が最初に静雄を好きだと自覚したのは、一体いつのことだったのか。考えても分からない。
ただ、気が付いたらもう、その姿を目で追っていた。
静雄は不思議な魅力を持つ男だ。一種の、憧れにも似た感情だったのかもしれない。

「シズちゃんってさ、本当に暴力的だよね」
「黙れ!死ね!今すぐ息するのをやめろ!」

飛んでくる標識、自転車、自動販売機を避けながら、臨也は小さくため息を吐いた。
この暴力、圧倒的な力は静雄だけが持っている。
羨ましいと思う臨也ではなかったけれど、いっそ、純粋だと思えた。
好き、と思ったのは、多分、静雄が喧嘩をしている姿を見たのが始まりだったのかもしれない。

「ねえシズちゃん、俺まだシズちゃんのこと好きなんだけど」

その言葉を口にするのは、6年ぶりだ。
高校を卒業する前、臨也は同じように静雄にそう告げた。
もちろん、答えはもらえなかった。本気と取ってもらえなかったらしい。
ガシャン、と派手な音を立てて路上に止まっていた原付が落ちる。

「シズちゃん?」

原付を振り上げた状態のまま、静雄が固まっていた。
訝しく思いながら臨也が名を呼ぶと、静雄は驚きを隠さないまま臨也を見つめる。
なぜだかよく分からないけれど、ひどく可愛らしく見えた。
惚れた弱みだろう、と臨也は内心ため息を吐く。

「え、あ?なん……」
「あれ?もしかして、驚いてるの?何で?だって俺、6年前にも言ったよね?好きだ、ってさ」
「だ、なっ……手前っ……」

静雄がかっと顔を赤くさせる。臨也は何だか歓びを感じた。
どうやら6年前の告白は嫌みとしか取ってもらえなかったが、今の言葉はきちんと伝わったらしい。
これで答えがもらえるかもしれない。
それはおそらく、イエス、と臨也は信じている。
何しろ静雄は、嫌いだ、殺してやる、と言っておきながら臨也を殺したりなどしないのだ。
自信過剰かもしれない。けれども、臨也は確信していた。

「あ……あり得ねぇ!手前脳みそ入ってんのかよ!」
「やだなぁ、シズちゃん。本心だよ」
「だったら病院行ってみてもらってこい。あり得ねぇだろ!手前が俺を……と、とにかく死ね!今すぐ死ね!」

臨也の胸倉を掴むと、静雄は頬を赤く染めたまま睨み付ける。
そんな顔をされたって、臨也にはもう可愛いとしか思えない。
にこりと臨也は笑う。

「どうしたら信じてもらえるんだろうね?」
「どうしたって信じられるかよ。俺は手前が嫌いだ!」
「シズちゃんがそうやって嫌いって言うのってさ、俺だけだよね」
「あ゙ぁ?」

思う通りに反応してくれる静雄を見ると、臨也は妙な高揚感に包まれる。
支配欲が働く。誰にも支配することなんてできやしない静雄を、支配したいと強く思った。

「それってさ、強く意識してるってことだよね。つまり、シズちゃんも俺のことを好きになる可能性があるんだと思うんだ」
「自信過剰すぎんだよ、手前はよ……」

静雄が舌打ちをする。その目は、まっすぐ臨也を睨み付けていた。
静雄はいつだってそうだ。誰が相手であろうと、まっすぐ見つめる。
ただ、人の顔と名前を覚えるのは苦手としているのか、覚えることはほとんどないのだけれど。

「自信過剰とも、思えないんだけどね」

臨也と名前を呼ばれるたび、目が合って追い掛けられるたび、内心臨也は喜んでいた。
面倒であることも確かなのだが、静雄が臨也を意識していると感じられるからだ。
あまり人の名前を覚えない静雄だからこそ、余計に。
もちろん、静雄の意識が自分に向くように仕向けたのは、臨也自身だけれど。

「とにかく、俺は手前が嫌いだ!す、好きだとか、言われても……うぜぇだけだ!」
「とか何とか言っちゃって。顔赤いよ?本当は嬉しいんでしょ?」
「冗談じゃねぇ!手前なんかに好きとか言われて喜ぶわけねぇだろ!勘違いしてんじゃねぇよ!」

臨也を掴んでいた手を離し、静雄は赤くなった顔を抑える。
日頃好意を向けられることが少ないからだろう。
可愛くて堪らない。

「……嘘吐き」

臨也はひっそりと笑う。これだから、静雄を想ってやまないのかもしれない。
誰よりも傷付けたくて、誰よりも傷め付けたくて。
そうして、誰よりも愛したい。
歪んでいると臨也自身自覚している。けれども、もう止められないのだ。


おわり


10000hitフリリクにてヤツハ様よりリクエストいただいた、ツンツンツンデレな静雄、でした。
ちゃんとツンデレになってるのでしょうか…精いっぱい楽しんで書かせていただきました!
書き直しも受け付けておりますので、何かご要望ありましたら申し付けて下さい。
企画にご参加いただき、本当にありがとうございます。


'10.10.17 七草


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