こいびとってなに?(10000hitフリリク)

※Psychedelic Days設定な臨静+サイ津+子静


子静は知っている。臨也と静雄、それからサイケと津軽が“恋人”であると。
恋人、という言葉を辞書で検索してみたのだが、やはり子静にはよく分からなかった。

「シズちゃん、今度どこか出掛けようか」
「はぁ?どっか行きたいところでもあるのかよ?」
「特にはないけど」
「……意味分かんねぇ」

今日は静雄が遊びに来ている。
子静はモニター越しに聞こえる会話を聞いていた。
本当はシズちゃんシズちゃんと呼んで構ってほしかったのだが、今日はどうしても知りたいことがあったのだ。

「シズちゃん分かってないなぁ」
「あ゙ぁ?」
「デートのお誘いなんだけど」

にこりと臨也は笑う。
それはサイケや津軽、子静たちに向ける笑顔とは全く違う。静雄だけに見せる特別な笑顔だ。
子静はその笑顔の意味は分からないが、自分に向かう顔と違うのだけは知っていた。
臨也のことも静雄のことも大好きな子静だけど、そういうときは少し、淋しさを感じる。
ちら、とモニターの外ではなくちょっと離れたデスクトップの角を見る。サイケと津軽の歌声が聞こえた。

「あ、またつっかえちゃったか」
「俺は元々唄うようにはできてないからね。津軽、歌うまくなったね」
「……そうか?」
「うん、音楽のことはよく分からないけど、伸びるところがすごく綺麗だよ」
「あ、りがとう……」

津軽が照れ臭そうに笑い、サイケはそんな津軽を見て嬉しそうに笑っている。
そんな笑顔も、子静に向けられるものとは違う。
だから子静は単純に思ったのだ。その笑顔は、恋人の証なのだ、と。

「こしず、こいびと、いない……」

サイケは言った。胸のあたりがドキドキするのは、恋をしているからだ、と。
津軽は言った。恋人は大切の中でも特別なのだ、と。
子静にはそんな相手はいない。サイケも津軽も、もちろん臨也も静雄も大切だけれど、胸のあたりはドキドキしたりしない。

「こいびとって、なんだろう……」

モニターの向こうで、臨也が静雄の手を引いた。
ソファーに座っているせいでバランスを取り損ねたのか、静雄はそのまま臨也の方へと倒れ込む。

「ねえシズちゃん、俺のこと、好き?」
「ば、ばか何言って……!」
「俺はシズちゃんのこと好きだよ」
「お、れも……すき、だ……」

余裕たっぷりの臨也の笑みと、頬を赤くしている静雄の顔。それから、二人がキスをした。
子静はその場面を見ていて、何だか自分まで照れ臭くなって咄嗟に顔を背けた。
あれは、恋人同士の特別なキスだ。

「どきどき……?」

胸のあたりが落ち着かない。緊張しているのとは、また違った感覚だ。
顔が熱くなるのを、子静は感じてぶんぶんと首を振った。
なんだか、よく分からない。
誰かに聞いてほしくて、サイケと津軽の方を見る。
そちらも仲良さそうに唄を歌っている。

「サイケの歌、好きだな」
「俺も津軽の歌好きだよ。津軽の歌声は強くて、優しいよね」
「そうか?俺はサイケの声の方が優しいと思うぞ」
「津軽の声は特別だよ」

くすくすとサイケが笑い、津軽は穏やかに笑う。
いつもと全く同じであるはずなのに、それが恋人同士だから、と認識すると子静の方が照れ臭くなる。

「らぶらぶ、ってこと?」

こてん、と子静は首を傾げる。
子静が間にいるときでも臨也と静雄、サイケと津軽は仲が良いけれど、二人きりのときは何か違う。
ネットで検索した知識でしか、子静は恋も恋人も知らない。

「こいびと、たいせつ」

思考をまとめるように、子静はぽつりぽつりと呟く。

「すき。だいすき。あいしてる」

その言葉は温かい言葉だ、と子静は思っている。
臨也も静雄もサイケも津軽も、その言葉を口にするときは何だか幸せそうなのだ。

「わかった!」

一番新しい検索データを取り込んだとき、子静は大きな声を出す。
臨也と静雄、サイケと津軽の意識がようやく子静に向いた。

「どうしたの?」
「何かあったのか?」
「分かったって?」
「子静?」

優しい顔だ。子静はにっこりと笑ってみんなの顔を見る。

「あのね、しらべたの!」
「何を?」

きょとんとした顔でサイケが問う。
不思議そうにしているサイケに向かって、子静は自信満々にびしっと人差し指を立てて前に出す。

「ますたーとシズちゃん、さいけとつがるは“ばかっぷる”!」

にぱっと笑って告げる子静の言葉に、全員が目を丸くして互いを見遣った。
ちゃんと伝わらなかったのかと思い、子静は一度首を傾げた。

「ちがうの?だって、こいびとどうし、らぶらぶ、まわりみえない、いこーる、ばかっぷる、じゃないの?」

きょろきょろとあっち見たりこっち見たりしながら、子静は不思議だった。絶対当たりだと思ったのだ。

「いや、うん……まぁ、否定はできないよね」

困ったように笑いながら臨也が言う。静雄は不服そうに眉を顰めていたが、その顔は怒っている時ではなく、照れているときの顔だ。

「バカップル、か……なんか照れ臭いね」

サイケは困ったように笑いながらも、少し嬉しそうだ。津軽も同じ顔をしている。

「あたり?」
「うん、大正解だよ」

もう一度子静が尋ねると、臨也は笑って答えてくれた。
それが子静は嬉しくて、にっこりと満面の笑みを浮かべた。

「こしずも、こいびとほしい!」
「子静には早いよ」
「子静には早いね」

子静の言葉に臨也とサイケが同じ声を揃えて言うものだから、子静の中ではまた不思議が生まれるのだった。

「こしずには、まだ、はやい?」

こてんと首を傾げる子静を見て、静雄と津軽は小さく笑った。


おわり


10000hitフリリクにてリクエストいただいた子静から見たサイ津と臨静、でした。
おそらく、傍から見ると彼らは完璧なるバカップルだと信じてやみません!
書きなおし等受け付けておりますので、何かありましたら申し付けて下さい。
企画に参加していただき、本当にありがとうございます!


'10.10.15 七草


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